第346話: 脱獄犯を追って2
私はスザクと二人、別室へと移動する。
二人きりになりたかったのは、これからやることをまだ多くの者に見られたくないからなのだが⋯。スザクは何故だか落ち着かない様子だった。
そんなに緊張せずとも、別に取って喰いはしないのだがな。
「まだ検証段階の魔術でな。完成するまでは出来れば他言無用で頼むよ」
「ええと、魔術の実験台ですか⋯。危険はないのですよね?」
「そのはずだ。自分自身には使えないのでな。娘には何度も成功している。失敗しても、何か起こるわけではないさ」
私がこれから行おうとしているのは、対象相手の能力を向上させる反則じみた魔術。
《
思い付きで検証を始めること数年。最初は微々たる程度の改変だったが、今では数倍、内容によれば十倍以上の成果が出ている。
今回私がスザクの能力改変を図るのは探索系魔術の探知だ。
本来探知は個々の資質に依存する為、レベルの概念は存在しない。しかし、能力改変の恐ろしいところは、そんなレベルの存在しないものの能力を底上げることが出来る。魔界でも私以外にこんなものが使える者はいないだろう。
スザクに右手をかざし、《
よし、探知に使ったことは無かったが上手く成功したようだな。
「成功したようだ。スザクよ、試しに探知を使ってアリサを捜してみてくれ」
「探知ですか。あまり得意な方ではないので、精々この魔王城内が分かる程度ですよ?」
困惑顔のスザクは、言われた通りに探知を発動させる。
しかし、すぐにその顔が驚きのものへと豹変する。
「こ、これは一体どういう事ですか?」
スザクの探知圏内効果は、魔王城を遥かに通り越し、第一区画のサイズ基準である100キロを見渡せる程に改変されていた。
「私が開発した魔術さ。まだまだ調整段階だがな。で、アリサは範囲内にいそうか?」
「⋯⋯いえ、魔王城、城下層にはいませんね。インベントリ達もいませんね」
「そうか。まぁだが、効果は格段に上がっている。複数の探知持ちを集めて探せば、魔界全土と言えどそこまで時間は掛からないだろう」
その後、皆の元に戻ったナターシャは、集まっていた探知持ち25人を同様に
それから数時間後、事態の進展が見られた。
ドタドタと慌しく駆け上がってくる伝令兵からの報告によると、地界と繋がっている第二転移門が強襲されたというものだった。
相手の正体は不明と言うが、十中八九それはインベントリ一族だろう。
「ゲンブよ。すぐに現場へ向かってくれ。城門前に待機させている第三師団を一緒に連れて行くといい」
魔王の指示に一礼し、ゲンブは部屋を後にする。
「やはり、地界への逃亡が目的か。魔王様、第一転移門も襲撃を考慮して第二門同様に増兵しては?」
「そうだな、ビャッコ。第一転移門はお前に任せる。第二師団を連れて守りを固めてくれ」
「必ずや彼奴らを捉えて見せましょう」
意気揚々とビャッコが部屋を退室する。
それにしてもこのタイミングに動くとは妙だな。こちらが捜索を本格的に開始した途端、あっちから尻尾を出すとはな。
裏を読むならば、これは陽動である可能性が高い。ならば、その狙いは何だ?
まぁだが、これでハッキリしたな。やはり、こちら側にスパイ活動している輩がいる。
「⋯⋯ナターシャ様⋯⋯ナターシャ様?」
「ああ、すまん」
「私は何か気に掛かります。ナターシャ様はどう思いますか?
「私もフランと同意見だよ。奴等の狙いはかつて計画を台無しにされた私への復讐と本来の主目的である魔界転覆だ。しかしそれは地界へ逃げればどちらも叶わぬこと。つまりは、これは陽動であり、守りの薄くなったまさに今この場所を狙って来るのではと。あくまでも推測だがな」
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