第298話: 破壊神トリアーデフ編6
困ったわね、無力化する術はあるのだけど、あのサキュバスが黙ってそれをさせてくれるとは思えない。
上空に浮いてたら、アニちゃんの相手の動きを封じる影縫いも使えないわね。仕方がないけど、多少の痛みを与えてでも、ユイちゃんの動きを封じるしかないわね。
ジラが思考を巡らせていると、側にクロが歩み寄る。耳元で一言何かを告げると、今度はユイに向かい攻撃を繰り出した。
クロの双爪斬撃をユイは双剣斬撃で応戦する。
クロちゃんの勘が確かなら、いや、でも⋯信じるわ。
ジラはアリスに目配せする。
それを読み取ったアリスは、サキュバスに近接戦闘を仕掛ける。
超振動の両腕で文字通りの鉄拳を繰り出すも、サキュバスはヒラリとかわし、岩肌へと激突する。その衝撃で岩肌が何mも抉られた。
その隙に、サキュバスはアリスの背後から
アリスは顔だけを180°回すと、本来生物ではあり得ない動きでそれを躱し、レーザービームを放つ。
サキュバスは意表を突つかれつつも驚異的な反射神経で対応するも翼に風穴が空いた。
ジラもレーザービームで追撃し、アニも
!?
「消えた?」
突如として、目の前からサキュバスの姿が掻き消えた。対象が消えた事で、皆に動揺が走った。
洞窟内でなければ、アリスが追跡出来ただろう。ユイがいれば、匂いで追跡出来だろう。
「そいつ擬態を使ってるよ! 何処かに隠れてるはずだよ!」
ルーは得た情報の中に擬態があったのを思い出し、皆に忠告する。
「鬱陶しいわね、全員凍りなさい!」
《
凄まじい程の濃密な魔力がサキュバスの周りを巡っていた。
「皆さん! こちらへ!」
サーシャが叫ぶ。
2人は少し離れた場所で戦闘していた。
「クッ⋯あまり、もちそうにありません⋯」
結界は、ある一定の威力までしか軽減出来ないのだ。
ジラは結界の中でフレアを行使する。
膨張する度、圧縮を繰り返すフレアは、通常よりも何倍の威力を宿していた。
「決めます」
ジラが転移したのは、サキュバスの真上だった。サキュバスは、魔術を行使する際、その姿を露わににしなければならなかった。擬態を行使中に魔術を使う事は出来ないからだ。
しかし、アリスがレーザービームで援護する。
レーザービームを避け、体制を崩したサキュバス目掛け、至近距離からフレアが放たれた。
サキュバスは避けるのは無理と判断したのか、その場で防御の姿勢を取った。
通常よりも高火力だったが、サキュバスはほぼ無傷でそれを凌いだ。
「あまり調子に乗らない方がいい」
一瞬にして場の空気が変わる。
再びサキュバスの目が光り輝くと、今度は皆の動きが止まった。
「あれえ、お花畑が見えます〜」
突如ルーがおかしな事を言い、駆け出す。
「旦那様、私も連れて行って下さい⋯」
アニはボソリと呟くと、何故だか地面へと座り込んでしまった。
これは⋯もしかして幻惑?
サキュバスはうずら笑みを浮かべていた。
全く厄介な術ばかり使うわね。
「あらあら、やはり貴女には通じないみたいね。あぁ、ふーん、なるほどね。上手く誤魔化していたから気が付かなかったけど、貴女魔族ね。そっちの犬耳のお嬢ちゃんももしかして魔族かしら」
「だったら何だと言うの? サキュバスさんこそ、あまり私達を舐めない方がいいわよ」
サキュバスの背後に忍び寄る影。
新しく迷彩化の機能を有したアリスが、その拳を降り下ろす。絶好のチャンスの為にこの時まで温存していた技能。音もせず、気配もせず、視覚ですらも捉える事が出来ない攻撃に、流石のサキュバスもまともにその攻撃を受けてしまった。
かなりのダメージを負っていたが、それはすぐに
アリスが更に追撃するが、突如として出現した幾重もの雷龍がその動きを封じた。
大量の電撃を浴び、やがてアリスは動かなくなった。
「やっぱり弱点は雷だったのね」
サキュバスが繰り出したのは、サンダーレイ。光る龍を形取ったまるで電撃が生きているかの如き雷竜が狭い洞窟内を暴れ回る。
ジラへと迫り来る雷竜は、サーシャの結界によって、阻まれた。
雷竜を何とか凌ぐも、その代償は大きかった。
「すみま⋯せん⋯」
度重なる
アリスは機能を停止し、サーシャは気を失い、アニとルーは幻惑に掛かり、クロは洗脳されたユイと戦っている。
現状この場にはジラ一人しか残されていない絶望的な状況だった。そんな状況にも関わらず、更なる追い打ちを掛けられる。
「魔族は虜に出来ないからいらないわ。他の子達は私が有意義に使ってあげるから安心して死になさいな」
しかし、ジラは諦めてはいなかった。虎視眈々と反撃の隙を狙っていたのだ。
しかし、そんなジラの内情すらも見透かしたサキュバスは彼女を更に絶望的な状況に追いやる。
か、身体が動かない⋯
「一体何をしたの⋯」
サキュバスはジラの一瞬の隙を突き、金縛りを使っていた。そんな状況の中で、クロとの闘いを終えたユイが戻って来た。
「いいタイミングね。金縛り発動中は動けないの。お嬢ちゃんがトドメを刺しなさい」
ゆっくりと膝をついているジラの前に歩み寄るユイ。
ユイの短剣が淡く光りだし、そのまま振り上げると、覚悟を決めたのかジラは目を瞑った。
「トドメを刺されるのはお前だよ!」
振り向いたユイが短剣を突き刺したのは、ジラではなく、サキュバスだった。ユイは洗脳を受けたフリをして、ずっとチャンスを狙っていたのだ。
咄嗟に金縛りを解除し、反応するも、ユイの一撃を受けてしまった。それでも僅かながら身体を反らす事に成功し、急所は避けていた。
すぐに後方へと飛び退き、
サキュバスは、そのまま大地へと崩れ落ちる。サキュバスが倒された事により、アニとルーの幻惑が解けた。
「あ、あれ⋯私は一体何を⋯」
ジラもその場へと倒れ込む。
「流石にあれは強敵でしたね⋯」
クロがジラの身を案じて駆け寄る。
「クロが教えてくれなければ、最後のあの芝居は打てませんでした。ありがとう。ユイさんも咄嗟によく洗脳が掛かったフリなんて考えましたね」
「何となく、真正面から当たっても勝てないと思ったからね。でもクロ、よく分かったね。ユイのアイコンタクト一つで」
「ユイの事いつも見てるから。妹だから分かる」
ユイがクロに抱き着く。
「すみません、全くお役に立てませんでしたね」
アニが申し訳なさそうにジラに頭を下げる。
「いえ、今回は相手が悪かったです。私達魔族は洗脳や幻惑の類は効きませんから、それよりもサーシャさんにこれを飲ませてあげて下さい」
ジラが手渡したのは、ユウ特製魔力回復ポーションだった。
皆疲労しきっていた為、暫くの間はこの洞窟内で過ごす事となった。
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