第297話: 破壊神トリアーデフ編5
夜明けまで、交代で仮眠を取っていた。
魔族は2、3日は寝なくても大丈夫と言い張り、ジラが一晩中の見張りを申し出ていた。クロもそれに続いたが、魔族でも子供は駄目だと却下されていた。
また、アリスも睡眠の概念はない為、ジラと一緒に見張り役に投じた。
そんなジラとアリス、サーシャの3人で見張りをしている時だった。
「きゃああああっっ!」
突然、足元から巨大なサンドワームが出現し、あろうことか、サーシャの足に掴みかかり、そのまま元来た地面へと潜ってしまった。
アリスの高性能レーダーに頼りきっていた事もあり、一瞬2人の反応が遅れる。
「くっ! 私は後を追います! アリスさんは皆を起こして警戒態勢の陣を!!」
すぐにジラがサンドワームの掘った穴からサーシャを追う。
なんて事⋯私がいながら、油断するなんて⋯
こ、これは⋯
ジラは目を見開き、判断を迫られていた。私の判断が甘かった。すぐに倒して戻って来れると思っていた。
穴は無数に枝分かれし、サーシャが何処に連れていかれたのか、皆目見当も付かなかった。
このままじゃ⋯
駄目よ⋯冷静にならないと。焦ったらそれこそ最悪の事態に成りかねない。相手はモンスターのくせにやけに知性が回る。もしかしたら、誰かが手引きしているのかもしれない。ただのモンスターが相手ではなく、知性を持った何かが相手と考えて行動した方がいいわ。
その時だった。
無数の横穴の一つが、一瞬だけ微かに光り輝くのが視界に入った。気のせいかとも思ったが、ジラはこの勘に賭けた。
縦に横にと猛スピードで穴内を突き進み、やがて、地上の光と思しき明かりを見つけ、そのまま飛び出した。
穴から飛び出した瞬間、四方から猛毒液が散布される。まるで、待ち伏せしていたかのように、同種のサンドワーム4体が口を広げていた。不意打ちだったら避けきれなかったかもしれない。ジラは待ち伏せされている事も考慮し、飛び出した瞬間に転移を発動させていた。
転移先は、視界に写っていた地下洞窟の天井。
ここは、地上ではなく地下の巨大な洞窟の中だった。月夜の光と思われたそれは、岩肌に生えた光苔だったのだ。
待ち伏せにより奇襲を回避したジラは、上空から杖を構える。
「今度は私の番」
4つの巨大な火の玉を同時に出現させたかと思うと、そのまま4体のサンドワーム目掛けて撃ち放つ。2体は逃げようと方向転換し、穴に潜ろうとするが、時既に遅し。振り向いた瞬間には、その巨大な身体が火達磨になっていた。
どうやら、レベルは大した事はなさそうね。
しかし、サーシャさんの姿が何処にもないわ。やはり、この場所には意図的に誘われただけだったの⋯
穴の中から複数の足音が聞こえてくる。一瞬、身構えたが、すぐに構えた杖を降ろす。
「ジラさん、無事!?」
仲間達だった。ジラの匂いを追跡し、ここまで辿り着いたのだ。
サンドワームの残骸を目の当たりにする。
「倒したの? あれ、サーシャは?」
「罠に嵌められました。待ち伏せされて、敵は倒しましたが、サーシャさんの姿は何処にもありません⋯」
「アリスちゃん! サーシャの場所分からない?」
「レーダー探知不可。推測。この岩石に含まれている鉱物が阻害しているものと判断します」
「そんなぁ⋯」
手当たり次第に探すのは危険すぎる。誰もがそれは分かっていた。
しかし、それ以外の方法は思い付かなかった。皆がサーシャの身を案じる。
「レーダーが使えないのなら、ここへはどうやって来たのですか?」
「それは、私がジラさんの匂いをおって⋯⋯でも、サーシャの匂いなんて⋯⋯あっ!」
ユイは突然外套を脱ぎ捨て、首に掛けていた十字架のアクセサリーを外した。
「これ! ここに入った時に、前衛だからってサーシャがくれたの。聖女の力で清めたお守りだから、きっと何かに役に立つって!」
長年一緒にいたジラだからユイは匂いで追う事ができたが、サーシャとの付き合いはまだ数日程度でしかなく、匂い自体を把握していなかったのだ。
しかし、他ならぬサーシャに貰った物で、普段から身に付けていた物ならば、その匂いが分かるかも知れないと考えたのだ。
静けさが辺りを包み込む。実際他に頼みの綱はなかった。
全員が固唾を呑んでそれを見守った。
「分かったよ! 微かだけど、あっちの方から匂いを感じるよ」
ユイを先頭にすぐ後ろにジラが続く。ユイが追跡に専念出来るよう、ジラは細心の注意を払う。
まるで迷路のような穴を暫く進むと、不意にユイの足が止まる。
ユイは、人差し指を口に当てる。
「たぶん、この先だよ。だけど、血の匂いも強く感じる」
「私が様子を見て、合図を送るわ」
ジラが1人で前に進む。
先程と同じように、月夜の明かりに近い光が差し込んでいた。
また待ち伏せがあるかもしれない。
今度は慎重に、ゆっくり顔を出した。
何もいな⋯!?
ジラはすぐに皆に合図を送った。
そのまま穴から飛び出す。
《レーザービーム》
ジラは何者か目掛け、攻撃を仕掛ける。連続で放たれたレーザービームは、相手をどんどんとサーシャから遠ざけた。
「遅くなってごめんなさい」
サーシャは無事だった。
自身で結界を展開し、その身を守っていたのだ。ジラは結界を解いたサーシャを連れ、元来た穴の方へと急ぎ向かう。
「なんだぃ、もう来たのかぃ、折角極上の精気が吸えると思ったのにねぇ」
サーシャと一緒に居たのは、サキュバスの格好をした何かだった。
ジラに遅れて、皆が穴から出てくる。
ルーは一目見て只ならぬ相手と判断したのか、
名前:ワルキューレ・リ・ゾルデ
レベル:78
種族:サキュバス
スキル:幻惑Lv5、
称号:サキュバスクイーン
「あいつ! レベル78あるよ!」
今まで倒して来た中でも60台そこらだったのが、80に手が届きそうな相手に、全員に緊張が走る。ルーは、知り得た内容を掻い摘んで皆に説明した。
「サキュバスクイーンって、なんだろ?」
「ふふ、お嬢ちゃん珍しいわね、鑑定持ちなのね。でも、覗けたのは私が常に許可を出していたからなのよ? だって隠す必要なんてないのだから」
しかし、相手が合意していればレベル差があっても覗く事が出来る。
余裕の表情で上空で浮いているサキュバス。
「サキュバスクイーンってのはね、この世界に数多いるサキュバスの中で一番偉いって事なのよ。分かったかしら?」
「相手が誰であろうが、関係ないよ。サーシャをいじめたお前は許さない」
ユイが殺気を相手に向ける。
「ユイちゃん、1人で飛び出ちゃだめよ。アイツは今までの相手とは訳が違う。知能がある分余計にタチが悪い」
一瞬、閃光が走る。
サキュバスの目が怪しく光っていた。
!?
「ユイちゃん?」
イキナリの背後からの攻撃にジラは脇腹を負傷する。
「全員に幻惑と
ジラはレベル差もそうだが、魔族と言う種族の為、無効化された。魔族を
サーシャは神器級装備である状態異常完全無効の付与された腕輪を装備していた。
アリスは機械の為、そもそも五感に働きかける技は効力を発揮しない。
ルーに関しては、効かなかった理由は定かではないが、恐らく性格的な問題だろう。
ユイが大きく跳躍し、サキュバスの元へと歩み寄る。
「ふふ、いい子ね。じゃ、始めようかしらね」
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