第310話: 破壊神トリアーデフ最終話
トリアの正面から
続いて
正確にトリアをロックオンした雷撃を周りを浮遊する剣が的確に防いで行く。
既にトリアの正面と頭上には100を超える剣が忙しなく動き回っていた。
「もう! 魔法が効かないからって、調子に乗らないでよね!」
《剣の乱舞》
魔法によって創作された剣が俺を襲う。
当然ながら魔術無効の俺には、剣と言えど魔法によって創作されたまがい物ではダメージを与えられることはない。
トリアの目的は、この形だけは本物の剣に本物の剣を織り交ぜ数を増やし翻弄する作戦だった。俺を射殺そうと周りを飛来する剣の数は100は下らない。勿論俺にはそれを見分ける術はない。
だけど、もう遅いよ。
後方へと転移し、今持てる最高の速度と力で無防備なトリアを斬り付ける。
確かにトリアは反応できなかった。それは本人の反応を見ても明らかだった。
しかし、彼女の反応とは裏腹にそれは
《
「びっくりさせんじゃないわよ! 私は無敵なの! 最強なの! あんた何かじゃ傷一つだって不可能よ!」
最後の隠し奥義をここで使わせてもらう。
《
瞬く間に繰り出された連撃の総数は秒間352発。
それは本家のセイリュウの大凡3倍の速度だった。
トリアの自慢の防護壁が一瞬の内に消え去った。
近くのトリアを守護する剣が俺を追撃するも時間稼ぎにすらならなかった。
一秒前まで余裕の表情を見せていたトリアの表情が見る見るうちに青ざめていく。
「もう、何なのよ!」
《旋風・大鎌鼬》
焦ったトリアは、魔術を行使してくるが、俺には効かない。
躊躇いもなく、再びセイリュウより教わりし技を発動する。
《
「チェリちゃんっ!」
2人の間に割って入ったのは、フランさんが倒したはずの巨大熊だった。
《
その名の通り、自立型の戦闘特化型のテディベアだ。非常に好戦的でその体躯の割に素早い動きで相手を翻弄し、圧倒的なパワーで全てを破壊する。
《
この中に入れば、あらゆる物理、魔術攻撃から身を守ってくれる。
かつてトリアは、自国を同じ7大魔王であるセルバによって滅ぼされた際に使用された国破壊兵器ですら無傷で耐えた代物だった。
トリアには自身の身を守るための仕掛けを幾つか施していたが、
トリアの断末魔の叫びが結界内に響き渡る。
文字通り全てを出し切った俺もその場へと一緒に倒れ込む。
それはフランさんも同様だった。
2人ともが勝利を確信していた。勝利を疑っていなかった。
しかし、事実は残酷だった。
トリアの残骸だった遺物が、淡い光を帯び始めたのだ。
夥しい魔力の奔流と共にその光がどんどんと色濃くなっていく。
嘘だろ⋯もう、指一本動かせないぞ⋯。
魔力残量ゼロによる脱力感と
《超速再生》
トリアのいた世界では魔術のことを魔法と呼んでいた。その魔法の全てを極めたトリアは、最後に辿り着いた魔法の真髄。それは超速再生だった。
身体のほんの一部分でも残っていれば発動することが可能な魔法。もはや死者を蘇生させる類だった。
ははっ、欠片から人が創られていく様は何とも滑稽だな。目を逸らす力すら残ってない。
それを黙って指を咥えて見ることしかできないなんてな⋯
数秒もしない内にトリアが完全に復元されてしまった。
しかし、無表情のままその場からピクリとも動くそぶりがない。
「あれが件の7大魔王か」
突然話し掛けられ慌てて後ろを振向こうとすると小さな何かが勢いよく抱き着いた。
「お兄ちゃん!」
ユイだった。
「なんでユイがここに⋯」
極限状態のところに、行方不明中の魔王様の幻聴に加えてにここにいるはずのないユイの幻覚まで見えるようになったのか。いよいよ俺も終わりかもしれないな。
「いつまで寝ぼけておる。いい加減起きんか」
観念して上を向くとそこに見えたのは、ちょうど跨る形で立っていた女性の姿だった。
「えーっと、ここは天国⋯なのか。あぁ、そうか俺は死んだのか」
「もう! しっかりしてお兄ちゃん!」
ユイに往復ビンタをもらい、やっとのことで正気に戻る。
「助けに来てくれたのか⋯」
上体を起こした俺に相変わらずの超絶タックルからのハグをするユイ。
「こんなにボロボロになって、心配したんだからっ。でも、無事で良かったよ」
「ユイもよく無事だったな。その様子だと他のみんなも大丈夫みたいだな」
コクコクと頷くユイの狐耳を久し振りに堪能する。
「久し振りじゃの」
疑う事なき魔王様の姿が目の前にあった。それは幻聴でも幻覚でもない。いつもの様に強者の証である余裕の笑みを浮かべ、俺を見降ろしていた。
「魔王様も良くぞご無事で。姿が見えなくなって心配したんですから。って、それより逃げて下さい! またあいつが襲って⋯」
完全再生したトリアがこちらを一点に眺めたまま静止していた。
「どうやら身体だけは再生されても魂までは戻らんかったようじゃな。今のあやつは器だけでただの抜け殻ということじゃ」
魂が戻らなかった?
確かに再生してから数分が経過してるのに何か変だとは思ったけど、もしかしたらあまりにも損傷が激しく、トリアにとっても想定外の出来事なのか?
「どちらにしてもお主が勝ったんじゃよ。妾の手助けは必要なかったな」
「終わった⋯んですね⋯。ギリギリでしたけどね。再生されて、正直もう半ば諦めてましたし、それにフランさんや⋯⋯イスみんなの力があったからで、俺1人じゃとても」
「見事な戦いでしたよユウ様。改めて尊敬しました」
そう言い、手を差し伸べるのはフランさんだった。
その手を掴み起き上がる。
フランさんは衣服こそはボロボロだが、魔王に回復してもらっていたのか、先程の苦しそうな姿が一変していた。
その傍には、首を刎ねられたはずのイスの姿が⋯⋯?
「イ、イス!?」
「なにさ、そんな死者がイキナリ現れたみたいな顔してさ」
「いや、だってお前、確かにあの時に⋯」
「魔王様に蘇生して頂いたのよ」
呆れた顔を魔王へと向ける。
「何でもありだよな、ほんと」
「人を化け物みたいな顔して見るでない。なに、妾とて万能ではない。同族に限りじゃが、命を落として時間があまり経過していなければな。蘇生できるだけじゃ」
さ、流石魔王様だな⋯。
イスが生きていてホッとしたのか、トリアを討伐できて気が抜けたのか、俺はそのまま倒れるように意識を失った。
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