第299話: 破壊神トリアーデフ編7

 サキュバスを倒した一行は、体力魔力を回復する為、暫く洞窟内に留まった。

 再起不能となっていたアリスもいつのまにやら新しく搭載した自己回復機能を使い、全快していた。


 夕食の支度中のたわいもない時間。


「今回のように知性を持った敵はそれだけで厄介です。それに加えレベルも高かったので、勝てたのは正直運が良かったですね」

「うーん。でも、相手が1人だったからまだ助かったね。これで複数いたのならもう逃げの一手だったよ」

「ルーは最初逃げようとしてた」

「ん! クロちゃん、厳しいね!」


 談笑の最中に夕食当番のサーシャが完成した料理を運ぶ。


「皆さん、出来ましたよ」

「わぁーい! 待ってましたぁ! 聖女様が作った料理とっても美味しいんだよね!」

「一応私も手伝ってるんですが⋯」

「あ、勿論アニちゃんの料理も凄く美味しいよ!」


 当初ユウから貰った料理は数日分あったのだが、それは僅か1日で尽きてしまっていた。ユイの食欲が凄いのもあるが、そこまで日数の掛かる内容だとここにいる誰しも、ユウ自身でさえ想定していなかった。


「持参した食料が尽きた時はどうなることかと思いましたが、幸いにもここは食材の宝庫ですしね、なくなると言うことはありません」


 倒したモンスターを鑑定アナライズ持ちであるルーに調べてもらい、食べれそうな物はマジックバックに収納していた。


 その次の日も次の日も、何度か危ない局面が訪れつつも、何とか全ての敵を討伐する事に成功した。


「やっぱりさっきので最後だったのかな?」

「これだけ探しても他に見当たりませんしね」

「だけどおかしいよ。だって、帰るための扉が開かないもん」


 ネリスは、敵を全滅する事が出来なければ、この結界内からは出る事は出来ないと最初に説明していた。

 故に全滅させれば帰るための扉が開かれると。


「高速接近反応確認。数は⋯⋯1体です」


 全員がアリスの発言に緩めていた気を再び締め直す。


「やはり、まだ残っていたのですね」


 武器を構え、敵影が見えるのを待つ。


「アリスちゃん、何も見えないよ?」


 ユイも嗅覚と気配察知である程度の事は分かるのだが、今回は全く把握する事が出来なかった。


「姿を隠していると推定します⋯⋯来る」

「サーシャさん! 範囲結界の展開を!」


 何かを感じ取ったジラがサーシャに指示を飛ばす。


 直後、辺りの景色が一変する。


 周りに生い茂った草木や豊かな大地が消え去り、荒廃した大地へと変貌を遂げる。


 それは、何者かによって放たれた高威力の咆哮。

 それは、結界以外の周りのもの全てを破壊した。


 サーシャは額の汗を拭い、意識が飛びそうになるのを気力で持ちこたえていた。

 そんなサーシャにアニがMP回復ポーションを口元に運ぶ。


「まさか、今ので消滅せんとは驚いたな」


 先程まで姿を見せなかった相手の存在を全員が視認する。


 背中に漆黒の翼を生やし、優雅に中空に佇んでいるそいつは、2mを超える大柄の体躯に剥き出しとなっている上半身は、鍛え抜かれた屈強な肉体が露わになっていた。


 ルーがすぐさま鑑定アナライズを行使するも鑑定阻害となった。


「あいつ、鑑定アナライズ出来ないよ」


 つまりは、それだけの相手と言うことね。

 それにしても、あの姿、まさか⋯ね。


 ジラが結界の外に出る。


「私は魔族の4大貴族ガーランド卿の嫡女。ジラ・ガーランドと申します。名をお伺いしても宜しいでしょうか」


 敵相手に何故、名乗るのか他の仲間達は不思議に思っていた。


「ふむ、貴様は魔族か。ならば我の事も知っていると言う事か」


 今のこの発言でジラの直感は確信へと変わった。


「ジラ、あれは誰?」


 同じ魔族でもまだ幼いクロは知る由もないだろう。

 ジラはクロの頭を撫でる。


「私達と同じ魔族よ。だけど、遥か・・・のね」

「随分な物言いだな」

「だってそうでしょう。貴方が生きていた時代は5000年以上前のはず」


 ジラは魔族の貴族階級という事もあり、幼い頃から英才教育を受けて育った。

 教科書に何度も登場したその人物の名は⋯


「アリオト・ヴェゼルアース。魔界の創設者であり、初代魔王様です」

「え、魔王って、魔族で一番強い人の呼称じゃ?」


 回れ右してその場を離れようとするルーの腕をアニがガッシリと掴む。


 ジラは、片膝をつき頭を垂れる。


「私達は貴方様と敵対するつもりは御座いません」

「でも、ジ⋯」


 ユイの言葉をアニが止める。


「ですが、私達を敵と判断されるならば、むざむざ黙ってやられるつもりはありません」


 ジラは立ち上がると、アリオトに殺気を飛ばし、睨みつけた。


「フハハハハッ、面白いぞ娘。殺してしまうのが惜しいくらいにな」


 その言葉にジラ以外の全員が武器を構える。


「我が生きていた時代に会いたかったものだな。久しぶりの現世だ。色々と話をしたいのは山々なのだがな。どうやら、この身体。我の物であって我の物ではないようだ」

「それってどう言う事?」

「恐らく操られているって事でしょう。7大魔王トリアーデフにね」


 アリオトの身体から赤い蒸気が溢れ出す。


「すまんな。我とて同族をこの手で殺めるのは心が痛いのだ。せめても苦痛なく一瞬であちらの世界に送ってくれようぞ」


 右手を前に突き出し、溜めもなく先程と同じ攻撃が放たれる。


 《爆炎の咆哮インフェルノバズーカ


 すぐにサーシャが結界を展開する。


 凄まじい轟音と熱気が辺りを包み込む。


「ふむ。転生したてで上手く力が入らぬな」


 ボソリと呟いたアリオトの言葉も、この場にいる誰の耳にも届く事はなかった。


 サーシャがまたしても全ての魔力を費やし、攻撃を防ぎきる。そのタイミングを見計らって3人の影が破られた結界から飛び出した。


 アリスが何処から取り出したのか、光剣を構えて高速でアリオトに迫る。

 ユイが蒸気をその身に纏い、アリオトとの距離を一瞬で縮めた。

 クロは転移でアリオトの背後へ回ると、双爪を振り降ろす。


 確かに3人は攻撃を繰り出した⋯はずだった。


「な⋯⋯何で、、、」


 次の瞬間、ジラが目にしたものは、地に伏せた3人の姿だった。

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