第319話: 2代目魔王ナターシャ5
リステルシアが叫ぶ。
「姐様が⋯スー姐様が⋯何処にもいなくて、周りにモンスターの残骸が散らばってて、その中にこの腕が⋯落ちてて、えと、それから⋯」
血塗れなのは、自身の血ではなく大事そうに抱えていた腕の持主のもののようだ。
「落ち着けリステルシア。見たものを正確に話してくれないと何も伝わらないぞ」
私は同時に念話で側近のビャッコとコンタクトを取り、すぐにクオーツの派遣を要請を依頼した。
リステルシアから得た情報は、この腕は時空の畝りの向こう側で争った跡があり、そこに一緒に落ちていたそうだ。
「⋯間違いなくスー姐様のモノです。私には分かります。断言出来ます」
状況から察するに、出た先で待ち伏せに遭い、襲われてしまったと考えるのが妥当だろう。
しかし、スーは魔族一の実力者集団クオーツのNo.1だぞ⋯不意を突かれたからと言って相手に遅れを取るとは考え難い。
「突撃組は十分に注意してくれ。敵の数は不明だが、忘れるな。諸君らの任務は、敵の殲滅でも武勲を挙げることでもない。諸君らクオーツの団長でもあるスーの救出だ。完了したら即時撤退は勿論のこと、逆の場合は、敢えて言う必要はないな。成功を祈る」
集まったクオーツは三十人中十八人。中へ入るのは十四人と側近のゲンブ。残りの四人がこちら側の防衛に就く手筈となった。
突撃部隊の指揮は、ビャッコが取ることとなった。
「頼んだぞ、ビャッコよ」
「はっ! 必ずなスー殿を見つけ出し、連れ戻して見せましょう」
突撃部隊が時空の畝りに入って行くのを見守り、こちらも布陣を形成する。
「時空の畝りを中心に包囲陣形を取れ。仮に異形の輩が出てこようとも、攻撃はするな。攻撃の合図は私が取る」
スザクが指示を飛ばし、皆がそれに応じる。
待機組は緊張しているのか、皆落ち着かない感じだった。
スーの身を案じているのもあるのだろうが、何より実戦自体が恐らく初めてなのが大きい。今まで訓練ばかりだったのだし、平和な魔界に敵が攻めて来るなど過去に一度たりともなかった。
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ビャッコ視点
あれは⋯なんだ?
時空の畝りの中を抜けたかと思えば、広がっているこの景色は、まるで我々が過去住んでいた地界ではないか。やはり、このゲートは地界に繋がっていたのだ。
新世代のこやつらは、地界の存在を知らない。当時の魔界へと渡った旧世代の我々は、魔王様とも協議した結果、渡ってきた以降に生まれてきた俗に言う新世代のこやつらには地界の存在を隠しておくことに決めたのだ。
それは、無駄な争いを避ける為と魔王様は言っていた。私はよくは分からんが、要するに我々魔族は地界の争いからただ逃げてきただけだと言う認識を持たれない為な布石なのだろう。
「モンスターの残骸が転がっているな」
「リステの報告にあったスーが交戦した時のものだろう。それよりもスー殿の姿は見えないか?」
辺りを探すも、霧が立ち込めており、数メートル先が見えない状況だった。
「ラチがあかんな。まずはこの邪魔な霧を吹き飛ばすとしよう」
この程度の霧、私が消滅してくれよう。
《
召喚された竜巻が、轟音を轟かせながら、周りの霧を吹き飛ばして行く。
霧が晴れた先で待っていたのは、数多のモンスターの待ち伏せだった。
むぅ。少しだけ距離があったにしても、げせんな。全く気配を感じなかったのは何故だ。
実力、戦力が拮抗している場合によっては、待ち伏せが成功した段階で勝負が決着することもある。取り敢えずは、探知役を叱咤せねばな。
「おい、探知班は何をしていたんだ。囲まれているではないか!」
「恐らくですが⋯先程の霧がそれら全てを覆い隠していたのかと」
なるほど、だから私も察知出来なかったのか。
「しったこっちゃないさ。敵がいるんだ。殲滅するだけだろう」
「おい、待て⋯」
クオーツの何人かが敵に向かって走り出す。
全く、血の気の多い若造はこれだから好かん。
相手の実力も判らぬまま、無闇に突っ込むなど愚の骨頂だ。
だがしかし、この部隊を任せられた以上、任務の遂行は絶対だ。死傷者を出すことも許されない。
「魔術隊を囲むように陣形を形成し、魔術隊は前衛部隊の援護を。全体警戒は私が行う」
戦いの火蓋は切って落とされた。数では圧倒的に不利な状況だったが、一個体の力はそこまでないようだな。次第にモンスターの尸が積み上がって行く。
「なんだ、全然雑魚だったな。もう少し歯応えがあると思ったんだけどな」
「ルーイ。油断してたら、命を落とすわよ?」
流石はクオーツと言った所か。私には及ばないまでも、それぞれが申し分ない強さを有しているようだ。これならば、相手がどんな奴であろうとも負ける気はしないな。
その時だった。
奥の方から大きな音が聞こえたかと思えば、後から衝撃波が襲って来る。全員が飛ばされまいと、その場に屈み込んだ。
眼前に一体の巨大な化け物が降臨する。
「なんだ、あいつは⋯」
その化物の手に握られていたのは、目的であったスー本人だった。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、全員が固唾を飲んでその場から動けなかった。
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