第300話: 破壊神トリアーデフ編8

 初代魔王アリオト・ヴェゼルアース。


 まだ全ての種族が地界で生存争いをしていた頃の話。


 彼は魔族達を率いて安住の地を探していた。


「アリオト様、獣人族の王が謁見を求めております」


 跪くのはアリオトに仕える側近、サキュバスのナターシャ。


「そうか、どうせ次戦の日程と場所の打ち合わせだろう。獣人族共は何故そうも争いを好むのだろうか⋯。取り敢えず忙しいと追い返しておいてくれ」


 当時、獣人族である熊人族べアル狼人族ルーヴ犬人族ティーグル兎人族ラビを率いていたのは、一際身体の大きな熊人族べアルのグロッサムだ。


 グロッサムは非常に好戦的で、戦いの事しか頭になく、戦いを挑み、勝利し自らの傘下に他種族を収めてきた。


 彼には一つ思想があった。

 それは、この世界の王になる事。自らの熊人族ベアルが全ての種族の頂点に立ち、その王になる事だった。

 だが、そんな馬鹿げた事を考えてしまう程にグロッサムは強かった。


 そんな彼が次に目をつけたのが、アリオト率いる魔族だった。

 アリオト自身はグロッサムにも劣らない力を持ってはいたが、そもそもが個体数の数が圧倒的に少ない魔族は、絶対的な不利な立場に立たされていた。

 しかし、グロッサムとの過去3度の戦いにおいて、引き分けとなっていたのは、彼の類いまれなる知略のおかげだろう。


「脳筋共の相手は、御し易いが、それでも犠牲は拭えない。我等の願いは安住の地だ。無駄な犠牲は極力避けたいのだがな。何処かに良い場所はないものか⋯」


 頭を抱えていた。

 自分を慕い、これまで共に歩んできた仲間達の為に何かをしたい。アリオトはずっと考えていた。


 戦いをなるべく避け、新天地を探して翻弄していたある日、1人の神々しいまでに光り輝く人物がアリオトの前へと現れた。

 一目見た瞬間、その存在の正体を認識したアリオトは、武器を身構え殺気を放つ仲間を制止させる。


「一体、このような場所に何用だ。我を滅ぼしにでも来たのか?」

「私の姿を見ても動じないのは貴方くらいのものですよ」


 その人物はニッコリと微笑むと、その表情とは裏腹にとんでもない提案を告げた。


「アリオト。魔族代表である貴方の死と引き換えに魔族達の安住の地を授けましょう」

「何だと! 貴様、アリオト様に向かってその口⋯」


 騒ぎ立てた参謀の1人、サドスの首から上が忽然と消え、血飛沫を辺りに撒き散らしながら地面へと崩れさった。


 アリオトは、表情を変える事はなかったが、一瞬だけ殺気をその人物へと向けたが、すぐに諌める。


「⋯仲間が失礼な事を言った。許して欲しい」


 頭を下げるアリオトの姿に目の前の人物の存在に仲間達も気付き、膝をつき頭を垂れる。


 目の前の人物こそ、この世界の神と呼ばれる絶対なる存在。


 神が直接的に世界に干渉する事は稀だが、アリオトは神に会うのは2度目だった。

 その時とは別人だが、神独特の気配にすぐに気が付く事が出来た。

 ディアスと名乗る彼は、神は神でも邪神と位置付けられる存在だった。

 神には違いないのだが、本来公平中立な立場であるべき神にとっては異端だった。


「で、返事は?」

「考えるまでもない。この命でいいのなら差し出すまでだ」

「アリオト様!」

「お前達は黙れ。そのまま頭を下げていろ」


 魔王によって放たれた威圧に誰1人動けない。


「約束は守って欲しい。外敵に怯える事なく過ごせる場所を提供すると」

「あはは、流石は王の器と言った所かな。なに、約束は守るよ。このまますぐにでも良いけど、そうだね。先にその場所にご招待しようか。そうすればキミも安心して逝けるだろう?」


 魔王の威圧が涼しく思える程にドス黒いオーラが狭い洞窟内を蹂躙した。

 勿論目に見えた訳でない。

 アリオトには及ばないまでも屈強な魔族達が身体をガタガタと震わせている。


「この洞窟内にいる287(・・・)名でいいのかい?」

「いや、少し待って欲しい。獣人族への斥候を戻す」


 暫くして、魔族達ほぼ・・・全員がディアスの転移により、魔界へと正体された。


 地界のような緑豊かな土地とは似ても似つかない場所に最初は落胆の雰囲気を覚えたアリオトだが、同時にここが外界から隔絶された場所であると悟り、ディアスに頭を下げた。


「さて、約束は叶えたよ。この場所はもうキミ達魔族の世界さ。そうだね、地界に反する魔族達の世界、魔界とでも名乗ったらいいんじゃないかな?」


 邪神と言えど神に違いはない。約束は守るは思っていたが、アリオトは疑問を覚えていた。

 何故、我等の願いを聞きいてれくれたのか。

 神に対してメリットでもあるのだろうかと。


(そうだね、どうせ死ぬんだし、知りたいならキミにだけ教えてあげるけど?)

(思考を読めるのか)

(神だからね)


 その後、ディアスから告げられたのは、とんでもない事実だった。


 魔族があのまま地界にいれば、いずれ全ての種族を根絶やしにし、この世界自体が滅んでしまうと言うものだった。


 アリオトは信じられるはずがなかった。

 争いを好まないアリオトにとって、そんな事態に陥るわけがないと。

 しかし、相手は全知全能の神の言葉。絶対とは言えない自分に、未来の事実なのだろうと、憂いた。


(だからね、隔離しちゃおうって事になったんだよね。だから双方にとってメリットがあったって事。だけどね、ただ献上するだけじゃ魔族だけ贔屓してるみたいじゃない? 公平中立の神がそれだと体裁がって声が挙がったんだ。という事で、魔族の王たるキミの首を貰う事にしたのさ)

(分かった。ここが安全ならばそれでいい。この首持っていくといい)

(やけに素直だね。死んじゃうんだよ?)

(願いは叶った。戦いに明け暮れ、何も出来ずむざむざ命を落とす事に比べたらましってだけだ)


(⋯そんな事にはならないんだけどね)


「さて、そろそろ時間だよ」

「ああ、覚悟は出来てる」


 アリオトは、仲間達の方へと振り向く。


「ナターシャ。お前が私の後を引き継ぎ、魔族を必ずや繁栄させると約束してくれ。これは誰でもない。お前にしか頼めない」


 ナターシャの肩に手を置く。

 ナターシャの目には薄っすらと涙のようなものが伺える。


「必ずや。その御役目。私が成し遂げるとお誓い申します」


 アリオトは最後に笑みを浮かべると、皆の前から掻き消えた。


 アリオトだけではなく、いつの間にやらディアスの姿もそこにはなかった。


 薄れゆく意識の中、邪神によって消されるはずだったアリオトは、邪神すらも予想していなかった展開におかれていた。


 命を落したアリオトは、死んで始めて発動する固有ユニークスキルを存在を知った。


 頭の中に文字が浮かんでくる。


 《死者転生》


 それは、何千年かの後、同じ姿で転生を果たすと言うものだった。

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