第366話: 魔王の策略3

 大地が揺れ、結界が解除される。

 それは巨大な狼の体躯がドシンと大地へと横たわった衝撃だった。


 先制攻撃で多少ダメージを与えられればくらいに考えていたんだ。だのに、まさかあの一撃で頭が落ちるとは⋯。

 今まで、そこまでの威力はなかったよな。限界突破リミッターブレイクもしてないってのに。一体何がどうなっているのやら。


「どうやらキミが一番乗りみたいだね。お疲れ様」


 いつの間にか背後にいたシリュウさんに労いの言葉と一緒に手渡されたのはまたしても怪しげな液体の入った小瓶だった。


「そんなに警戒しなくても、これを飲めば気分スッキリだよ?」

「いや、それ逆に怪しく聞こえるんですけど」


 どうやら魔王様から渡された魔力欠乏症回復の薬らしい。

 それならばと有り難く受け取り、ゴクリと一気に飲み干す。

 確かに凄い効果だ。一瞬で身体の不快感が消え去る。味は悪くない。少しだけ刺激があるな。炭酸水を飲んでる感じだろうか。


「はい、掴まって。元の場所に戻るから」


 再び視界が暗転した後、戻って来た場所は先程とは違う、別の荒野だった。


「ごめんなさいね。先代でも魔王は魔王様だから、私たち魔族は逆らえないんだよ」


 そのまま何故だか申し訳なさそうにこの場から転移で消えた。

 シリュウさんも割と気さくな感じだよな。話しやすいと言うか────。


 その時だった。禍々しい殺気が身体中を包み込む。


 この感じは体感したことがある。嫌な予感がして背後を振り返ると、そこには予想していた人物が臨戦態勢で腕を組みひっそりと佇んでいた。


「人族の小僧。我と相手をして貰おうか」

「はぁ⋯。何の冗談ですか、初代魔王様」

「拒否権はないぞ。なに、我も訓練を手伝ってやるだけだ有り難く思うがいい。あぁ、手加減はしてやらんからそのつもりでな」


 言葉を発するなり、こちらが構える隙も与えず見えない衝撃が脇腹を襲う。間一髪、ガードには成功したが踏ん張りが利かずにそのまま遥彼方へと弾き飛ばされる。


 どれくらい飛ばされたのか。だけど、ダメージはそんなにないな。手加減してくれたのか。それから今の拳、ギリギリ見えたか。


 めり込んだ岩肌から這い上がると、視界の先には、夥しい数の黒い気弾が初代魔王の周りを舞っている姿が映った。


 これ絶対やる気満々だろ。寧ろ殺す気で来てないか?


「死してその罪悔い改めよ」


 正確に狙いすました黒炎弾が全弾こちらへと向かってくる。転移で逃げようにも許可された者以外は魔界では転移が使えない。限界突破リミッターブレイクを使えば、同時に魔術を無効化出来る。だけどあれは恐らく自分の寿命を削っている。大きすぎる力には必ずしも代償が伴ってくる。なるべくならば使いたくはない。


 だったら、反射させてもらう。


 《全能力向上ブースト

 《魔術反射結界ターニングサークル


 間一髪、地面に描かれた魔術陣によって、黒炎弾が反射し術者の元へと戻る。


 アリオトは反射されたことを察知すると、反射される前の黒炎弾の狙いを反射された黒炎弾へと変更する。

 その数100を超える黒炎弾全てを一瞬で正確にコントロールし、相殺させた。


 一体いくつの思考回路があれば同時にあんなことが出来るんだよ⋯。


 爆風と黒煙とで視界は最悪だった。相手の姿は見えない。


 僅かな空気の変化を感じた直後、横なぎの蹴りが襲う。速度を上げたおかげか、今度はハッキリと視認できる。右手でそれを受けると、左手で正拳突きをお見舞いする。

 しかし、手応えはない。

 今度は上段から迫り来る踵落としを前方へ飛んでやり過ごすと、崩れた姿勢のまま《重力グラビティ》を発動する。


「中々やるではないか」


 あの感じはわざと避けなかったのか。にしても本気の重力グラビティだってのに、全く効いてるように見えないな。


「それは光栄ですね。でしたらそろそろ終わりにしませんか」

「馬鹿を言うな。貴様が死すまでこの訓練は終わらん」


 って、やっぱり殺す気満々じゃねえか!


 その時、突然現れた第三者に背後から殴られ、アリオトが姿勢を崩す。


「大きな魔力の畝りを感じたかと思えば、2人とも何をしておるか!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る