第309話: 破壊神トリアーデフ編17

 突如として襲ってきた真っ暗な世界に成す術なく追い詰められていた。

 この闇の中では、得意の魔術の類は一切使用できず、逃げの一手を余儀なくされていた。

 こんな時だからこそ冷静になるんだ。白の魔女にも言われたじゃないか!


 それまで無闇矢鱈に動き回っていた俺は気持ちを落ち着け集中するために敢えてその動きを止めた。

 既に右腕を無くし、貫通こそしていないが、背中には3本の剣が刺さっている。魔術が使用できないので回復させることもできない。故に引き抜くと出欠多量で気を失う可能性すらある。

 無駄に高いレベルのお陰でこの程度じゃ死なないのは唯一の救いだろうか。


 やはり治癒ヒールは使えないか。魔術強制解除ディスペルも駄目か。鑑定アナライズも使えないから自分の状態すらも確認できない。

 使えないというより魔力が霧散する感じだろうか。


 暗い。

 本当に暗い。

 ただの暗闇なら目が慣れてもよさそうなものだが、一向にその気配はない。


 その時だった。


 何かが近付いてくる微かな風切り音が聞こえてくる。先程までならば気が付かなかったかもしれない。

 その音をより鮮明に拾うため耳に手を当てる。飛来する何かを右に躱す。次いで飛来する何かを今度は右に躱す。

 どうやら聞き耳スキルはちゃんと仕事してくれているみたいだな。


 外套の下が微かに光っているのに気が付いた。それは久し振りの闇色以外の色だった。

 外套の下にあったのは、ここへ来る前にサーシャから貰っていた首飾りのペンダントだ。

 そのペンダントに触れた瞬間、懐かしいような暖かい何かが流れ込んでくる。

 何故そう思ったのか、今なら魔術が使える気がしたのだ。


 《治癒ヒール


 弱々しいながらも確かに治癒ヒールは発動し、失った右腕が再生した。慌てて背中に突き刺さっていた剣を引き抜いた。

 このペンダントは普通の何の変哲も無いペンダントだからとお守り代わりにと言われて受け取ったものだったんだけど。このペンダントに何らかの力が宿り魔術が一時的に使えるようになったのか? あるいは⋯

 そうか、もしかしたら、この闇は、ははっ、なるほどな。


 確かストレージの中にあれがあったはずだ。


 本来ストレージを利用するにも微小の魔力を消費する。

 先程までは使用できなかったはずだが、このペンダントに触れていると僅かな時ならば魔力を留めておくことができる。


 魔導具:貝光提灯


 これは半永久的に光を放ち続ける提灯だった。

 取り出した瞬間に眩い光を放つ。

 単純な話、闇を打ち消すのは、他でもない光だったのだ。

 光を浴びてると普通に魔術が使えるようだ。

 視界が鮮明になったことで、さっきから引っ切り無しに飛んでくる剣をギリギリで躱す。

 その際、立ちくらみを憶えた。

 かなり血を流したな。傷は癒えても流れ出た血は回復しない。

 これは、キツいな⋯

 あいつ、間をおかずに俺を疲れさせる作戦か。


 《光源フラッシング


 複数の光源フラッシングを全方位に打ち上げる。


 辺り一帯を侵食していた闇を全て払い除けると、そこには数多の剣と共に浮遊していたトリアの姿があった。


「まさかあれを打ち破るなんて思わなかったわ。ますます惜しい人材だけど。仕方ないわね。死んじゃっていいよ」


 トリアは右手を振り下ろす。それに従い剣が俺目掛けて飛来する。


 転移でトリアの背後に躱し、反撃を開始する。

 聖剣アスカロンを握りしめトリアを斬り付けるが、飛来する剣の護りに阻まれてしまった。

 新たに魔術無効と追跡の付与された無数の剣が俺を襲う。

 くそっ、避けても避けても何処までもついて来やがる! 剣で払い除けるが、何分数が多すぎて雀の涙もいいとこだ。

 しかも、払い除けた先からまた襲って来る始末だ。


「ふふーん、貫通、魔法無効、破壊不可、追跡。さあ、どうする?」


 風刃ウィンドカッターでトリアを狙うも魔術無効の剣が常時トリアの周りで鉄壁のガード体制をとっている。

 高威力の魔術は魔力の溜めが必要で、間髪いれずに剣で攻撃を繰り出されることでそれをさせまいとしていた。

 絶体絶命の最中、フランが颯爽と俺の前へと現れた。

 しかし、誰が見ても既に満身創痍の状態だった。


「はぁ⋯はぁ⋯助太刀します」

「へぇ、キャロちゃんを倒したんだ。でも今更そんな状態で何しに来たの? 何ができるの? こそこそ隠れてればいいのにさ。ね、キミもそう思うよね。雑魚が、足手まといが居た方が逆に邪魔だってのにね」

「俺はそうは思わない」


 フランに治癒ヒール状態回復リフレッシュを施す。


「気を付けて下さい。あの剣は、魔術が効きません。更に貫通と追跡に加えて破壊不可の付与がされてます」

「助かりました。にしても厄介ですね。私があの剣を引き受けますので、ユウ様は本体を叩いて下さい。行けますか?」


 そう言い、ニコリと笑みを向けるフランさんに、ここまでずっと張り詰めていたものが良い意味で抜けていくような感覚に苛まれる。


「力み過ぎですよ。1人で全て背負い込まないで下さい。今は私もいます。2人でイスの仇を討ちましょう」

「ありがとうございます。集中するので少しだけ時間を下さい」


 俺は目を閉じる。

 そんな絶好のチャンスを逃すはずもなくトリアは剣を向ける。

 繰り出される剣を全てフランがその拳で応戦する。


 トリアを倒すには、一瞬の隙を突くしかない。あいつは、自分がまだ格上で負けるはずがないとタカをくくっている。付け入るなら油断している今しかない。それにトリアは俺のことを自分と同じ魔術師だと認識しているはずだ。実際そうなんだが、意表を突く意味でも物理で攻めた方が恐らく成功率は上がるはずだ。ありったけの強化付与をつけて物理で押し切る。それで行くしかない。

 仮にまたあの防護壁を使われたとしてもあの技を使えば数秒で消し飛ばせるはずだ。


 魔力回復ポーションで魔力を全回復させる。


 目を開けると、写り込んだのは血だらけながらも無数の剣を相手に善戦しているフランさんの姿があった。

 違いが互いを信頼しているからこそ何も語らず己がすべきことをやり遂げる。


 《限界突破オーバードライブ

 《瞬身アンリミテッドポテンシャル

 《魔俊敏》

 《魔剛腕》


 身体強化一式を自身に施すと、トリアを倒すべく転移する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る