第337話: 魔王選抜大会1

 魔王交代の話が魔界全土へと通知された。

 多くの者に慕われていたナターシャの引退宣言に皆が悲しみに暮れた。

 しかし、すぐに後任の魔王を決める催しが開催されると聞き、悲しむ間もなく皆が忙しない時間を過ごしていた。

 魔界全土で「次の魔王になるのは自分だ」と言う声が其処彼処であがり、名乗り出る者の数が四桁を超えた。

 魔王選抜大会への参加条件が無条件だったことも想定以上に増えてしまった要因だろう。

 ナターシャも予想していた人数を遥かに超えてしまったことを危惧し、選抜大会の情報が公開された。


 それは、純粋な戦闘による頂上決戦。


 魔族の王たる者。求められるは同族を統治出来る力だ。それは時に武力を持って言うことを聞かせなければならない局面もあるだろう。故に、最も武力に秀でた者が魔王になる資格があると現魔王ナターシャ並びに上層部は決定を下した。


 告知から最終締日までの七日間で武力に自信の無い者が続々と辞退していき、最終的に残ったのは十四人の名だたる猛者たちであった。

 クオーツや元老院のような名の知れ渡った者たちもいれば、今まで武勲を挙げたことのない無名の者も何名か残っていた。

 中でも大本命なのは、元老院で唯一参加表明を出したスザクだろうか。魔界の最高戦力と呼び声高いクオーツからも今回八人が参加を表明した。


 元老院の中で最もナターシャ寄りのスザクは彼女の意志、思想を継ぐべく今回参加を決意した。他の元老院たちは魔王の座に興味がないと参加を表明しなかったが、それは表面上の話だった。

 実際はスザク以外の皆がそれぞれ魔王に統べるべく刺客を放っていたのだ。自分自身が出場しないのは、表立って魔王の座に付かず、興味がないと思わせる為だった。裏からサポートし、魔界の政権をコントロールする狙いがあった。魔界の統制において全権を持っている魔王と言う称号は誰しもが喉から手がでる程に欲しいのだ。そんな様々な思惑が錯綜しながら魔王選抜大会の火蓋が切って落とされた。


 大会は一日二試合行われ、約二週間に渡って繰り広げられた。

 今回会場として選ばれたのは、五千人規模で収容出来るコロシアム風な闘技場ガルーダ。ここは年一で行われるクオーツの昇格試験でも使用されている闘技場だった。


 大波乱が起きたのは、三日目の午後から行われた試合。


 フードを被ったトラビスと名乗るビャッコが放った刺客。対するは同じく黒いフードコートを頭から被った怪しげな人物ユキ。

 どちらも無名の選手であった為、観客の前評判は低く、客席は半数くらいの空きが目立っていた。


 開始宣言早々にトラビスは自身の正体を露わにする。その正体は、なんと八本腕を生やした八刀流の剣士だったのだ。

 八刀使いの斬魔と言えば、そこそこに名の知れた剣士であり、何処にも属さない単独を好む放浪者として通っていた。意外な大物が正体だったことに、観客のボルテージも高鳴る。

 対するユキは丸腰のままゆっくりと相手に歩み寄る。

 数本歩いた先でユキの姿が消え、それを追うようにトラビスの姿も消えた。

 正確には両者共に高速で打ち合っていた。


 土埃が舞い、武器と武器がぶつかり合う音だけが辺りに響き渡る。


 幾ばくかの時が過ぎ去った頃、地面に一人の人物が這いつくばっていた。その傍らには無数の武器が無残に砕け散りばめられていた。


 ユキは息一つ切らさず開始早々と変わらずフードを深く被った状態だった。その強さに観客は大いに湧いた。

 四日目は大本命のスザクが闘技台に上がるも、対戦相手は棄権し不戦勝に終わった。

 その後、番狂わせが起こったのは一回戦最終日だった。筋骨隆々の無名の男がクオーツで一番の実力者であるアルザスに勝ったのだ。しかし、会場では大ブーイングが巻き起こる。

 機転を効かせたアルザスは勝者を称え、勝者の手を天へと掲げた。

 アルザスはその実力と見た目も優れていたこともあり、非常に人気があった。今回の魔王選抜大会における人気投票もダントツのトップだった。そんな彼に勝った人物は何者なのかと周りの出場者は警戒した。

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