第282話: 勇者レイン
勇者の里に生まれ、物心ついた頃からひたすら朝から晩まで戦闘訓練や勉強などかれこれ10年以上も続けて来た。
当時はそれが当たり前だと思っていた。
なんせ外の世界など知らなかったからな。
周りの同世代の子らも同じように朝から晩まで訓練に明け暮れていた。
外の世界から時折新しい奴が入ってくる事もあったが逆に気が付いたら居なくなっている事もあった。
その時の私は、特にそれを疑問とも思わなかった。
初めて里の外に出たのは確か12歳の頃だったか。
野外訓練と銘打ったモンスター討伐だった。
なんて事はない。いつもの戦闘訓練でしている事をするだけの簡単な討伐だった。
それを皮切りに何度か外へ出る機会が増えた。
野外訓練以外にも各国への顔見せやらギルドからの討伐依頼など、全てを完璧にこなして来た。
そんなある日、遺跡の調査を請け負い、私を含めた3人と案内役1人でその任に赴いた。
未開拓の遺跡の調査を何故勇者である私が受けなければならなかったのか、その時の私は何も不思議に思っていなかった。
これが、勇者を亡き者とする策略だったと。
順調に調査は進んでいたが、ここまで案内役を勤めていた人物が急にいなくなったのだ。
それを皮切りに引っ切り無しに遺跡に潜んでいたモンスターに襲われてしまった。
強さは大した事なくても何処から沸いて出てくるのか、奴らは圧倒的な物量で私達に追い迫った。
加えて遺跡内部と言う事もあり、隠れる所もなく、また狭い為、剣本来のリーチと間合いを活かす事が出来ず、皆本来の力が発揮出来なかった。
何日が経過したのだろうか。
もって来た食料は既に底をつき、私達は出口を探して彷徨い歩いていた。
そんな最悪の状況下に奴と出会ってしまったのだ。
ここは遺跡などではなく、新しく開拓されたダンジョンだったのだ。
ダンジョンボスを名乗るそいつの強さは圧倒的だった。
人語を話す龍種など、見た事も聞いた事も無い。
そいつは、幼少の頃から共に学び訓練して来た2人の仲間を親友をコイツは・・・私の目の前で一瞬で灰に変えた。
その後の記憶はよく覚えていない。
頭に血が上り、次に気が付いた時は、龍の大量の血を全身に浴びていた自分がそこに立っていた。
その側には龍の頭が転がっていて、当然の事ながら絶命していた。
そういえば、あいつらと出逢ったのもその時だったか。
このダンジョンに入り、何日が経過したのかすら分からない程に、ダンジョンボスを倒した事すらもかなり昔の事に思える程に、出口を探し当てもなく彷徨い歩いた。
そんな先に不自然に置いてある巨大な宝箱を見つけた。
既にかなりの日数口に何も入れていない事もあり、罠でも何でもいいと藁をもすがる思いでそれを開けた。
中に入っていたのは、目を瞑ったままの2体の人形だった。
着物を来た少女の姿をしていた。
最初まるで本物の人族と見紛うほどに精巧に作られていた。
人形だと思ったのは、無機質なまでに綺麗な顔だったからだ。
「何だよ、食料の一つでも入っていれば良かったものの…」
私はその場に宝箱を背にする形で力尽きてしまった。
どれくらい眠っていたのか。
次に気が付いた時には、目の前に2人の少女が立っていた。
もう何でもいいと…掠れながらも枯れた声で必死に叫ぶ。
「た…すけて…く…れ」
無表情な少女達は私に手を伸ばす。
「畏まりましたご主人様」
「ダンジョン入り口に転移します」
その時、目の前の2人があの宝箱の中にいた人形だと気が付いた。
ダンジョンを脱出した私は、食糧を確保し、体力を回復した後、勇者の里へと帰還した。
驚いた事に、里を出てから3ヶ月も経過していた。
里中では、私は死んだものとされており、帰った際には幽霊だとかモンスターだとか酷い言われようだったな。
今回の件、勇者に恨みを持つ者の策略にまんまと嵌められた。
依頼相手は信用のおける相手でもあった為、里側も何の疑いも持っていなかった。
新しく誕生した高難易度ダンジョンを使った偽装依頼。
策略に嵌められたと言っても、案内役がいる前提で、事前に難易度が低いなどと言われていたが為にろくに調査もせずに挑んでしまったのがそもそもの原因でもある。それさえ怠っていなければ、大事な仲間を死なせずに済んだかもしれない。
里の将来を背負って立つ有望な人材。
それが今回の私達3人として人選された。
2人とも私同様幼少期より共に訓練に励み同じ釜の飯を食べた間柄のもやは家族と言っても過言ではない存在。
絶対に許さない。私を含め今回の件に関わっている者全てに制裁を加えてやる。
私が生還した事により、それが明るみとなり、結果ダンジョンお抱えの国ぐるみの犯行と判り、数ヶ月の後、地図上から消えた。
消し去ったと言う方が正しいかもしれない。
小国だっだが、国民も同罪とされ結果多くの命を自らこの手で奪ってしまった。
勇者の里が、一国を滅ぼしたのだ。
この件は秘匿扱いとして、関係者以外が知る事はなかった。
生き残ってしまった私は、2人の分まで生きて行く義務がある。
同じタイミングで仲間になった2人にどうしても因果を感じてしまう。
魔導具万能兵器である彼女達は出逢った頃から変わらぬ忠誠を尽くしてくれている。
「行くぞ、ミュレイ、ミュライ」
「はいご主人様」
「何処までもついて行きます」
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