第301話: 破壊神トリアーデフ編9

 アリオトの前には、ユイ、クロ、アリスの3人が倒れていた。


 《王者の威圧》


 アリオトの威圧を浴び本来機械であるアリスですらも戦闘不能の状態に追いやられていた。


「ふむ。強者の気配がしたが、この程度で意識を持っていかれるとは、見込み違いか⋯それに、随分面白い個体・・・がいるようだな」


 ルーは後ろで尻餅をつき、既に戦意喪失していた。

 ジラは相手の強さを知っていた分、闇雲に攻撃しても無意味だと分かっていた。起死回生の一発逆転に賭けるしかないと。

 ジラの固有オリジナルスキルであるブラックホール。進行方向のありとあらゆる物を消し去る反則なまでのスキルだが、相応にリスクはあった。

 でも今はリスクなど言ってる場合じゃない事は誰の目から見ても明白だった。

 私の命を賭けでもしないと目の前相手には届かない。いえ、命を賭けてすら届くとは限らないそんな圧倒的なまでの相手。


「何かする気なら構わんぞ。私はこの場から一歩も動かないと約束しよう」


 普段ならば「見くびらないで」と反論する所だが、今回に限っては、油断していてくれる事が逆に有難い。


 地面から黒い荊が現れ、アリオトの全身を覆う。

 アニが捕縛をアリオトに使ったのだ。


 《ブラックホール》


 それを見たジラが固有オリジナルスキルを発動する。

 直径10mはあるだろう、漆黒の球体がまるで生きているかの如くゴーゴーと音を立て、周りの物全てを呑み込みアリオトの眼前へと迫る。

 しかし、アリオトは依然として涼しい顔を崩す事は無かった。

 そのままアリオトはブラックホールへと誘われる。

 その様を術者である本人が信じられないといった顔で暫く呆然と立ち尽くしていた。


 ハッと気付き、すぐにブラックホールを解除する。


「お、終わったの⋯?」


 本人でさえ、こうも呆気なく成功した事を信じられずにいた。


「流石ですね、ジラさん」


 そうとは知らずにアニが駆け寄り、ジラの肩に手を置いた。

 ジラが放心状態なのは、同じ魔族であり、それを自らの手で殺めてしまった事への心境の戸惑いだと勘違いしていた。

 逸早く倒れてしまった3人の元に駆け寄ったサーシャは、ホッとため息を吐いた。


「大丈夫です。気を失っているだけのようです。良かった⋯」


 その後、3人の意識が戻るのを待ち、その場に留まる事になった。

 先に目を覚ましたアリスは自身に起きた事を分析していた。


「原因不明。急に停止モードに移行しました。何故?」


 本人でさえ何が起きたのか把握出来なかったのか、首を傾げていた。


「ね、ねぇ、これでここから出られるようになったんだよね?」

「だといいのですが、何やらまだ何か起こりそうな予感がしますね」

「もう、サーシャ! 私の前にいた所ではね、それをフラグが立った! って言うんだよ。あんまり物騒な事を⋯」


 ガラスが割れる甲高い音がルーの言葉を遮る。


 全員の視線がそちらへと向かう。

 その視界の先では、突如として空間に亀裂が入り、やがて人が通れるくらいの穴が空いた。


 皆、嫌な予感しかしなかった。何故すぐに逃げ出さなかったのだと、後で後悔していた。


「逃げて!」


 叫んだのはジラだ。


 しかし、時既に遅く穴の中から出て来たのは、先程ブラックホールに吸い込まれたはずのアリオトだった。

 全員まるで時が止まったかのように、その場から動く事が出来ずにいた。

 別にアリオトが何かのスキルを使った訳ではない。目の前のあまりの強大な力に、あのユイでさえガクガクとその小さな足を震わせていた。


亜空・・・に飛ばされるとはな、想定はしていたが、少しばかり驚いたぞ」


 何事も無かったかのように涼しい顔をして時空の穴から這い出ると、何かを呟いた後、一筋の閃光が放たれた。

 正確に狙い澄まされたその閃光は、ジラの急所を易々と貫通する。

 あまりの速さに本人でさえ何をされたのか把握出来ず。遅れて襲って来た痛みで身に起こった現状を理解した。

 ジラは口から大量の血を吐き、一言も発する事なくその場へと崩れ去る。


 クロが倒れるジラをギリギリの所で抱き抱えた。


「ジラさん!」「ジラ!」


 ユイとクロが呼び掛けるが、ジラは目を瞑ったまま反応はない。

 いつの間にか透明化で姿を消していたアリスが背後からアリオトへと猛襲をかける。

 淡い光を発しながら高周波ブレードと化した右手をアリオトへと振り下ろす。

 次の瞬間、まるで後ろに目があるかのように前を向いたままアリスの右手を素手で受け止めたかと思えば、その右手を利用し、アリス自身を両断してしまった。


「まさか転生した未来で魔導兵器を拝む事になるとはね⋯⋯さてと、次は誰が来る?」


 ユイが前に立つ。


「私が時間を稼ぐから、みんなは逃げて」


 その足は、僅かながらも先程と同様に震えていた。

 それを見たクロは、ジラをサーシャの元へと運び、ユイの隣に立つ。


「クロ⋯?」


 ユイは、信じられないものを目の当たりにしていた。

 あのクロが薄っすらとだが、笑っていたのだ。

 いつもクールなクロはその表情を変える事は皆無だった。そのクロが笑っていたのだ。


「2人で」


 ユイに向かって微笑むクロに、ユイは一雫涙を零した。いつの間にか、足の震えも止まっていた。


「私達で倒そう!」

「ん!」


 ルーは、鋼鉄の鎧を纏ったゴーレムを召喚する。

 ユリシアに追い詰められた時に使った想像召喚イマジンサモンだ。

 我先へと逃げるかと思われたルーが、その場から動かず戦う姿勢を取っていた。


「サーシャはジラを回復させて。それで、アニと一緒に逃げて。私は2人のサポートをするから。で、もし外に出れたら、ユウさんを呼んできてよね? 絶対だよ?」


 次いで風の精霊を召喚したルーは、ジラを癒してもその場に留まる2人を強引に風で視界の先まで押しのけた。


「シルフちゃん、3人をお願いね」


 向き直ったルーは、まさに今目の前まで行われている別次元の戦いを目の当たりにしていた。


 バーサク状態のユイに全解放したクロ。

 まさに息の合ったコンピプレーにアリオトは防戦一方に見える。

 しかし、余裕はないにしてもまだまだ本気を出していないアリオトは、この戦いを楽しんでいるようだった。

 目にも留まらぬ3人の攻防にルーは自分が出来る事を考えていた。


「ふん、子供にしては中々やるな」


 2人の動きが止まった一瞬の隙を突き、アリオトが掌を前へと突き出した。


 《爆炎の咆哮インフェルノバズーカ


 咄嗟に反応が遅れた2人の前に現れたのは、ゴーレムだった。


「コウちゃんの背後に隠れてえぇ!」


 ゴーレムはその巨大な両手をクロスし、迫り来る業火を迎へ撃つ。


 2人は信じていた。

 ルーのゴーレムが耐えてくれる事を。


 そして、耐え切り、止んだ瞬間を狙って左右から飛び出した。


 瞬間、キラリと光輝く何かが通り過ぎたかと思えば、一緒に飛び出たクロの姿がいない事に気が付き、ユイは後ろを振り向いた。


 !?


 クロは、立ったまま口から血を流し、両手は腹部辺りを押さえていた。

 夥しいまでの出血量から、受けた傷は明らかに致命傷である事を物語っていた。

 腹に自身の頭部よりも巨大な風穴を開けられたクロは、やがてその場へと倒れた。


 ユイはすぐに正面へ向き直すと、涙を流しながらもアリオトへと迫る。


「うわあああぁぁぁ!」


 繰り出されたのは、瞬十字ソニッククロス

 ユイの必殺の一撃もアリオトに届く事は叶わなかった。


「グッ⋯かっ⋯⋯」


 腹に殴打を受け、その場にうずくまるユイ。

 ルーのゴーレムがその豪腕をアリオトへ振りかざしたが、アリオトはその場から一歩も動く事なく、その巨大な拳を易々と片手で受け止める。


「そ、そんな⋯」


 そのまま、まるで握り潰すかのようにゴーレムが粉々に砕かれてしまった。


 その場へとヘタリ込むルー。

 想像召喚イマジンサモンの代償は、術者の全魔力だ。

 もはや、動く力すらないルーは、そのまま地面へと倒れた。


「残りはお前だけになったぞ」

「許さない⋯絶対に⋯お前だけは⋯私が⋯」


 2人の前にありえない人物が現れる。


「妾が手を貸してやろうか」

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