第347話: リシルス・インベントリ
私の名前はリシルス・インベントリ。
物心ついた時には既に親、兄弟はいなく、私は遠い親戚だと言う人物に育てられた。
けして裕福とは言えない生活だったが、寂しくはなかった。当初は本当の両親がいない事に何の疑問も持ってはいなかった。しかし、成長し周りの同世代の子供達と交流を重ねるたびに、少しづつ疑問を持ち始めた。
そんなある日、今まで聞くに聞けなかった疑問をぶつけてみた。
「ねえ、何で私にはお母さんもお父さんもいないの?」
育ての親であるサリナは、少しだけ顔をしかめる。どんな時でも笑顔を絶やさない彼女だったこともあり、こう言った表情を見るのは初めてだった。
「いいかいリシルス。私たちの一族はね、魔王という悪魔に全員捉えられてしまったのよ。今は、何処かの収容所の中に幽閉されているの」
「何で捉えられたの? 悪いことをしたの?」
「⋯⋯そうね、貴女がもう少し大人になったら、教えてあげるわね」
サリナは私の頭をワシャワシャと撫でると、私に分からないように後ろを向き涙を一雫零した。この時の涙を意味を知ることが出来たのは、もっとずっと後の話。
疑問の答えが分からぬまま、数年の歳月が経過した。
隣の区画までの頼まれていたお使いを終え、家へと戻ると、いつもとは違う異変に胸騒ぎを覚えた。
入り口の扉が壊されていて、窓ガラスが破られていたのだ。
庭に置いていた私の手作り遊具が無残にもバラバラになっていた。
慌てて中へ入ると、育ての親であるサリナの変わり果てた姿がそこにはあった。その周りを囲んでいた数人の男たちが一斉に私の方へと振向く。
「何だ、ガキに用はねえ、失せな」
「そうだ、こいつの一族は謀反を企てたんだ。直接関わってないとは言え、同罪なんだよ。魔王様が裁かないってんなら、誰かが裁かないといけねえからな」
何を言っているのか理解が追いつかない。すぐに返す言葉が出てこなかった。目の前の衝撃的な事件が理解出来ない。この人達は何でこんな事をしているの? サリナが何かしたの?
私の中に今まで感じた事のない感情が込み上げる。親のいないの私の唯一の肉親がいなくなってしまった。
よくも奪ったな⋯。
目の前が真っ暗になり、次に気が付いた時には私以外、誰もその場には立っていなかった。
男たちは、皆一様に苦悶の表情を浮かべ絶命していた。
これって、私がしたんだよね⋯。
サリナを抱き上げ、裏にある一本杉の元まで運ぶ。
ここは、落ち込んだり、サリナに叱られた時によく足を運んでいた私だけの場所。
「サリナ⋯。私を一人にしないでよ⋯これからどうすればいいの⋯」
辺りは夕闇に包まれていた。
私は一人、声を殺して朝まで泣き続けた。
翌朝住んでいた家を燃やし、私は逃げ出した。何故だか、痕跡を消して逃げなければいけない気がした。見えない何かが私にそう告げているようなそんな感じだった。
それからなるべく誰とも関わらないように拠点を転々と変え、細々と暮らしていた。
幸いにも今年で私は十二歳となり、一人で生きて行く為の最低限の知識は備えているつもりだった。
私はずっと気掛かりだった。
あの時、サリナを殺した男たちが言っていた「一族が謀反を企てた」その言葉の真実を調べる為に、ありとあらゆる手段を講じて調査した。
そして、最終的にある場所へと辿り着いた。今にして思えば、私の中に流れる血がこの場所へと導いたのかもしれない。
そこはかつて私たちインベントリ一族が使用していた隠れ家の一つだ。
そこには知りたかった情報が、欲しい情報がたくさん眠っていた。今まで、魔術の類など使ったことはなかったのだが、私たちの一族は、闇魔術に適しているようで、少し練習するだけでどんどんと新しい魔術を取得していった。
あれからあっという間に二百年が経過した。
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