第295話 :破壊神トリアーデフ編3

 勇者レイン視点


 真っ暗な世界⋯

 そこは、光すら届かない暗黒の世界。

 自分が目を開けているのか閉じているのかさえ分からない。


 ここは、何処だ⋯?



「俺は死んだのか⋯」

「何辛気臭い事を言ってるの」


 その声にハッと目を覚ます。


 今度は一転して、光の眩しさに手で目を覆った。


「ここは⋯」


 ベッドの上か⋯確か俺は魔王と戦っていたはずだ。

 

そうか、戦いに敗れたあげく、死ぬことも叶わぬまま命からがら逃げ延びたという事か。


「ここは、水上要塞ガダンブルグにある私の家よ」


 水上要塞ガダンブルグは、バーン帝国などがあるシア大陸の玄関口の一つ。勇者リグの生まれ故郷でもあった。対海上戦に特化しており、過去一度足りとも陥落した事のない鉄壁の要塞として知られていた。


「お前はでリグか」

「あら、命を助けてあげたってのに感謝の言葉もないわけ?」


 最後の記憶だと、あれだけ重症だったにも関わらず、痛みを何も感じない。


「傷まで回復してくれたのか⋯」

「一刻を争ったからね。最後の貴重なポーションだったのだけど、他でもない貴方に使うのなら惜しまないわ」


 貴重なポーション⋯。確か、部位欠損まで修復する最高級治癒ポーションの事か。昔は一部の錬金術師によって作られていたようだが、その製法技術は失われ、今ではダンジョン産のみと聞く非常にレアなポーション。


 レインは、上半身を起こす。

 両の手を握ったり開いたりと動く事を確認していた。


「リグ、ありがとう。助かった」

「何だか、心がこもってないわね。というより、目が死んでるように見えるのだけど、まだ回復しきれてないかしら?」


 目が死んでるか⋯確かにそうかもな。

 あれだけ力の差を見せられれば、気力も湧かないと言うものだ。


「もしかして心が折れちゃったのかしら」


 ズボしの問い掛けにレインは口籠る。


「まぁ、無理もないわね。強さの次元が違ったからね」

「お前は折れてないんだな」

「私は貴方と違って強いからね。単純に力がって訳じゃないわよ?」


 剣姫リグ。

 謙遜せずとも俺なんかと比べて、お前は強いよ。心もな。


「ああ、お前は強いよ。俺なんかよりもずっとな」

「ねえ、そのお前ってのやめてほしいんだけど」


 リグは不機嫌そうな顔をする。


「すまない、ならば、剣姫リグ⋯」

「リグでいいわよ!同じ勇者同士でしょ。二つ名はいらない」

「分かった。改めて礼を言う。助けてくれてありがとうリグ」

「お礼は私じゃなくてあの冒険者に言ってあげて」

「あの冒険者?誰の事だ?」


 レイン自体、気を失っていた為、救助に来たユウの事は当然の事ながら覚えていない。


「私達を助けてくれた人よ」


 リグの話では、名前は知らないようだが、魔王に殺されそうになっていた所に颯爽と現れ、あの魔王に一撃与えたそうだ。

 ありえない。一体どんな奴なんだ。俺やリグでさえあれだけ畳み掛けても擦り傷一つ与える事すら叶わなかったと言うのにて

 しかし、冒険者かで

 脳内に1人の人物が浮かび上がる。


 あれは、確か魔族との停戦協定の時だ。

 停戦協定自体の橋渡しをした人物だったか。

 名前は確か⋯⋯ユウ。



 その後、回復した俺はリンとセリーヌを連れて、ある人物と会う為にエルフの里クーバハァを訪れた。


 件の冒険者が宿屋にいると言うのでその場所まで向かったが、同室の者に面会謝絶と言われて門前払いされてしまった。


 魔王との戦いの傷を癒やしている最中らしい。

 聖女であるサーシャ殿もいた事だし、大丈夫だろう。


「自分から呼びつけておいて、会えないとは一体何様のつもりかしら⋯」

「すみません、リグ様」

「なんでリンが謝るのかしら?悪いのはあいつでしょう?」


 リンはユウとの関係を何となく皆に言えずにいた。


「そんな事よりこれからどうするんだ?」

「そうよリグ。私お腹空いちゃったんだけど!エルフの里なんて滅多に来る事もないじゃない?少し物色して行こうよ!ね?」


 セリーヌが目を輝かせながら、鼻孔を擽ぐる匂いに誘惑されそうになっている時だった。

 1人の人物が現れた。


 独特の雰囲気を醸し出しているその人物は、全身黒を基調としたワンピースに、紺色のとんがり帽子を被っている。


「あら、もしかして、キミタチが勇者?」

「ん、何だクロムじゃない」

「え、あ、セリーヌ?久し振りだね」


 時の魔女クロムと風神セリーヌは、顔見知り同士だった。


「で、俺達がその勇者一行だが、魔女が何か用か?」


 勇者レインは過去に魔女とトラブルを抱えた事があり、あまり関わり合いたくなかった。


「率直に言うね。助けて欲しい」

「もしかして魔王絡みかしら?」

「うん、そうなんだ。今ボク達魔女は、残り2人の7大魔王の内の1人を拘束してるんだ。と言っても結界内に封印してると言った方がいいかな」

「なるほど、で、俺達にそいつを倒して欲しいって事か」

「ボク達は結界を維持するので精一杯なんだ。協力して欲しい」


 クロムは頭を下げる。


 リグ、リン、セリーヌ、ガルシャはレインに視線を向ける。

 ん、俺が決めるのか?


 まぁ、そんなの答えは決まってるだろう。


「案内してくれ。詳しい敵の情報とな」

「でも、いいのかな。あの人にこの事を伝えなくて」

「しょうがないだろう。面会謝絶なんだから」

「もしかしてそれってユウの事?ボクもこれから会いに行く予定だったんだよ。この先の宿屋にいるって聞いたからね」


 盾騎士ガルシャは手をポンと合わせる。


「ああ、そうだ。間違いない。俺はあの時に自己紹介し合ったからな。ユウと名乗っていたな」

「うーん、面会謝絶? なら、出直すしかないか。まあ、取り敢えず移動しよう」


 時の魔女クロムの転移でやってきた先は、何とも奇想天外な場所だった。


「おいおい、何処だここは」


 目の前には岸壁に映し出された巨大なスクリーン。

 左右には小さな小屋があり、背後にはモンスターがひしめき合っていた。

 それを冒険者達が殲滅している。


「ここは、7大魔王トリアーデフと戦う前線基地だよ」

「すまない、よく話が分からないのだが⋯」

「ネリス、悪いけど説明は任したよ。ボクは協力してくれる冒険者達を集めてくるよ」


 クロムは、再び転移でこの場を去る。


「勇者御一行様初めまして。この場所の案内人を仰せつかっているネリスと申します。順を追って説明させて頂きますね」


 ネリスの説明を要約すると、こうだ。

 魔女達は、大量のモンスターを引き連れて蹂躙していたトリアーデフを多大な犠牲を払い、何とかこの場所で結界の中に封じ込める事に成功した。

 その際、3つの結界を展開し、それぞれを閉じ込めた。

 トリアーデフを閉じ込めている特殊な結界。

 大量のモンスターを閉じ込めている結界。

 トリアーデフによってアンデット化させられた大量の屍人を閉じ込めている結界。

 しかし、トリアーデフはその結界を排除するべく、中から手出し出来ないと見ると、結界の外から強力なモンスターを次々と送り込んで来た。

 そいつらを世界各地から集めた強者達をぶつけて対処していた。


「左右の小屋中に結界の中に行く為の転移陣を設置しています」

「左右、背後から襲ってくるモンスター達は周りの冒険者の彼らにお任せ下さい。勇者様達には、結界の中の敵を排除して頂きたいのです」


 リグとレインが互いに顔を見合い、頷く。


「別れて対応するしかないな」

「ええ、それでいいわ」

「駄目です」


 左右に別れようとするレイン達をネリスが静止する。


「結界内のモンスター達を侮らないで下さい。こいつらは魔王から発せられる魔素に当てられ、強化されています。恐らくレベルに換算すると、全て50オーバーです」

「おいおい、冗談だろ。危険指定種の50超がこれだけいるのか?」

「ですので、全員で入って頂きます。それと、万が一でも結界内のモンスターにやられてしまった場合、アンデットとなり、トリアーデフに操られます」

「笑えないな」

「なに、ガルシャ。死ななければいいんだよ。アンデットなんて、セリーヌちゃんが纏めてやっつけてあげるんだから!」

「時間は掛かりますが、各個撃破のヒットアンドアウェイが最適と思われます。間違っても大量に相手をしてしまうと危険ですので」

「絶対に死ねないのなら俺達5人でやるしかあるまい。リグ、アンデット部屋を担当しようぜ」

「そうね、レインもそれでいい?」

「相手が誰であろうと殲滅するだけだ」

「では、お願いします。モンスター部屋も強力な助っ人を頼んでいる所ですので」


 一通りの説明を受けた後、レイン達は転移陣の中へと消えた。

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