第348話 アビス大牢獄1

 あれから二百年の歳月が経過した。

 私はその殆どの時間を闇魔術の自己研鑽に励んだ。それも全ては一族の復興の為。力が無ければ何も成す事は出来ないのだから。一族以外など正直どうなっても構わないと思っていた。


 自分でも分かっていた。


 それは、まるで何者かに暗示を掛けられているような。この身に流れている血が一族の復興、悲願の達成を強要しているような⋯まるで私の身体が私のものじゃないような変な感じ。


 そんな折、魔王が引退するなどと言う噂が其処彼処から聞こえてきた。私たち一族の仇。引退などされ、その身を隠されれば、怨みを晴らす事が出来なくなる可能性がある。私は焦った。だけど、強大な力を持ったあの魔王が引退など、最初は何の冗談かと思ったが、近々後継を決める催しが開催されると聞き、私は覚悟を決める。

 まさか、こんな形で絶好の機会が訪れるとは思わなかった。魔王選抜大会で勝ち残れば、誰でも次代の魔王になれる? 馬鹿じゃないの。力があればどんな悪人でも魔王になれるなんてね。やはりあの魔王は信用ならない。すぐにでも殺して望み通り代替わりさせてあげる。でも、このチャンスを逃す手はない。私が魔王になることが出来れば、一族を牢から出すことなど容易なのだから。


 大会が始まり、危なげなく勝ち進む。

 やはり私は、インベントリ一族は正しかった。魔王が言ったのだから、力こそ全てだと。

 一族の能力を使えば、魔族の強者ともやり合える。


 決勝に残ったのは私を含めて三人。ある程度の実力者有は調査していたつもりだったけど、どちらも私の知らない二人。

 流石に単純な実力では歯が立たない。だけど、私には一族秘伝の闇の秘術がある。それを駆使し途中まで善戦するも、結果的に私は敗れてしまった。

 私の特異な能力がバレてしまい、私は一族が軟禁されている場所と同じ場所へと運ばれた。


 プラン変更。

 勝って魔王になれれば簡単だったのだけど、敗北したことを考慮し、次の案を考えていた。その為の準備も万端。


 そして一族と再会を果たした。物心つく前に離れ離れとなった為、会うのは


 アビス大牢獄。


 それは、魔界で大罪を犯した物たちが収監されている脱獄不可能の最堅牢の牢獄。


 中に入った者はけっして出る事は出来ないと言われていたその場所は⋯⋯。まさに、この世の地獄と呼べる物だった。

 入り口の前で手足を縛られていた魔力封じの枷が外される。その気になれば今この瞬間の隙を突いて逃げられるかもしれない。だけど、私の目的は私一人ではなく一族全員の脱獄。

 中に入ると外とは比べもにならない重力が私を襲う。膝をつくまでにはいかない。だけど、これではまともに走ることも出来ない。それと同時に魔力を練ることが出来ない。枷を外した理由はそういうことね。


 案内された部屋は、真っ暗な何もない。いや、何も見えない空間が広がっていた。

 そこが広いのか、何があるのかさえも分からない。


 うぅ⋯。これは、少し想定外ね⋯⋯身動きくらいは封じられるとは思っていたのだけど、流石にこれは⋯。魔術が封じられている為、夜目が使えない。


 ようやく目が慣れた頃、微かに牢の中が見渡せれるようになった。先程から何かが動いていたその正体が明らかになった。この牢の中には私の母や父、一族の皆が捕らえられていた。捕らえられていたと言っても鎖で繋がれているわけではなく、それぞれが上の空のようにボーッと虚空を見つめていたり、まるでアンデットのように徘徊したり、話しかけても反応はなく、まるで薬漬けにされて意思を奪われたような感じだった。

 後から分かったことだが、時折牢内に強力な精神安定効果の成分を含んだガスが噴射されていて、継続的に吸わされ、このような状態にされていた。恐らく脱獄対策なのだろうけど、当初私もそれに気付かず吸わされ、危うく堕とされる所だった。

 噴射孔を探し出してそれを塞ぐ。ガスを吸わなくなって暫くしてから皆も次第に本来の意識を取り戻した。そして、看守達に悟られないように偽装工作をしつつ、脱獄に向けての計画を皆と練った。

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