第340話: 決勝戦2
当人たち以外には轟音だけが鳴り響き中の様子を窺い知ることは出来ない。そんな刻が暫く続いていると、闘技台を覆っていた結界が小刻みに震え出した。やがてそれが少しずつ膨張していく。
まるで何かに怯えているかの如く、やがてその現象は結界全体へと広がっていった。
耐えきれなくなったのか表面がヒビ割れ、次第次第に全体へと広がっていく。
「グッ、これは抑えられん」
魔王は両手を天へと上げる。
結界が破壊されると同時に大爆発が起こった。
衝撃波と爆炎と粉塵が同時に襲い掛かる。
しかし、それらは観客席の方向へは向かわず不規則な動きで上空へと駆け上がって行く。
観客に被害が出ないように魔王ナターシャがコントロールしていたのは言うまでもない。
「ユキよ。恐ろしいことをしてくれる。流石に今のは肝が冷えたぞ」
「いいじゃない。なーちゃんなら防いでくれるって分かってたから」
闘技台に立っていた由紀が魔王ナターシャへ手を振っていた。
「さて、気を取り直して始めようか」
頬を叩き気合を入れ直す由紀。しかし、その表情は連続した魔術の行使で疲弊しているように窺えた。ノースに至っても解毒をしたとは言え、動きが鈍っていたのは明らかだった。
対するリシルスは、試合開始前と何ら変わらぬ風貌で二人の様子をただジッと眺めていた。
「礼を言う。だが勝負は勝負だ。手は抜かん」
「当たり前。それでいいよ」
リシルスは大きな溜息をはいた。
「⋯あれで死んでおけば苦しまずに済んだのに。
リシルスの身体が闇色のモヤに包まれたかと思えば、忽然と姿を消してしまった。
途端にノースはリシルスの居た方とは別の方向へと駆ける。
そのまま何もない場所を炎を纏った拳で殴りつける。
何もなかったはずの空間からガラスの割れるような音がしたかと思えば、その中からリシルスが現れたのだ。
「グッ、勘のいい奴」
「お前の毒毒しい匂いは独特だからな。その程度じゃ誤魔化されない」
再び、その拳を振り下ろすもリシルスの姿は既にそこには無かった。
《
闇色の一閃が走ったかと思いきや、空間が真っ二つに斬り裂かれる。
危険察知に反応した由紀は上空へとギリギリ回避に成功したが、ノースは右手を犠牲にし、胴体が斬り裂かれるのを防いだ。
全てを斬り裂く
ノースは右手を硬質化し防ごうと考えたが、何の抵抗もなく切断された自身の腕を横目で見た後、有り得ない体制でジャンプしそれを回避した。動体視力、咄嗟の回避速度がズバ抜けており、由紀の比ではなかった。
「っち、貫通系か。めんどくせえな」
次のリシルスの行動に注視していた二人だったが、突然苦しそうにリシルスは目から血を流し、少なくない量の血を吐いた。
当然のことながら二人が攻撃したわけでは無い。
「闇系統の魔術は使い過ぎると自身の生命力を擦り減らすと聞く。あやつ、死ぬ気か?」
「流石は魔王様ですな。博識でいらっしゃいますね。ならばもう彼女は限界に近いのでしょう。勝負は残りの二人で決まりですかな」
魔王の隣に座るのは、魔界の四大貴族の一人、ヴォイド卿だ。財産だけならば、魔界でも一二を争う程の大富豪としても知られていた。
「いや、まだだな。もう一波乱ありそうだ。もしあやつが、私の知っている一族ならば、一族秘伝のあの術を使うだろう。しや、だがしかし⋯」
魔王は一人考え込み、視線を闘技台へ戻した。
《演舞山月》
リシルスに対して由紀が放ったのは、圧倒的な数の斬撃だった。避ける隙間もなく放たれた斬撃。
その様はまるで演舞を踊る姫のように優雅に気高くそして美しさも兼ね備えており、観る者を魅了していた。
圧倒的な物量は転移の封じられた闘技台では、もはや逃げる選択肢はなく、防ぐ以外は有り得なかった。
斬撃の着弾するその刹那の瞬間、リシルスは確かに笑ったのだ。ニヤリとその口元を歪め、次の瞬間、リシルスに向かって放たれたはずの斬撃がまるで反射でもしたかのようにベクトルを変え今度は由紀とノースへと襲い掛かる。
全身硬質化で防ぐノースに対して、由紀は抜刀の構えをとる。
《明鏡止水》
襲い来る斬撃を全てを超速で斬り落としていく。
僅か数秒の攻防だったが、当人たちからすれば長い時間に感じたことだろう。
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