第283話: 破壊神トリアーデフ

勇者連合総勢200名並びに賢者、聖女など勇者の共を務める者が役400名。

その中にはユウと行動を共にしたリンやサーシャの姿もあった。


死霊大陸。

ここは先人達が戦い勝利を決めた約束の大地。


「ここが決戦の場所とは、これも因果か…」


辺りは昼間にも関わらずまるで闇夜のように空は黒一色で覆われていた。

引っ切り無しに雷鳴が鳴りすさび、まるで大地が何かに恐怖し怯えているかのようだった。


亡国の騎士達との戦いで、広大な死霊大陸が二分されてしまっていた。


死屍累々の中、その中央に立ち、次なる挑戦者を待つのは7大魔王のリーダーであるエドアール。


向かえ撃つは、勇者達総勢600名。


代表同士が向かい合う。


レインの身長はけして低いわけではないのだが、エドアールと比べると頭3個分程の差があった。


「あんたが7大魔王の一人で間違いないな」

「ああ、そうさ。にしても大人数だな。今度はお前達が相手をしてくれるのか?」

「ああ、私達が相手だ」


エドアールは遠方を見渡すように辺り一帯をキョロキョロと視線を送っていた。


既に満身創痍…か?


鎧は砕け、上半身は剥き出しと言っても過言ではない。


これだけの死体と大地に残る戦いの傷跡…

既に疲弊しきっているのは一目瞭然だ。

しかし、何だ・・・こいつの、奥底から湧き上がっているこの圧倒的な威圧感は…


この私が気迫だけで気押されているとでも言うのか?


「おいらと闘う資格はあるのかねえ?」


''ブォン''と言う音が辺り一帯に響き渡ったかと思えば放たれた禍々しい殺気に数十人が意識を奪われる。


ここに7大魔王エドアールと勇者達による闘いが切って幕を開けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

破壊神トリアーデフ編



ここは、ククルス山脈に連なるこの世界最高峰ミネール山山頂。


その頂に場違いとも思える一人の少女が座っていた。


「はぁ、暇ねぇ」


少女はかれこれ1年間ずっとこの場所いた。何をするでもなく。只々待ち続けた。


彼女は大気中の魔素を取込みそれを自らの栄養の糧にする事が出来た。

彼女は人族ではなく、むしろ妖精に近い存在だった。


「そういえば、そろそろ行動を開始してもいい頃合いかしらね」


トリアーデフは、ラドルーチの言っていた、


"1年間は水面下で行動する事"


を律儀に守っていたのだ。


「ん!生体反応を確認したよ」


トリアは、自身の半径10km圏内に入れば察知出来る感知系スキルを常時展開していた。


「どれどれ〜」


トリアは遠視により、接近反応がした場所を窺い知る。


まだ距離はかなりあったが、ハッキリとその表情まで見て取っていた。


「おやおや!!冒険者かな!5人組のパーティだね。いいねえいいねえ!ちょっと顔だして見ようかなぁー」


トリアの両足がビリビリと紅色の紫電を帯びる。


《雷迅脚》


約10kmの距離をまさに瞬きするほんの一瞬で移動してしまった。


「なんだ!お前は!」


今、5人の熟練冒険者の前に年端も行かない少女が不敵な笑みで宙に浮いた状態で見下ろしていた。


冒険者達は見た目とは裏腹にその禍々しい気配からすぐに武器に手にかける。


「1年間ほんっと暇だったんだよねー。あのさ、訛っちゃってるだろうから、ボクのリハビリに付き合ってよ」


トリアは相手の実力を大まかにだが把握する術を持っており、それは自身を基準とした10段階で区別していた。自身の数値は9と定義している。

自身よりも強い存在。彼女が唯一己よりも上位の存在と認めていたのは、7大魔王のエドアールだった。


そんなトリアの彼等の評価は全員0。


それは戦いとは言い難い一方的なまでの殺戮だった。

それは蟻を踏み潰すよりも児戯な事。


物言わぬ肉塊へと変わり果てた冒険者達は、それこそ跡形もなくトリアによってこの世界から消された。


「つまんなーい!これじゃ、リハビリにすらならないよ」


それから更に数日が経過した。


トリアは目を瞑り大地からひたすらに魔素を吸収していた。

トリアがここに居座っているのはある理由がある。

それは、このククルス山脈一帯の魔素の濃度だ。

ここは大昔に地上に存在した神々の社があった場所でもある。

いまでこそ地上からは姿を消してしまった神々の社だが、今でもその名残からか無限に溢れ出る魔素の源泉となっていた。

トリアの世界の妖精族はこの魔素が大の好物で、これさえあれば他の栄養は不要だった。


そんな時、魔女達によって偵察と言う名の刺客が放たれた。

トリアの索敵圏内に入るのも時間の問題だった。


「ん、また新しいのが来たみたいね。今度は多少なりとも歯応えがあると嬉しいんだけどなぁ」



魔女サリーナ・ヴェール

魔女ミミベル・マラン

魔女ラトゥース

魔女ローレライ


全員そのレベルは60超とその実力は申し分なかった。

そんなこの世界では間違いなく強者の部類に入る彼女達でさえトリアの評価は先程よりも一つしか上がっていない1だった。


イキナリ現れたトリアに4人の魔女達は奮闘するも、相手に全くのダメージすら与える事は叶わなかった。


「何よあのバケモノ…」

「こちらの攻撃まるで効いてない」

「サリーナはこの事をみんなに伝えて!私達が時間を稼ぐから!」


魔女達は相手のほんの僅か覗き見した実力に戦意を喪失していた。


「逃すと思うの?」


トリアは右手を背を向け飛び去ったサリーナに向けると、まるで林檎を握りつぶすかのような仕草をとった。



《掌握》


ただ右手を握っただけの行為。


次の瞬間、サリーナは口から大量の血を吐き、地面へと落下する。


「サリーナぁぁぁあ!!」


仲間の死により激情した魔女達は無謀にもトリアに挑

むも、勝ち目などあるわけなく、すぐにサリーナの後を追った。


「あーあ、もう終わり?つまらないわねぇ」


トリアは後ろ手から杖を取り出した。

何かを唱えると、不気味に杖先が光り出した。

するとどうだろうか、、

目の前の魔女達の亡骸が杖に吸収されてしまった。


「でもそろそろ離れてもいい頃合かもね。他の奴等に先を越されても嫌だし」


都市ラーバテイン


ククルス山脈の麓に聳える都市でもあり、山越えの商人、冒険者が必ず立ち寄る場所でもあった。

辺り一帯は雪で覆われており、この都市の上空には雪除けの防壁が展開されていた。

魔導具の力により雪が積もらない仕組みになっていたのだ。

人口約5万人の都市は、今日も行き交う者達で賑わっていた。


そんなラーバテインの遥か上空にトリアの姿があった。


「手始めにこの力使ってみようかな。ラーちゃんは、この世界を征服しろとか言っていたけど。こんな弱い奴等を征服して何になるのか私には分からない。1000人居ようがその100倍居ようが一瞬で消し去れる。私は私が認めた者だけ従えさせればいい。弱者は生かす意味がないよ。強者だけの世界。私はそれを目指す。えへ、じゃあ、行ってみよっかー」


始原素砲エーテルバスター


トリアの左手から放たれたのは拳大程の虹色に輝く球体だった。


眩い光を発しながらゆっくりと地表に向かい落下していく。


その光景に何事かとラーバテインの人々が次々に空を見上げる。まさかそれが自分達の命を奪う光だとは、まさかそれが最期に見るものだとは想像もしていないだろう。


それから数秒後、ラーバテインはこの世界から跡形もなく消え去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る