第339話: 決勝戦1
(由紀視点)
はぁ、退屈ね。早く始まらないかしら。
控え室にて待っていたのはこれから決勝に臨む三人だった。精神統一をする者もいれば、お菓子を食べている者。ギリギリまで訓練に励者と三者三様だった。
試合開始前のこの独特な空気、あんまり好きじゃないのよね。こう言う時はそう、気分を変えて自己紹介なんかいいんじゃないかな。
「えと、この場に集ったのも何かの縁だし、自己紹介しない? 私の名前は由紀。人族の勇者をしている。えと、この大会に参加したのは、暇なら参加しないかと魔王に誘われて───」
「理由はそれぞれだからとやかく言う筋合いはないが、これは遊びじゃない。我々魔族には存亡が掛かっていると言っても過言ではない。お前のことは魔王からゲスト参加だと聞いている。そうでなければ摘み出していたところだ。間違っても魔族ではない貴様が勝ち上がらないように悪いが真っ先に潰させて貰う」
私に対して敵意を剥き出しにする彼。
殺気剥き出し。いいね、このピリピリ感。悪くない。
「それくらい闘争心剥き出しの方が面白くなるよ。それで、名前は?」
「あぁ、ノースだ」
「⋯宜しく綺麗な目のノース」
ノースはエメラルドグリーンの綺麗な色の目をしており、その目が何だか凄く綺麗だと思ってしまった。
「貴女は?」
由紀の問い掛けに少女は表情一つ変えず沈黙を崩さなかった。
外の会場が騒がしくなる。観客の歓声が大合唱コーラスのように鳴り響いていた。そろそろ入場の時なのだろうと再び控室は沈黙で包まれた。
一人づつが呼ばれ、闘技台に上がっていく。
拍手喝采に包まれ、これから戦いに身を置く者たちへエールが贈られる。
壇上で三人がそれぞれを睨み付ける。
互いが武器を手にし、臨戦体制へと入る。
「それでは始め!」
開始宣言と同時に闘技台で異変が起こる。
それは、突如として発生した闇色の霧だった。
すぐに観客から悲鳴が上がる。
闇色の霧は一瞬で闘技台を覆い尽くすと、次いで周りに広がりだしたのだ。
「これはいかんな」
巨大な闘技台をスッポリと球状の透明な壁が包み込む。
観戦していた魔王ナターシャが結界を行使したのだ。
次いで風魔術の乱気流を使い、僅かに防げず漏れ出した闇色の霧を遥か天高くへと誘う。
「毒ですか?」
「ただの毒じゃない。不死毒だ。それも余程の耐性がない限り即死級のな」
スザクは顔を青ざめ、闘技台へと視線を戻す。
「あの二人は大丈夫でしょうか⋯」
開始の宣言と同時にリシルスが放ったのは《闇夜の誘い》と呼ばれる致死性の猛毒散布。
当然術者にも影響を及ぼしかねないが、リシルスは生まれつき毒に対する完全耐性を有していたのだ。
「なによこれ」
咄嗟に防御壁を展開はしたけど。たぶん、これ吸ったら駄目なやつだよね。
使ったのは、少女の方か。
《爆風三連撃》
上空へ向かって放たれた三撃の斬撃が周りの闇色の霧を巻き込み、魔王の展開した障壁へと当たり、描き消えた。
あれ、何かに阻害された? この魔力は⋯魔王かな。拡散しないように結界でも張ったのか。
なら方法を変えるしかないか。密閉されてるのを利用して爆発させてやる。
煙のせいで視界が最悪。他の二人の姿は⋯⋯あれは、誰かが苦しそうに膝をついている。ノースかな。
恐らくこの毒にやられたんだろう。私は勇者の称号のおかげで毒耐性があるはずだけど、さっき一瞬だけ吸っただけで目眩がした。たぶん相当強力な毒なんだと思う。
それに流石にこれからしようとしてる爆発に巻き込まれたらただじゃ済まないよね。
私はノースの所まで移動して、一緒に防御壁の中に入る。
《解毒》
「何のつもりだ」
「この毒煙が厄介だからさ、取り敢えず除去するから邪魔が入らないように警戒してて」
無防備な状態になるから邪魔されたらたまらないしね。ここは共闘しよう。
《爆炎・極》
防壁の外は炎が蠢く灼熱の世界だった。
さっきから十発近く同じ魔術を使っていた。そろそろ頃合いだろう。
《氷結・極》
密閉され熱せられた空間を一瞬で冷やす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます