第294話: 破壊神トリアーデフ編2
皆を連れて転移でやって来た場所は、まさにこれから戦争が始まるといった混乱や不安、恐怖などが錯綜した雰囲気で満ち溢れていた。
しかし、あの時との決定的な違いは、ここにいる皆が、
文字通り、この世界の最高戦力と言える英雄達であった。当然その中には、俺の仲間達も含まれている。自慢ではないが、もうどこに出しても恥ずかしくない程に皆が力をつけている。
「ねえねえ、あの人やばくない?あの筋肉ダルマ、あれじゃ、まるでオークだよね、あははー」
ああ⋯1人恥ずかしい奴がいたな。
「ルー、頼むからお前だけは大人しくしといてくれ。頼むから、身内の恥を晒したくない」
「ユウさん、大丈夫だよ。こう見えてユウさんがいない間に私、すっごく成長したんだからぁ」
「それが心配だって言ってるだろ。ジラ、悪いけど何か粗相しないように目を光らせておいてくれ」
「分かりました。ルーさん、私の側から決して離れないで下さいね。絶対ですよ?」
ジラがルーの肩をポンポンと叩く。
ジラは笑顔なのだが、ルーは何故だか汗をダラダラと流していた。
ジラに任せておけば安心だろう。
「お待ちしておりました。貴方が英雄ユウ様御一行様ですね」
畏まって礼をする俺達の前に現れた青年。
「初めまして、私は今回の作戦の指揮を任されましたネリスと申します。貴方様の事は、風の魔女から伺っております」
風の魔女って事は、シルフィードさんか。
「宜しく頼みます」
ネリスさんと握手し、そのままある場所へと案内された。
「まずは、これを見て頂きたいのです」
目の前に広がる光景にまさに言葉を失った。
スクリーン代わりの巨大な岸壁に映し出されていた映像に映っていたのは、夥しい数の魑魅魍魎が跋扈するゾンピパニック映画さながらの光景だった。
「彼等は、件の魔王の犠牲者です。悲しい事に、死体を改変されてモンスター化し、操られてしまっています」
「酷い⋯こんなのあんまりです。死者への冒涜です」
膝をつき、涙を零すサーシャにアニが寄り添う。
トリアーデフによって、近隣諸国はほぼ全滅したと聞いている。一方的に搾取するだけでなく死者の命を弄びやがって。そんなの絶対に許されるはずがない。
「今、我々は全戦力を挙げて掃討作戦を行なっています。彼等には、このベース拠点を死守して貰っているのです」
この場所にいる魔女達を狙うべく、トリアーデフの息のかかったモンスターが引っ切り無しに襲い掛かってくる。
モンスターを視界に入れたユイとクロが動こうとするが、それは冒険者達に阻まれる。
「あんたらは別の仕事があんだよ。ここは俺らに任せてくれ」
「こんな可憐な嬢ちゃん達が強者なんだからな。頼むぜ。操られている奴の中に俺の友人がいるんだ。その無念晴らしてやってくれよな」
白い歯をニカッと見せつけると、モンスター目掛け冒険者達が走り去る。
この場所を死守する為に集められた人数は凡そ200人。それは、人族や魔族、獣人族など様々な構成だった。加えて皆がレベル40以上の強者達だった。
そんな彼等が、自分達では力不足だと自覚し、この先の掃討作戦を俺達に託したのだ。既に単身乗り込み返討ちに合い、モンスター化させられた仲間達がいたそうだ。
次に映し出された映像は、そんな魑魅魍魎に挑んでいる勇者達の姿だった。
勇者レイン、リグやリンの姿も見える。
「敵の数が多い場合は、こちらも数で対抗するのが定石なのですが、今回はそれが出来ない理由がありまして⋯」
「なになに?」
「あのモンスター達に命を堕とされてしまうと、立ち所にアンデットモンスターとなってしまうのです」
「うん、それ、笑えないね」
回れ右して、一目散に退散しようとするルーをジラががっしりと襟を掴みあげる。
「無理無理無理! そんなの無理だよ! 私まだ死にたくない! ゾンビになんてなりたくないよ! それにゾンビは銃で撃たないと死なないんだよ。私、銃持ってないしさ、、」
どこのゲームの世界の話だよ。少なくともこの世界には銃なんて代物の存在は見たことがない。
「ルー少し落ち着け。何も一人で戦う訳じゃない。みんなで一緒に戦うんだ」
「ルーさん、大丈夫だよ。私がガツーン! って倒してあげるから!」
「そうですね。怪我をしたら回復は任せて下さい」
「マスターの敵は殲滅します」
「クロも頑張る」
「私が戦況把握をして、指示をしましょう」
本当に頼もしい。1人を除いてな。
「ああ、元よりジラに頼むつもりだったんだ。みんなのまとめ役を頼むぞ」
そんな様子を見たアニはその頬を少しだけプクッと膨らませていた。
「お兄ちゃんは私達とは別行動なの?」
「その件に関しましては、私の方から説明させて頂きます」
ネリスの説明は、現在の戦況と俺達の役割についてだった。
魔女達の力により、現在敵勢力を2分割し、それを特殊な結界を貼り、封じ込めている。それに応じて、こちらの戦略も2分割し、アンデットやモンスターの駆除にあたる必要がある。
この結界エリアには、どう言った訳か人数制限設定が施されている。
その人数は最大7人。つまりは、7人でモンスターハウスを殲滅しなければならない。
第1のエリアには、映像に映し出されていたアンデット部屋だ。こちらには、勇者レインやリグ、リンを始めとした勇者一行が相手をしていた。
俺達に任されたのは、第2のエリアの方だ。ここには、トリアーデフによって操られている近隣に生息していたモンスター群だった。アンデットもそうだが、通常のモンスターにしてもユイ達の敵にはなりえない。
しかし、トリアーデフの魔力を媒介とし、通常とは考えられない程にパワーアップしているらしい。
それは、最強の勇者達と言えど、苦戦する程だった。
「じゃあ、ここからは別行動だ。くれぐれも、無理はするなよ。危なくなったらすぐに逃げるんだぞ」
ユイが寂しそうに肩を寄せる。
「いいか、みんなは1人じゃないんだ。仲間を最大限頼るんだ。ジラ、みんなを頼む」
ジラは跪き、こうべを垂れる。
「お任せ下さい。全員生きてまた会いましょう。ユウ様も無理はしないで下さいね」
「ああ、こいつを倒してまたみんなで美味いもんでも食べよう」
あからさまなフラグの匂いを漂わせてしまった事に、この後凄く後悔する事になった。
俺以外の全員が、第2エリアのゲートへと入って行った。
そして、俺にはモンスターハウス殲滅とは別の任務が待っていた。
「ユウ様、こちらへ」
別の転移ゲートへと誘われた。
その中へと入ると、魔女達が円を囲み手を繋いでいた。それは当然ながら遊んでいるわけでもスキンシップを育んでいるわけではない。
複数の魔女達によって行使される秘術。
《魔女結界》
現在、トリアーデフを結界の中に閉じ込めていた。
さしものトリアーデフもこの結界から外に出る事が出来ずにいた。それは魔女結界には、あらゆる魔術、物理が効かないというチート地味た性能があったからだ。
俺の障壁のようにダメージカットではなく、完全にシャットアウトしてくれるのだ。
だが、絶大な効力の前にはそれ相応の代償が必要だ。この魔女結界は名前の通り、魔女でなければ使用出来ず、更に5人が必要という条件付きだった。
「第3班そろそろ魔力切れよ。交代お願い」
魔女結界は、膨大な魔力と精神力を必要とする。それを補う為に、5人1班を3班編成し、順番に回していた。
「ユウ、すまぬな。ワシらにはこんな事しか出来ない。結局お前に頼ってしまう事を許して欲しい」
辛そうな顔して話しかけるのは、師でもあるエスナ先生だった。
「俺に出来る事をやるだけですよ。それに、一人じゃないですしね」
隣に立っていたのは、魔族のフランさんだ。
俺の呼び掛けに、魔界での復興で忙しくしていたフランさんが駆け付けてくれたのだ。
「手伝ってあげるんだから感謝しなさいよね!」
そんなフランさんについて来たのは、ジラを姉と慕う魔族のイスだった。
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