第328話: 人族の反撃1
魔族大行進によってもたらされた影響は甚大だった。
大樹海バアム近郊諸国は壊滅し、犠牲となった者達は数知れない。この時代の人族の戦力を十とするならば、今回たった数百人足らずの彼等魔族の侵攻によって半分近い四もの戦力を失ってしまった。
それは、最後にアヴィエルが放った
名のある冒険者並びに勇者やその仲間たちがツガール帝国に集結したまさにそのタイミングを狙い、ツガール帝国毎別次元へと飛ばしたのだ。飛ばされてしまった彼等の安否を知る者は誰もいない。張本人であるアヴィエルもまた技を発動した段階で死んでしまったのだから。
この事態を重く受け止め、全ての人族たちは魔族という存在をどの種族よりも警戒せねばならない強大な敵であると言う共通の認識を持つ事となった。奇しくもそれは、アヴィエルたち新世代の地界へ侵攻した最大の目的でもあった。
時は流れ、魔族大行進の出来事から百年余りが経過した頃だった。
この百年些細なイザコザはあったものの、他種族との抗争など大きな出来事はなく、魔界も平和そのものだった。
大きく変化を遂げたのは、魔界でも作物の育成方法が確立されたことだろうか。それも偏に魔王ナターシャの功績が大きく、魔界の組織の一つに農業に特化した農業促進部隊を発足した。
彼等はあの出来事以降も足繁く地界へ赴き、地界の豊かな土壌を魔素の多い魔界でも馴染むように改良を行った。それはすぐに魔界全土へと行き渡り、今では飢餓で苦しむ新世代たちもいなくなった。
今日も魔王はいつもの執務室にて内政の資料に目を通し、頭を悩ませていた。
「魔王様、失礼します」
入って来たのは、魔王軍第三部隊長のアスベル。
彼は若干82歳でありながら僅か数十年の内に今の地位まで登り詰めた若手の最有望株と言われていた。
「地界に不穏な動きが見受けられましたので報告に挙がりました」
アスベル達第三部隊の主な任務は、極秘裏に地界へ赴き地界の者達の動向を探ることだった。
「異世界より来訪した勇者が我等を討ち滅ぼすべく、王都を出発したとのことです」
異世界より来訪? なんだそれは⋯。
「どうもそれは別の世界からこちらの世界に渡ってくることのようです。しかし、問題は渡ってくる際に神より天啓が下され特殊な能力が授けられるのだそうです」
我々はこの現象を神の悪戯と呼ぶ事にした。
異世界の勇者は、魔王である私を倒すべく魔界へ渡る方法を探っており、魔族大行進の発端となった大樹海バアム周辺に目をつけ、虱潰しに探していると言う。
「見つかるのは時間の問題か?」
「ええ、誤魔化してはいますが恐らくは数日中に転移門の所在は見つかるかと」
由々しき事態だな。資源の調達が出来なくなってしまうが、地界に渡れなくなったとしても当面は問題ないだろう。
「なるべくならば交戦したくはない。最低限の人数を残して総員地界から撤退してくれ。偵察は引き続き頼むぞ」
異世界からの来訪者か⋯。嫌な予感がするな。
仮に転移門が見つかった時のことを考慮し、部隊を配置しておくべきか。
「フラン、そう言うことだ。主戦力である第一部隊を魔界側転移門の警備にあたらせてくれ。部隊の指揮は、元老院のセイリュウに取らせてくれ」
「セイリュウですか」
「不満か?」
「いえ、実力は認めます。しかし、まだ彼女は若い。戦闘においての指揮経験もありません」
「そうだな。だが誰しも最初というものは存在するのだ。初陣として経験を積ませたい」
「かしこまりました。すぐに手配します」
争いなど起きなければいいのだがな。
数日が経過する。
魔王の願いも虚しくアスベルの読み通り、勇者一行が転移門の場所を見つけてしまった。
彼等はたった五人と言う少人数にも関わらず地界側転移門前で警備していた魔族たち十二人を全員討ち倒してしまった。
すぐにでも転移門を使い魔界側へ渡るのかと思いきや彼等は転移門を囲み占拠するだけで、更に数日が経過した。
「流石に少数で攻めてくるほど高飛車ではないようだな。恐らくは本陣を呼び寄せているのだろう」
「もしも大軍で押し寄せた場合、突入と同時に四方八方に散らばれては厄介です」
「ああ、それに関しては既に手は打っているよ」
争いたくはなかったが、こうなってしまっては仕方がない。
だが、まずはこちらに攻め込む意図を聞かねばな。
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