第326話: アヴィエルの覚悟
アヴィエル率いる新世代たちは、魔界を離れ目下拠点とするべく場所を探していた。
先行させていた偵察の情報によると、この大陸の玄関口にあたる港町クヴェリがここから一番近い箇所にある。ここならば、陸海両方を牽制することが可能だし規模もそこまで大きくなく、頃合いかもしれないな。
クヴェリを攻め落とすように皆に指示を出す。
こちらの人数は精々三百人と少数だが、皆精鋭中の精鋭だ。今後のことを考えれば誰一人として欠けるわけにはいかない。本当ならば五倍近い人数が今回の地界侵攻に志願してくれた。しかし、今回は短期決戦を重視した戦略。故に戦力として乏しい仲間は魔界に置いてきた。その際に『俺たちの成したことを魔界で見ていて欲しい』とだけ言葉を残してきた。
それに、俺たちは全員死を覚悟している。故に覚悟のない者は連れて行くわけにはいかない。
結果、一人の犠牲も出さずに港町クヴェリを制圧した。
その後も我々が占拠している噂を聞きつけた輩が幾度となく攻めて来たが、既に鉄壁の防衛陣形を築いており、造作もなく撃退することが出来た。
ここまでは概ね予定通り事が運んだ。問題はこれからだ。
偵察の情報によると、どうやら周辺諸国同士で連合軍を作り、数の暴力で俺たちを制圧するつもりらしい。その軍勢は数えるのも億劫になる程に。大凡二万。
「何の問題もねえ。精々一人で百人倒せばいいんだろ?」
「そんな数、私の魔術隊に掛かればイチコロよ」
魔術隊の指揮を執っているアクマスは、魔術が得意な新世代の中でも突出した才能を持っていた。
彼女が最近開発した複数の魔術師による複合魔術なる超火力技術は今回の戦力の要だった。
「頼りにしているぞ。それから、常に奴等の背後には人員を配置しろ。敗走兵ほど仕留めやすいエサはないからな」
魔族と人族の連合部隊との戦いの火蓋が斬って落とされた。
計算違いだった。
まさか、こんなにも人族がモロいとはな。
五十人程の犠牲を払いつつも、人数差百倍以上の連合軍相手に完全勝利を遂げることが出来た。
だが、これで証明出来た。やはり、我等の強さは圧倒的だと。この地界を統一するのは、我等魔族なのだと。
しかし、全てが順調とは行かなかった。
周辺諸国連合を潰したことにより、我等の脅威が露呈してしまった。それにより、更に強い連中に目を付けられてしまった。
更には、我等のことが目障りだと人族以外の連中も攻めて来る始末。現状全てを撃退出来はしたが、こちらも相当数の人数を減らしてしまった。
当初三百人いた同胞たちは、今では八十人足らずまで減ってしまった。
挙げ句の果てに、どうやらこの地界における最強国が我々を仕留めるべく武勇に優れた者たちを集めているのだとか?
だが、これは好機だ。
私の
この時の為に何十年も費やし準備してきたのだ。必ずや成功させ、奴等を纏めて駆除してやる。
「アヴィ様、アクマスがやられました。それに付随し、魔術隊が壊滅しました」
「連中は?」
「深追いはしてきませんでした」
我々の強さは揺るがない。
だが、やはり地界の全てを相手にするのはやはり無謀だったか。
ふっ、最初から分かりきっていたことだがな。
元より、この地界に生息する者相手にたった三百人で太刀打ち出来るはずもない。だが、爪痕くらいは残すことが出来たであろうか。
我々の目的は魔族は何者よりも強いと言う事実を刻み込むことだ。
その昔、我々魔族は卑怯な邪神の取引に応じて地界を去る羽目になった。だが、それは魔族の力に恐怖した邪神の策略だったのだ。恐らく地界の他種族たちと結託していたに違いない。地界の豊かな恵みを捨て荒廃した土地だけの何もない場所に何百年も閉じ込められた。この恨みは晴らさせて貰う。全ての種族の中で最強なのは、我々魔族だ!
それを証明する為だったら、我々は喜んでその為の礎となろう。
「皆、ここまで私についてきてくれて感謝する」
メリクが剣を高らかに上げる。
「なにを言ってんすか。皆、アヴィ様の為に命を賭けてるんだ。ここにいるのは、死ねと言われれば喜んで死を受け入れる連中すよ」
「そうだな、一人でも多くを道連れに死んでやろうじゃないか」
私はあの作戦を実行する。
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