第356話: 邪神の介入
障壁が砕かれ、周りの殆どの者が戦闘不能となっていた。
へーやるじゃないオディール。それにしても、身内のましてや一族の長が死んだってのに何とも感じないのは、いよいよ私の中の感情は完全に消え失せたのだろうか。
この機を逃す手はない。
オディール⋯⋯貴方の遺言、聞き入れてあげる。
オディールが文字通り捨て身でこじ開けたスペースから防衛地帯を突破し、そのまま柱へと攻撃を仕掛ける。
着弾したかに思えたそれは、起き上がってきた魔王によって防がれてしまった。
だけど、魔王も大量の血を流していて立っているのがやっとの状態に見える。ならばこのまま押し切れば可能性はある。
満身創痍なのはお互い様。悪いけど、容赦はしない。
《
残った魔力を出し尽くす勢いで攻撃を仕掛ける。勿論狙いは魔王ではなく、柱。
この刃は防ぐだけでも毒の継続ダメージが入る。これで柱を守護している魔王のHPを削り切ってみせる。
辺りが段々と薄暗くなっていく。
どうやら私の撒いていた毒霧がそこそこの濃度になったみたいね。毒が苦しいのか、辺りに散らばっている瀕死の輩の呻き声が聞こえる。
不意に何かが私の視界の端へと映り込むと同時に右手に激痛が走る。
私の右手と共に艶やかな鮮血が宙を舞う。
痛みなんて関係ない。何が起こったかも関係ない。今、アイツから視線を戻すわけには行かない。全ての意識と神経をアイツに向けていないと、一瞬でも隙を見せれば、命はない。
速すぎる。なんでよ⋯。まだ一分程度しか経ってないのに⋯。私の中に感情はもうないのだと思っていた。だけど、無性に込み上げてくるこの怒りはなに⋯。
腕を斬られた怒り?
一族を皆殺しにされた怒り?
ううん、どれも違う。これは、私の中にいる何かが怒りの感情を現して、それを私にも押し付けているような感覚。呪いと言う方がしっくり来るかもしれない。けして抗えない呪い。目の前の人物を殺せと脳内で大音量で鳴り響く。
「ナターシャァァァァァ!」
次の瞬間、視界がぐらりと揺らぎ、次に見た光景は、バラバラに斬り刻まれた自身の身体だった。
私の頭は宙を舞い大地へと落下した。
魔王が安堵の溜息を吐き、その場に倒れ込む。
「はぁ、終わったな。やれやれ、流石に最後の自爆は肝を冷やしたぞ」
ナターシャは周りに視線を送る。
「自爆か。この状況はそういうことか、なるほどな。それよりもまずは負傷者の手当が先だ」
ナターシャが指を鳴らすと、突風が巻き起こり、辺り一帯を覆っていた毒霧を何処かへと吹き飛ばした。
「報告にあった人数と討伐した人数は一致したな。何とか守りきったか」
ナターシャは柱に手をやると愛おしそうにその表面を撫でる。
「ああ、助かったよ。すまなかったな、引退した身だったのに引っ張り出してしまって」
「気にするな。魔王の召集は絶対だろ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここは⋯どこ⋯だろう。
私は⋯死んでしまったのだろうか⋯
朦朧とする意識の中、何かが私に囁きかける。
(約束通り使命を果たして貰うぞ)
それにしては、何故意識があるのだろう。あの状態で生きているとは思えないし。確か、ナターシャにバラバラにされたはず⋯⋯頭だけになったはず。
(無視は良くないよ。それはね、僕の力の一端さ。お前たち一族に課した使命をちゃんと果たして貰わないと困るんだよね。約束した当の本人はもう死んじゃってるしさ。キミだって、僕が見つけるのがもう少し遅かったら死んでたよ?)
私に話しかけるのは誰⋯と聞くのも無粋なのだろう。話の内容から考えても相手は邪神。その昔、オディールが邪神から使命を言い渡されたと言っていた。たぶん、そいつだよね。そして、私の勘が正しければ、一族を呪いで縛り本当の意味で皆殺しにしたのはコイツ。
だけど⋯そんなこともうどうでもいい。私はもう眠いの。眠りたいの。放っておいて。
(そっか、悔しくないんだ?)
悔しい?
確かに、悔しくはある。
結局、ナターシャに何も仕返しが出来なかった。このまま私だけ死んでアイツだけ平然と暮らしているのは、腹が立つ。殺してやりたい⋯。
(僕ならあの女を殺せる力を与えてあげるよ)
(頂戴)
(あははっ、即答かい。でもその力が及ぶのはほんの一瞬だけだよ。その後は、キミは消えて無くなっちゃうからさ)
(ナターシャが殺せるならそれでいい)
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