第344話: インベントリ一族
その後、ノースは余程疲れていたのか丸二日ベッドの上から起きてこなかった。
心配したナターシャが何度も様子を伺いにきたのは言うまでもない。
その二日の間に魔王が帰って来ないと心配したフランがここを訪れたりもしていた。ナターシャも久し振りの親友フランとの話で大いに盛り上がっていたが、その中で看過できない話を聞かされた。
「おい、俺は一体どれだけ寝ていたんだ⋯」
寝癖頭をボリボリ掻き毟りながら部屋から出て来るノース。側から見れば新婚夫婦と見えなくもない絵面だった。
「二日だ。気持ち良さそうに寝ていたぞ」
ノースは「はぁ⋯起こしてくれればいいものを」と深い溜息をつく。
「こんな事をしている時間はないってのにな。すぐに戻らないと」
「お前が寝ている間にフランが来たぞ」
何故かノースが酷く動揺する。
「魔王は知らないだろう。フランは優秀だが、怒らせると怖いんだぞ。この間なんて無断で地界へ降りたら何故か書類地獄の刑に処されたからな」
「知っているさ。私なんて何かするとオヤツ抜きの罰だったからな。安心しろ。ちゃんと説明しておいたぞ。叱ってやるなよともな」
ナターシャはノースの肩をポンポンと叩くとその苦労を労った。
「時にノースよ。奇妙な話を聞いたのだがな。収監していたイントベリ一族が忽然と消えたとか」
フランとの雑談の中で今一番危惧していることをナターシャが問うと、永きに渡って牢獄に収監されていたイントベリ一族が全員消えてしまったと打ち明けた。
「そうだ。そもそもが俺がここへ来たのもその件に関して相談したかったのだ。魔王ならあの一族について詳しいだろうと思ってな。そもそもがあの一族の野望を逸早く察知し、未遂のまま全員捕えたのは他でもない魔王自身だと聞いているが」
今から五百年程前、極秘裏に送り込んでいたスパイが国家転覆の計画を察知したナターシャは、側近のスザク、ビャッコを連れイントベリ一族を罠に掛け、全員捉えたのだ。
「確かに、あれは幸運だった。察知するのがもう少し遅ければ、私はおろか上層部が全て殺されていただろう」
後の調べで分かったことだが、魔王選抜大会の決勝にてノースたちと戦ったリシルスを調査した所、イントベリ一族であることが判明した。本人は最後まで頑なに否定していたが、判決が決定した瞬間諦めたように認めた。
「今にして思えばリシルスは他の者たちと同じ場所に収容して欲しい懇願していたとら聞いているが?」
「どうやら、それが失敗だったようだ。リシルスは何らかの方法で仲間たち諸共牢からの脱獄に成功したようだ」
そもそも彼奴は、魔王になるべくあの大会に参加していた。自身が魔王となれば、一族を牢から出すことも容易いだろう。その作戦が失敗した今、次なる方法を実行したと言うことか。すぐに実行しなかったのは、それなりの時間が必要だったと言うこと。
それに、収監していたアビス大牢獄は、絶対に中からの脱獄は不可能だ。となれば、外部の協力者がいるはず。
「あの一族が解き放たれたとなれば一大事だな。隠居の身とは言え、野望を打ち砕かれる原因を作った私に恐らく恨みを持っているだろう。協力させて貰おう」
だが、まず一番に心配しないといけないのは、最愛の我が子の安全だ。
この場所のことを知る者は少ない。その者から漏れるとは思わないが、尾行される可能性だってある。念には念を入れてこんな時の為の隠れ家を用意してある。
まさか、こんなにも早く使うことになるとは思わなかったがな。
「ノースよ先に魔王城に戻っておれ。キキランを安全な場所に避難させた後に私もすぐに向かおう」
「すまないな。恩に着る」
「なに、可愛い我が子の頼みだ。断る親はいないだろう」
「⋯我が子か⋯」
ボソリとノースは呟き、小屋を後にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます