第329話: 人族の反撃2

 転移門の前には数百人が集結していた。


 既に占拠されてから二週間余りが経過しており、いつの間にか勇者達の姿もそこにはなかった。用意周到に準備を整えているのか、一向に進軍する様子は見られなかった。



 転移門を占拠してから二ヶ月が経過した頃だった。

 何の前触れもなく、彼等は攻め入って来た。何かの機会を伺っていたのか、このタイミングで攻めてきた理由は分からない。ただ単に油断させて不意を突きたかったのだろうか。


 しかし、油断などはない。何時如何なるタイミングであろうとも万全の態勢を構築している。


「はぁ、はぁ、魔王様大変にございます!」


 酷く慌てた伝令はノックも忘れ作戦司令室に入って来たかと思えば、にわかには信じがたい事を語り出す。


「ご報告申し上げます! 転移門で警戒に当たっていた第一部隊が交戦を開始した直後、魔術師らしき人物が放った面妖な光を受けた後、皆本来の力が発揮出来なくなったのか、次々に討ち取られており、部隊は壊滅に近い状態です!」

「何だと」


 第一部隊は魔王軍の中でも精鋭中の精鋭だぞ。それを僅かな時間でだと⋯。そこまで力の差があるとは思えない。いや、思いたくはない。


「アリサを呼べ!」


 すぐに幼い格好をした少女が入ってくる。

 全身が黒を基調とした装いで、頭には先端の折れ曲がったトンガリ帽子を被っていた。

 彼女の名前はアリサ。魔術師なのだが、戦闘においてはからきしだ。

 しかし、一風変わった魔術を得意としていた。


「アリサ、戦況の様子を映し出せるか?」

「はい魔王さま、すぐに」


 アリサが手をかざすと、背面の壁一面に映像が映し出された。

 彼女は遠く離れた場所の映像を目の前に映し出すことが出来る魔術を会得していた。


「あの魔法陣めいたものがそうなのか。嫌な力を感じる」

「原理は不明ですが、我々魔族の力を弱体化させることの出来る魔法陣でしょう」


 多少弱体化させられた程度で遅れを取る連中ではない。もっと強力な、それこそ動きすら制限してしまう程のものだとすれば、勝ち目はない。


「非常事態勧告発令だ! 元老院とクオーツ並びに戦闘部隊全7隊のリーダーを今すぐここに呼んでくれ」


 失態だ⋯。

 私は、人族を侮っていたのか。

 まさか、そんな手を用いてくるとは思いもしない。少々痛い目を見て帰って貰う程度にしか考えていなかった。


 くそっ! これは私の判断ミスだ。


「幸いにも結界は無事なようですね」


フランが気にしていた結界とは、侵略者の分散防止の結界で、転移門の半径五百メートル四方に強力な結界を展開していたのだ。仮に部隊が全滅したとしても、結界の中に閉じ込めておけれれば、最悪の事態は免れる。


「シリュウの防御結界は強力よ。そう簡単には破られないでしょう。それに見たところ厄介なあの魔法陣も結界外には広げられないようね」


 今、この部屋には先程呼び寄せた人数の半数が揃っていた。全員が集まるまでには、まだ時間が掛かる。


「結界の補佐が出来る者をすぐにシリュウの元へ向かわせて。それからビャッコとゲンブはすぐに現場に向かい待機なさい。追って指示を出す。もしも結界が破られた際は、各々の判断で動いて貰って構わない。それに第四から第七部隊も二人の指示で動いて頂戴」


 魔界側の対応はこれで良いとして、次は地界側ね。


「クオーツのナンバーズとスザクは、第二・・転移門から地界へ潜入し、恐らく人族の補給基地があるはずだから、それを壊滅。次いで地界側から第一転移門を奪取し、占拠してちょうだい」


 最近発見された第二転移門。第一同様に地界へと繋がっているゲート。通じている場所も第一と同じ場所だ。高さを除いて。

 地図上で見れば全く同じ位置なのだが第二転移門は遥上空の雲の上へと繋がっていた。

 我々魔族は自身の翼で飛ぶことが可能だが、人族はそうは行かない。故に発見される可能性はほぼゼロに近い。

 地界側の転移門を抑えれば、敵側の増員の心配をしなくていい。


「相手は厄介な魔術を使うようです。油断せずに事を運ぶように。誰一人、死んでは許しませんよ」


全員が了解の返事をし、各々の任務を遂行するべく、現地へと向かった。


「フランは皆から集まる報告を受けて私に要点だけを報告して頂戴」

「畏まりました」


その後、遅れて入って来たのはクオーツの団長アルザスだ。


「お前には酷な任務を頼みたい」


アルザスは、仰々しく膝を付き頭を下げる。


「私は魔王様の手足です。何なりとご命令下さい」

「第一転移門の結界内部が壊滅状態になっている。お前にはまだ息のある者の救出を頼みたいのだ」

「まさか、そんなことが⋯。あの中にはセイリュウ様もおられたはずです」

「うむ。相手は妙な魔術を使い、我らの力を弱体化していると報告が入っている。足元の巨大な魔法陣がそれだ」


私が指し示した背面映像を見て、アルザスの顔が苦悶の表情へと変わる。


結界を解くことは出来ない。だが、術者のシリュウならば結界内を自由に出入り出来る。


「シリュウには既に説明している。現地で協力し任務を遂行してくれ。危険なのは承知しているが、これは他でもない確かな実力を持っている其方にしか頼めぬのだ」

「勿体ないお言葉。私は全ての女性の味方です。必ずやらセイリュウ様や他の方も救い出して見せましょう」

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