第293話: 破壊神トリアーデフ編1

 目が覚めたら、ベットの上だった。

 そんな俺を心配そうに覗き込む顔が一つ。

 アニだった。

 大粒の涙を目尻に浮かべ、たくさん泣いたのだろう。流れた涙の跡がまだ残っていた。

 心配させてしまったみたいだな⋯

 右手に何か⋯あぁ、ユイが手を繋いだまま寝てるのか。

 上体を起こした俺にアニが抱き着く。


「目を⋯覚まして良かったです⋯」


 アニの頭を優しく撫でる。


「心配かけて、ごめんな」

「はい、いいえ⋯許しません!」


 ですよねぇ。さっきまで泣きじゃくっていた表情から一転。今度はまさに泣く子も黙る鬼の形相をしていた。


「えっと⋯」

「私言いましたよね? 闘いはしないと。連れ帰るだけだと」

「いや、俺にも言い分があ⋯」

「言いましたよね!」


 7大魔王エドアールにも勝るとも劣らない程の威圧感⋯これは素直に謝らないと今度こそ本当に命の危険があるんじゃないか?


「ごめん! 悪かった!」

「お兄ちゃん!」


 右側から目を覚ましたユイの人外の威力の突進を受ける。いつもだったら、難なく受け止めていたかもしれない。だが、限界突破オーバードライブの影響からか、まだまともに身体が動かせない。

 案の定、そのままベットから転げ落ちる。

 その音を聞き、何事だと全員が寝室へと入ってくる。

 クロにアリスにルーにサーシャ。ん、サーシャ?

 ああ、そうだった。ポータルリングでサーシャと盾騎士パラディンを呼んでたんだったな。

 ちなみに俺は、魔力枯渇のボロボロの状態で宿屋の一室に転移で帰ってきたそうだ。

 その時には既に意識はなく、その場に倒れ込んだとか。

 その場にサーシャがいたのは運が良かった。


「ちなみに、どれくらい気を失ってたんだ?」

「だいたい3日くらいです」


 3日か。そんなに寝てたのか。これも限界突破オーバードライブの反動か。むやみやたらに使用出来ないな。俺自身、限界突破オーバードライブしてからの記憶が曖昧だ。エドアール相手に善戦出来ていたのだろうか。傷だらけで帰って来たって事は、やはりまともに相手にならなかったと言う事だろうか。


「お兄ちゃん、あのね、起きたら連絡が欲しいって、何か赤い髪の綺麗な女の人が訪ねて来てたよ」

「赤い髪?」

「うん、勇者だって言ってた」


 リンと一緒に戦っていたリグさんかな。


「なーに、この短期間でまた新しい女性を作ったの?もう、隅に置けないんだからぁ、ぎゃああ!」


 冗談を言うルーに遠距離チョップを繰り出す。

 ルーは、頭を抱えて床を転げ回っていた。


「リン達と一緒に戦ってた勇者だよ」


 無事に合流出来てたんだな。良かった。

 あの時、余裕が無かったから場所も告げずに転移で逃げてくれとしか言ってなかったからな。

 すぐに連絡を取ろうと言ったが、それはみんなに猛反発されてしまった。少なくとも俺が完全回復するまでは駄目らしい。


 する事もなく、ベットの上での生活が2日程続いた。その間に、この狭い寝室で色々なイベントが発生したが、この場では割愛しておく。


 7大魔王トリアーデフの相手をしている魔女達の事が気掛かりだった。口伝えで聞いた話では、まだ本格的な戦闘には入ってない。

 互いが牽制し合い、硬直状態なんだとか。

 魔女達の力を信じていない訳ではないが、出来る事なら、俺達は勿論だし、勇者の力も借りたい。

 死霊大陸にいるエドアールに関しては、何故だかその場所から一歩も動いてないと言う。

 だけど、正直助かった。追って来ていれば、俺達の全滅は必至だったろう。


「旦那様は、これからどうするおつもりなんですか?」

「そうだな、ここからはみんなと一緒に行動しようと思う。その話もしないといけないな。みんなを集めてくれるか」


 2日振りにベットから起き上がった俺は、仲間達と作戦会議をするべく、となりの一室に机を囲みお菓子を食べながらモグモグ会議を始めた。


「だからみんなの力を借りたいんだ。魔女達と合流して全員でトリアーデフを討つ」

「んもんも。これ美味しいね! で、どんな相手なのー?」

「情報によれば、典型的な魔術師らしい。だけど、とてつもなく強い。数100キロも離れていた都市が一瞬で消え去ったって話だ」

「何それ、やばくない? んもんも。わぁ、ほんとだ美味しい!」

「ああ、だけど基本的には魔術師は近接戦闘に弱いはずだ。今回はそこをつく」

「近接戦闘ならユイがんばる!」


 久し振りにユイのケモ耳を堪能しながら頭を撫でる。


「ああ、だがまずは戦いの準備をしないとな」


 全員の装備を対魔術耐性を付与するつもりだった。


「一度、バーン帝国に戻ろう」


 人外の魔術師相手に気休め程度しかならないとは思うが、0.1%でも生き残る可能性が上がるならこれをやらない理由はない。


 やって来たのは、バーン帝国の防具屋⋯ではなく、魔付与屋だった。

 ここは、装備に様々な効果を付与してくれる場所だった。実はあまり公にはされておらず、これを教えてくれたのは、他でもない風の魔女シルフィードさんだ。ここは、魔女御用達のお店でもあった。

 入った瞬間、怪訝な顔をされたが、シルフィードさんの紹介状を出すと、警戒を解いてくれたのか、普段の?店主の顔に戻っていた。

 魔付与は、何度でも上書きが出来るのが有難い。基本は魔術耐性を。後はそれぞれにあった付与を施した。ユイは「速さこそ最大の防御だよ!」とほぼ全てを敏捷性向上の魔付与を行った。

 1回の付与に金貨10枚という高価な値段にも驚いたが、所要時間が数秒と言うのにも驚かされた。


「またどうぞ〜」


 店主はホクホクのニコニコ顔だった。


「それと、これをみんなに渡しておく」


 マジックリフレクター

 効果:一定確率で魔術を反射してくれる腕輪。


「全員ちゃんとつけとくんだぞ」


 魔女達の中に、この手のアクセサリーを作る達人がいて、全員分を分けてもらっていた。俺自身も多少改造させてもらったけどな。

 さて、これで準備は完了だ。


「ユイ、ルー、アリス、クロ、ジラ、アニ、サーシャ。これから俺と一緒に前線基地に行って貰うけど、注意して欲しい事がある」


 全員の視線が集まる。


「マスター、それはターゲットの近くの無数にあるモンスター反応の事でしょうか?」


 アリスは俺以上の高精度なレーダー機能を持っている。それが更に磨きが掛かっていた。

 俺がいない間に自分で自分を改造していたようだ。


「そう。詳しい話は向こうに飛んでから説明するけど、7大魔王トリアーデフの魔力に当てられ、附近一帯のモンスターが凶暴化はたまた増殖しているらしい。その数は軽く10000を超えている。既にいくつかの村や都市までもが蹂躙されたようだ。今は魔女達が結界を張り、何とか侵攻を阻止してる状態と言う」


最初は硬直状態のトリアーデフだったが、俺が寝ている間に動きがあったのだ。


「ちょっと待ってよ! 10000なんて数、私達だけでどうにか出来るの?」

「大丈夫、他にもたくさんの助っ人を呼んでる。他ならぬ魔女達もいるしね」

「サーシャは前線基地に残って、負傷者の処置を頼みたいと思う」

「分かりました。ユウ様自作の美味しい・・・回復ポーションもたくさん頂きましたからね。頑張ります」


 ユイが下を向き、何やら小刻みに震えていた。

 流石のユイでも、モンスターの圧倒的な数に恐怖を感じてるのか。でも、そうだよな、これが年相応の反応訳で⋯


「⋯倒していいんだよね」

「ん?」

「全部倒していいんだよね!」


 えっと、震えていたのは、恐怖からの怯えじゃなくて武者震いだったのか?


「あぁ、全部やっつけていいぞ」


 ユイが飛び上がって喜ぶ。


「あと、基本的にはユイはクロと一緒に行動する事」


 ユイはクロの腕を掴み、ラジャーのポーズを取る。

 それを見たクロも同じポーズを取っていた。

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