第296話: 破壊神トリアーデフ編4

 ここは、魔女達が張った結界の中。眼前には広大な大地とそれを囲むように透明な壁が聳え立っていた。


「モンスターいないね」


 ユウと別れて別行動中のユイ達。


「はい! 全員集合して。ここに座って下さい」


 側から見れば遠足か何かに来ていると思えなくもない光景だろう。


「これから作戦会議をします。流石に今回は今までのように力押しは難しいと判断します」

「そうですね、ネリスさんの話ではレベル50オーバーと言う事でしたし、普段以上に用心した方がいいと思います」

「単体なら私1人で問題ない」

「ですが、アリスさんの場合、傷付いてしまった場合の回復手段がありません。私達には聖女様がおられるので、ある程度は大丈夫だと思いますが」


 サーシャが手をブンブン振っている。


「聖女様なんて堅苦しいです。サーシャで結構です⋯えっと、ジラ⋯さん」

「分かりました。ではサーシャさん。まず貴女は自分の身を第一に考えて下さい。ここから戻れない以上恐らくこれは消耗戦になります。私達はある程度はユウ様に頂いたポーションを持ってきてはいますが、無限ではありません。そうなった場合、頼みの綱はサーシャさんになります」


 一度結界に入ってしまうと、敵を全滅させるまで外には出られないという制約があった。この事に関して、ユウは知らない。ユイ達も、飛ばされてから知った事実だった。この事をユウが知っていたならば、彼女達だけで行かせたりはしなかっただろう。

 アリスは肩に背負っていた小さな鞄を外す。


「これは改良した魔力保有鞄マジックストレージです。この中に有りっ丈のマスターの魔力を込めて頂きました。当面は修理の心配はありません」


 機械であるアリスは皆と違い、戦闘においての成長は望めない。日々強くなっていく仲間達に何処かしら嫉妬に近い感情を覚えていた。本来機械であるアリスに感情が芽生える事自体ありえないのだが、機械であるはずのアリスの中に何かしらの感情が芽生えていた事は確かだった。


 その時だった。


「こちらに接近する個体を確認。数は2体。前方正面です」


 アリスの警告に全員に緊張が走る。


 皆の視線の先には、真っ直ぐこちらに向かって突っ込んでくる巨大な姿があった。不気味なまでに全身黒一色のボロボロの羽を生やした竜種だ。腐敗して腐った身体が異臭を放っていた。



「何ですかあれえ! あんな強そうなの勝てるんですか!?」


 ユイが短剣を構え、隣にクロが控える。


「みんな、まずは落ち着いて。ルーさんは確か鑑定)アナライズ)を持ってましたよね?」


 ルーは、頭を抱えてふさぎ込んでいた。


「ふぇ? あ、あぁ、そうです! 最近全く使ってなかったから、忘れてました、てへ」


 可愛らしく自分の頭をコツンと叩いた。


 名前:アースドラゴンゾンビ

 レベル:58

 種族:アンデット

 弱点属性:火

 スキル:呪怨Lv3、疾風咆哮Lv3、火焔咆哮Lv3、氷結咆哮Lv3、瞬撃Lv3、地割れLv5、石化咆哮Lv3




 鑑定アナライズによって見えた内容を全員に告げる。


「レベル58と62ですか、中々に大物ですが、今の私達ならば、冷静に対処すれば問題ないでしょう」


 さて、あまり指揮命令は得意じゃないのですけど、ユウ様に頼まれてしまいましたしね、その職務果たさせて頂きます!


「アリスさんは牽制でモンスターの動きを止めて下さい。ユイさんとクロちゃんは、2対それぞれに対して前衛を。敵を引きつけ絶対に後ろには通さないようにして下さい。私とアニさんで前衛2人の援護を。ルーさんは耐久性の高い精霊を1体召喚し、アニさんとサーシャさんを守って下さい」


 ジラが的確に指示を出し、当初バラバラだった体制を組み直す。


 《聖なる守護者ホーリーガーディアン


「ユイさんとクロさんに耐性アップと持続的に回復してくれる魔術を施しました!」

「わあ、ありがとう聖女様!」「ありがと」


 アリスが正確に狙いすましたレーザーをドラゴンゾンビ達の足元に命中させる。

 それを合図に2人が飛び出した。


 ユイが疾風斬撃をクロが双爪乱舞をそれぞれにお見舞いする。


 《火炎球》《影縫い》


 アニが動きを止めた所に、ジラの2個の巨大な火の玉がゾンビ達を襲う。


 ドラゴンゾンビ達は、動けぬまま業火に包まれて、やがて灰となり消滅した。


 前衛の2人が戻って来る。


「意外とアッサリだったね」


  ユイとクロが互いにハイタッチをする。


「皆さん、あれやばいよ!いっぱい来た!どうやらここからが本番みたいだよ⋯」


 ルーの指差す方角に、遠目に複数のモンスターの姿が迫ってくる。


「接近個体は全部で6体」


 多いけど、6体ならまだ大丈夫よね。


「アリスさんは前衛に回って下さい。後は先程と同じ陣形で行きます!」


 全員が武器を再び武器を握り、敵を睨みつける。


 先程の秒殺とは違い、15分余りの時間を要したが、ジラの指示と各々の裁量で、傷を負いながらも何とか6体のモンスターの撃破に成功していた。



「はぁ、はぁ、少し疲れたね」

「クロはまだいける」


 連戦とは言え、この2人が消耗する程に相手は強い。


「他に怪我をされた方はいませんか?」


 サーシャは戦闘中も的確に治癒ヒール状態回復リフレッシュを使い、皆を支援していた。


 しかし⋯

 そんなサーシャの手をジラが掴み上げる。


「サーシャさん、少し疲弊が見えますね。傷を負うたびに治癒ヒールしていれば、魔力がすぐに底をついてしまいます。命や戦闘に支障のない多少の傷ならば、そのまま放置して下さい」

「ですが⋯私に出来るのはこのくらいしかなくて⋯」

「最初に言いましたが、パーティメンバーでの要は聖職者であるサーシャさんです。サーシャさんが崩れたらこのパーティーは崩壊します。その事を自覚して下さい」


 少し言い方がキツかったかもしれない。

 だけど、自分で自覚しないと、この先きっと後悔してしまう。他でもない、自分自身がね。


「聖女様、ユイなら大丈夫! 少しくらい怪我してても戦えるから程々でいいよ!」

「クロも問題ない。足怪我しても飛べる」

「それはズルいよ! 私飛べないのに⋯」


 じゃれ合う姉妹同士だった。

 しかし、そんな明るい2人のお陰で今のこの暗い雰囲気を一転させてしまった。


「そういえば、私も精霊で回復ヒール使えるんだった」


 ⋯⋯。


 ルーの言葉で、折角明るかった場の雰囲気に無言の時間が訪れた。


「すみません。魔力温存の為に少し痛いかもしれませんが、我慢してくれますか?」

「おっけー!」

「攻撃当たらないように気を付ける」


 これで聖女様の魔力も少しは温存出来るかしら。


 その後も各個撃破を基本に戦闘と休憩を繰り返し順調にモンスターを殲滅していくユイ達だった。


 既に結界に入り6時間余りが経過していた。

 辺りはすっかり夜になっていた。

 現在、視界の悪い林の中で、結界を張り休憩を取っていた。本来ならば、視界の悪い場所は避けるのだが、高性能レーダーを搭載したアリスや気配察知、夜目に優れたユイがいる為、デメリットにはなり得ないからだ。


 しかし、この判断が裏目に出てしまう。


 アリスのレーダーにもユイの気配察知すらも掻い潜り、すぐ近くまでモンスターが迫っていた。

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