第325話: アヴィエルの策略
人数では圧倒的に劣る魔族たちではあったが、それ以上に連携の取れた動き、経験則からくる対応、反応の早さは即席の連合軍では全く相手にすらならなかった。
左軍同様に右軍も全滅に近い被害を被ってしまった。
アヴィエルたちの周到さは、敗走を許さない点だった。行手を阻み例外なく最後の一人においてまで皆殺しを第一に掲げていた。それ程までに新世代の彼等は人族を含めた地界の住人を恨んでいた。
最も戦力を集めた海洋からの攻撃は、左右の被害の状況を鑑み、即時撤退となった。
「何てことだ⋯⋯大敗なんて言葉は生温い。くそっ! 魔族共め」
指揮官のザリューは甲板の手摺りを強く叩きつけた。
「こうなってしまっては、最強と名高いツガール帝国に救いを求めるしかあるまい」
当時、最強国家と言われていたツガール帝国には、名高い冒険者や勇者、魔導師が多数在籍していた。
近隣諸国だけでは魔族たちの侵攻を止めることが出来ないと判断した代表者たちは、更に広域諸国へと救援を求めた。
その声は、当然ツガール帝国にまでに及んだ。
''腕に覚えのある者はツガール帝国に集結せよ''
そんな声が至る所で囁かれるようになった。その言葉通り、来る魔族との戦いに備えて強者と呼ばれる者たちが続々とツガール帝国へと集まっていく。
「魔族とやらはそんなにも強大なのか?」
「お前、疑っているのか? あの剣王様が脅威に値すると言っておられるのだ。まず間違いないだろう」
剣王とは、リステ救出の際に第四拠点で魔王たちと対峙した人物だ。そもそもが、強国であるツガール帝国をこんなにも早く動かしたのは人族の中で五指に入る程の実力だと言われている剣王の絶大たる発言力が影響していた。
実際には、剣王が出会った者たちは今回の侵攻には参戦していないが、そんなことは人族側は知る由もない。
決戦の時は三日後の早朝と決まった。場所は最初の戦いと同じ港町クヴェリとなった。
ツガール帝国からクヴェリまでは最速の飛竜に乗っても四日の距離だ。これでは決戦当日までに間に合うはずもない。しかし、ツガール帝国は他国にはないある装置を保有していた。
《
一度に千人以上を指定された場所へと転送する装置。魔力を動力とし、一日五回を限度に作動させることが可能で、離れた戦地であっても一瞬で移動することが可能なのだ。
決戦当日、本来ならば大多数が寝静まっている早朝だと言うのにそこら中から金属の擦れ合う音、話し声などが聞こえて来る。見渡す限りには、この大陸中の猛者たちがツガール帝国内でひしめき合っていた。
そんな最中事件は起こった。
「おい、なんだあれは!」
誰かが叫び、皆が空を見上げる。
ツガール帝国の上空が突如として暗黒に包まれたのだ。時刻は早朝。夜明け寸前で明るくなり始めたまさにその時に再び闇に包まれた。
「聞け! 愚かな地界に住まうゴミ共。我は魔族を率いる王なり」
声の主は、新世代の先導者アヴィエルだった。
ツガール帝国の上空にてアヴィエルは悠然と両手を広げていた。それはまるで自分が超越した存在、神だとでも言わんばかりの誇示だった。アヴィエルは挑発が目的だったが、その策略はまんまと成功した。
「たった一人で敵地へ乗り込んでくるとは、余程死にたいとみえる」
「そうだ! やっちまえ!」
上空にいるアヴィエルに向けて大量の魔術が放たれる。
「貴様たちなど、戦うにすら値しない。次元の狭間で永久に彷徨い続けるがいい」
目撃者は、皆口を揃えてこう言う。
『突然ツガール帝国が消えちまった』
アヴィエルが行使したのは、対象を別の次元に飛ばす
発動の際に供給した魔力の量により、別次元へ飛ばす範囲を指定出来る。
それでもツガール帝国のような広大な土地を全て網羅するには魔界随一のアヴィエルの総魔力量を持ってしても到底足りるはずもなかった。
しかし、何処からか仕入れた魔力を永続的に貯めておける魔導具を使い、大凡30年余りの長い時間を掛け少しづつ魔力を貯め続けていたのだ。
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