第338話: 三人の勝者
一回戦を勝ち上がった六名が全員闘技台へと上がっていた。本当は七名だったが、禁則事項を行ったことが発覚し、退場となっていた。
「ここに集いし強者達よ。誰が勝ち上がっても文句なし。最後に残った一人が次代の魔王となろう。だが、約束して欲しい。公平平等な魔界の統治を行うと。そして、平和な魔界を作り上げると!」
選手に向けた魔王ナターシャのエールに観客達から今までにない歓声が湧き上がる。
その流れで準決勝第一試合が開始された。
大本命のスザクvs一回戦で八本斬魔を破った無名の剣士。
剣士は依然としてフードを深く被っていたが、スザクは対峙した瞬間相手の正体に気が付いていた。
すぐに魔王へ目配せするも魔王はニヤリと笑みを浮かべ顔を左右に振るった。
スザクは何故彼女がこの場にいるのか疑問を抱いていたが、魔王公認ならば何も言うまいとその口を紡ぐ。寧ろ、以前から一度手合わせ願いたいと思っていた相手でもあったことから、一人闘志を燃やしていた。
開始の宣言と同時に一回戦同様二人の姿が掻き消える。
そこは二人だけの領域、二人だけの世界。
常人からしてみれば、誰もいない闘技台から戦闘による音や閃光、爪痕が造られていく様は何とも異様な光景だったろう。しかし、その様を観て劣勢優勢を想像しながら盛り上がっていた。
「何故お前がこの場にいるのか今は問わん。それにお前とは手合わせしてみたかったしな、ユキ」
黒フードの剣士の正体は以前魔界へと侵攻してきた勇者由紀だった。
「魔王に言われたの。面白いイベントするから参加しないかって」
「魔王様⋯貴女って人は⋯」
しかし、その顔に落胆の様子はなく寧ろ微笑ましさが伺えた。
その後、実力の橘高していた二人の戦闘は数時間にも及び、ついには午後から予定していた準決勝第二試合が翌日に持ち越されることとなった。
闘技台は既に原型を留めておらず、両者共かなりの疲労が伺えた。
ユキはいつの間にか姿を隠していたフードがめくれ、その姿が露わになっていた。
そんなユキの正体に気が付き何名かが抗議の声を挙げたが、魔王の無言の示唆で試合は継続された。
決着の瞬間は意外な形で訪れる。
長時間に渡る打ち合いの影響でスザクの愛用している剣が折れてしまったのだ。予備の武器を持っていないこともあり、仕方なくスザクは降参した。それなりに魔法にも長けてはいたが、目の前の相手に武器なしで勝つことなど不可能と判断したのだろう。
「楽しかったぞ。人族にしておくのは勿体ないな。私と一緒に魔王様へ支える気はないか?」
「お褒めの言葉として受け取るよ。私も楽しかった。また機会があればやろう」
二人は再戦の誓いをし、闘技台を後にした。
翌日に持ち越された第二試合は、ゲンブの放った刺客とアルザスを倒した謎の人物との一戦が行われたが、前日の試合とは正反対で一方的な試合展開となった。
勝者はアルザスを倒した謎の人物。その正体に気付いている人物は極々少数だった。
第三試合は更に意外な結末となった。
開始のゴングがなった瞬間に勝敗が決まったのだ。
初戦は不戦勝でその実力の程は未知数だった為、全くのノーマークだった。彼女の名前はリシルス。銀髪の少女だった。
「魔王様、あの者ご存知ですか?」
言い知れぬ不安を感じたスザクは魔王へと問い掛ける。
「いや、知らんな。だが、あの技には見覚えがあるが。しかし、彼奴らは⋯」
リシルスが第三試合で放ったのは闇属性魔術の中でも高位の術。
《
対象に暗闇混乱のバッドステータスを与え更に追撃によるダメージを与える。
相手はクオーツのラクス。一桁台の実力者だったが、魔術の一撃で戦闘不能どころか命を落としてしまった。
「闇系等の魔術が得意な一族がいたな。確かインベントリ一族だったか。常に表舞台には出てこない裏の住人だったが、あの事件が発覚し一族全員投獄中と記憶しているが」
「あの何百年か前に国家転覆容疑の騒ぎを起こした一族ですか。確かに解放されたとは聞いていませんので、まだ収監中でしょう。ならば、別人でしょうかね」
魔王選抜大会も最終日を迎え、決勝は残った三人によるサドンデスマッチ。残った一人が映えある優勝者となる。
闘技台に上がった三人は、元老院スザクを倒した異世界より来訪せし勇者ユキ。クオーツの団長を倒した忌み子ノース。そして、闇魔術を使い熟す謎の少女の三人による戦いが始まろうとしていた。
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