第327話: アヴィエルの最期
《強制断空(インフィニティエンド)》
アヴィエルが行使したのは、対象を別の次元に飛ばす
広大なツガール帝国の全土を別の次元へと誘う。アヴィエルは発動した瞬間、己が魔力の全てと何十年と溜め続けていた全ての魔力をも使い果たしてしまった。
薄れゆく意識の中、アヴィエルは最期の時を迎えようとしていた。
(これでいい。我等魔族こそが最強だと言うことを⋯歴史の一ページに記すことが出来ただろう⋯。死ぬことに後悔は⋯ない。後は、残りの同志たちが私の意思を注ぎ、必ずやいつの日か地界を取り戻してくれることを願い今は⋯眠ろう)
(馬鹿なことをしおってからに)
アヴィエルの精神世界へ何者かが干渉する。
姿形は見えぬともアヴィエルは確かにその存在を感じていた。
(魔王⋯⋯様?)
魔王ナターシャ本人だった。
(これは先代魔王様、つまり初代魔王様より聞いた話だ。我等が魔界を離れた本当の理由はな、他ならぬ同胞を救う為なのだ)
(嘘だ! 私は聞いたぞ。邪神に裏取引を持ちかけられたと。その邪神の真なる狙いは、魔族が地界へ留まれば、いずれ地界を統一してしまうと我等の力を恐れたからだとな!)
(その当時、我等の人数は精々数百人程度だった。いくら強くてもそれだけの人数で地界統一など叶わぬ夢だと言うことは今のお前ならば十分理解出来るであろう?)
アヴィエルは言い返せない。それは今回地界侵攻し、身を持って体験していたのだから。寧ろ認めたくはないがそんなことは最初から分かりきっていたことだった。
(初代魔王アリオト様は、度重なる他種族の抗争を嫌い我等魔族が安心して繁栄を遂げられる安住の地をずっと探しておられた。結果として邪神と取引することにはなったが、安住の地を手に入れたのだ。その見返りに自らの命を捧げてしまう結果となってしまったがな)
(ふん、当の本人がが死んでしまっては意味がないだろう)
(お前と同じだ。託したんだよ。お前たち次の世代にな)
(⋯⋯なら、私たちがやったことは間違っていたのか? 同じ思想を持った同志をたくさん犠牲にしてまで証明しようとしたんだぞ。今更彼等に何と言えばいい)
(過ぎ去ったことは変えられない。それこそ全知全能な神でもない限りな。それに悪いのはアヴィエルお前ではない。お前たち新世代を止められなかった私が原因だ)
(偽善者だな)
(ああ、何とでも言うがいい。私が魔王をしている限り全ての魔族は我が子も同然。それがどんなに出来が悪く、どんなに性格が捻じ曲がっていようとな)
暫しの沈黙が続く。
(もう去れ。そろそろ眠らせてくれ。全く、お節介な魔王様だ。折角最高の高揚感を持ったまま死後の世界へ旅立てると思っていたのだけどな)
(魔王はお節介なんだよ。厄介次いでに一つ約束しておく。今後、お前たちのように暴走し、同じような思想を企てる者が現れないように私が尽力するとこの真名に誓おう)
(いいだろう。死後の世界で見ていてやるさ。魔族の行末をな。それと⋯⋯ありが⋯とう⋯)
辺り一帯が真っ白になり、離脱していた精神が戻される。
「魔王様、泣いていらっしゃるんですか?」
アヴィエル本人が絶命し、精神干渉が解かれたのか。
どうやら知らず知らずの内に涙を溢していたようだな。
「フランか⋯。あぁ、すまぬな。目にゴミが入っただけだよ」
「無理をされておられませんか? 最近あまり寝ておられないでしょう。少し仮眠を取られては如何ですか? いえ、仮眠を取ってください」
最近、私の側で身の回りの世話をしてくれているフランだ。クオーツで活躍しておった姿を一目見た瞬間、その才能を買った私が引き抜いたのだ。相手が魔王だからと物怖じしないその態度も高く買っている。
「そうだな。お言葉に甘えよう。フランよ、スザクが戻ったら連絡してくれ」
「確か、スザク様は地界侵攻中の新世代の監視役でしたね」
「ああ、もうじき終わるよ。双方共にたくさんの犠牲者の血が流れ落ちてしまったよ。フラン、お前は争いは肯定派かそれとも否定派か?」
「お答えするならば、どちらでもありませんね。争わなければならない理由があれば戦いますし、争う必要がなければ戦いたいとは思いません」
「そうか、お前らしい答えだ」
席を立ち、寝室へと向かう。
そのまま吸い込まれるようにベッドへダイブする。
木漏れ日が差し込みそれが何とも心地良い。一体どれだけ眠っていたのか、実際は数時間程度なのだろうが、一週間振りの睡眠と言うこともあり晴れやかな気分だった。
私は地界より戻ったスザクの報告を聞いていた。
「そうか、彼奴らは最後の一人になっても戦い抜いたか。その誇りは尊敬に値するな」
「それからアヴィエルは何処か別次元へと向かったようです。それも地界の猛者たちと一緒に。恐らく、あれだけの技だ、反動で術者も既に死んでいるとみて間違い無いと思います」
その後、魔王城の地下に彼等の墓標を立てた。
墓標には、以下の文字が刻まれていた。
"この騒動忘れることなかれ。
信念のために勇敢に戦い死んでいった英雄たちに捧ぐ。
我等は二度と同じ過ちを繰り返さないと誓う"
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