第341話: 決勝戦3

 またしてもリシルスの姿が闘技台から消えた。

 ノースもいつの間にか切断された腕が元に戻っている。


「へぇ、高位の治癒?」

「違う。瞑想と言う自身を再生するスキルだ」

「そいつは便利ね」

「そうでもない。魔力の消費が激しいからな。そうそう連発は出来ん」


 ノースと由紀。敵同士だった二人の中で妙な結束感が生まれていた。

 いつしか、三つ巴の戦いからリシルスvsノース、由紀となっていた。


「気に喰わねえな。いくら勝負とは言え、命を刈ろうとするのはな」

「でも、殺したら駄目だってルールはないよ?」

「ルールはない。だがな、どんな理由があろうと同族同士で命を奪い合う意味はない。お前には当てはまらないがな」

「あははっ、そだね。取り敢えず、殺気を放ってる人物を先に相手しないとね」


 姿は見えないが、放たれた殺気を煩わしく感じていた二人は無言の共闘に至る運びとなった。


「私の探索サーチに引っかからないんだけど」

「あれはただ姿を消しただけじゃない。消したうえで別の空間に隠れてやがる。ちっ、しょうがねえな」


 《地雷震》


 ノースは闘技台に拳を突き当てる。

 するとどうだろうか。ゴーゴーと言う地響きと共に辺り一帯が波打つ波紋のように揺らめく。


 闘技台の一角の空間が歪み、姿を消していたはずのリシルスの姿が露わとなった。


「一気に叩く!」


 由紀は一瞬でリシルスの背後に周り、刃を振り下ろす。ほぼ同時にノースは正面からその豪腕を振るった。

 しかし、リシルスは無傷だった。

 由紀の剣が腐食し、ノースの右腕は半ばまで腐敗していた。


 二人はすぐに離れ、リシルスから距離を取る。


 《腐食デスサイズ


 触れたもの全てを腐食させる固有オリジナルスキル。本来、固有オリジナルスキルは唯一無二とされ、同じものは存在しないと言われていた。

 しかし、ある一族に限って、顕現すれば皆が同じ固有オリジナルスキルを会得することが出来た。故に一部の者はそれをエントベリ一族の秘術と呼んでいた。


 闇の魔術を得意としていたこともあり、呪われた一族と言われていたエントベリ一族。国家転覆の容疑で一族全員独房に入れられていた。一人を除いて。


「魔王様、あれがそうですか」


 スザクは平静を保ちながらもその額から汗を一雫流した。


「うむ。やはり間違いないな。あのスキル。見間違うはずもない。まさか、最悪な方向に勘が当たるとはな」


 次々と起こり来る予測出来ない展開に何も知らない観客たちは大いに盛り上がった。


 エントベリ一族が野放しになっている事実を知り、その脅威を知る一部の者たちは、行動を起こそうとするも、魔王はそれを一蹴する。


「スザクよ。これは神聖な決闘だ。どんな事情があろうと介入は許さない。殺気だってる彼奴らにも説明してやってくれ」


 魔王を守る為、いの一番に飛び出しそうになっていたのは他でもない、スザクだったであろう。魔王の脅威になり得る存在を野放しには出来ない。一番近くで魔王に仕える者としてそれは当然のことだった。


 リシルスを覆うように腐食のモヤが広がっていた。


「はぁ、なんだコイツは、近付けねえぞこりゃ」


 ノースは更に距離を置き、再び瞑想し自己再生に入った。


「あああぁぁぁ! 私の愛剣が⋯⋯⋯」


 剣を失い、両膝を付き項垂れている由紀。その由紀を狙い、腐食のモヤが迫って来る。

 しかし、放っている当人は苦しそうに先程から大量の血を吐いていた。

 絶大たる効果のスキルには当然ながら大きな代償が伴う。リシルスはその身、その命を削り、闇の魔術、腐食デスサイズを使用していた。


「これ以上無理すると死んじゃうよ?」


 折角の由紀の忠告も彼女は聞く耳を持たなかった。


 それは誰が見ても限界なのは明らかだった。既に血の気が引き、青白くなっていたからだ。


「はぁ、後味悪くなるからね。なら私が止めてあげるよ」


 由紀は剣を持つ構えを取る。

 しかし、その手には何も持ってはいなかった。


 《創造・聖剣イマジン・ホーリーガウン


 呪文を唱え終わると、由紀の手には光り輝く光剣が握られていた。


「やめておけ、人族があれを浴びれば一瞬で朽ちるぞ。ここは俺がやる」


腕を再生させたノースが全身鋼色に輝かせながら、ゆっくりとリシルスへと歩み寄る。


「それ以上近付いたら、いくら腐食にならない鋼武装と言えどタダじゃ済まない」

「そんなもの事前に分かっていればどうと言うことはない」


躊躇うことなく腐食のモヤの中へと入ると、そのままリシルスを掴み上げる。


ジタバタと踠くもやがて、力なく意識を失った。

リシルスの意識がなくなると展開していた腐食のモヤも消え失せた。

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