第281話: セルバ編完

このボロ古屋の中に魔女がいる事を悟られたらだめだ。

魔女達とは無関係だって事をアピールしとかないとな。


「なんだお前は?俺たちに用か?」


これってない程に威圧を込めた睨みを利かせる。

そもそも機械に威圧を飛ばして意味があるのかは分からない。


「キミ達は何者だい?」


半信半疑だったが、この機械蜘蛛どうやら喋るらしい。


3人を見下し状態にある機械蜘蛛。


図が高いなこいつ。


「ただの冒険者さ。それで、俺の別荘・・に何の用だ?」


次の瞬間、その巨大な前足を俺目掛けて振り下ろす。


速さも加わり、何tあるのか分からない超重量の脚を細腕から伸びた小さな爪で受け止められる。


俺へと接触する間際にクロが柄いち早く動いていた。


当然避けるのは造作もなかったとだけ言っておく。

にしても、こいつイキナリ攻撃してきやがって・・


「2人とも、遠慮はいらない。やれ!」


コイツには魔術の類は通用しないらしいからな、魔術師であるジラには荷が重い。

故に物理火力のクロが主戦力となるだろう。


衝撃波ソニックウェーブ


巨大蜘蛛を凌駕する程の大きな真空波が襲う。

しかし、着弾の瞬間に掻き消えてしまう。


やはり魔術を無効にするシールド紛いな物が展開されている。

本当にSFチックだな。


クロはその素早い動きで相手を翻弄し、攻撃を繰り出していた。

しかしあの装甲は相当に硬いのか、甲高い音だけ発し、傷一つ付いていない。


「二人とも!その緑の液体には絶対に触れるなよ!」


厄介なのは、あの溶解液だ。

全てを溶かす緑色の液体。


未知の毒ならば浄化で対処は可能だ。

しかし、触れれば溶かされるのならば、即ち一瞬で死だ。


ジラが魔術で足留めをし、止む無く俺も杖から聖剣に持ち替えてクロと共に斬り付ける。

当初は投石をしていたが、焼け石に水だった。


こりゃ駄目だな。


硬度がありすぎてこのままだと埒が明かない。


「ユウ様、私の固有スキルを使いますか?」


耳元でジラが囁く。

ジラの固有オリジナルスキル、ブラックホール。

全てを飲み込む漆黒の闇。


「いや、あれは術者への負担が大きい。今はまだ駄目だ」


打つ手がないのもまた事実だった。


その時、身体がフワリと軽くなった。

異変が訪れたのはどうやら俺だけではないようだ。

2人がこちらへと視線を送る。


俺が何かやったと思ったのだろうが、俺じゃない。


なるほどな、これが魔女達の援護支援って訳か。

物理攻撃力もどうやらかなり上がっているようだ。


クロの攻撃が、さっきまでは傷一つ付けられなかったにも関わらず、小さな傷だが確実に奴の装甲硬度を上回った。


''一刀両断を獲得しました''


このタイミングでしかも剣技か?

今まで少なからずも剣を振るってきた事に対しての恩恵か?はたまた神様からの思し召しか。


試してみるか。

今更ながら剣技の類はあまり得意じゃない。

俺のはレベル補正に物を言わせて振り回してるだけだと言う自覚がある。


《一刀両断》


飛び上がり、巨大蜘蛛の正面で剣を振るう。


刀身が眩いばかりの光を発していた。


どりゃあああ!!


装甲と触れた剣がまるで悲鳴をあげているような甲高い音を奏でながらも、巨大蜘蛛の装甲を確実に斬り込み抉っていく。


気が付けば、真っ二つに斬り裂いていた。


巨大蜘蛛は断末魔すら上げることなく、塵となって消え去った。


「流石がユウ様です。剣の才能もお有りとは」

「ユウ凄い。私でも傷をつけるのがやっとだった」

「神様と支援のお陰だよ」


2人が頭の上に「?」を浮かべていた。


古屋へと戻ると、歓声が上がっていた。

この古屋どうやら防音設備完備のようだ。

外見はただの古ぼけた古屋だってのに、中は最先端の科学が、、いや、魔女の力なんだけどな。


歓声の矛先は巨大蜘蛛を倒した俺等ではなく、セイリュウ、シュリ達に向けられていた。


「シュリちゃん達!倒してくれましたよ!」

「そちらもお疲れ様」


エスナ先生が俺の頭をポンポンと叩く。

少女に頭をポンポンなんて、変な光景だよな。


「儂等が諦めた相手を、流石じゃなユウ」

「誰の弟子だと思ってるんですか」

「嬉しい事を言うてくれるな」

「お前達。そう喜んではおれんようだぞ。セルバは討ち取った。残りは2人。内1人を偵察している者からの定時連絡が来ていない。恐らくだが、捕まったか、やられたかのどちらかだろう」


歓声ムードだった古屋の中が一転して静まり返る。


「4人全員?」

「ああ、誰からも連絡がない」


そう簡単に魔女がやられるとは思わないが、時間が経てば経つほど生存確率は低くなる。

それに魔女たちも奴らの動きを把握してるのか。

確か最後に見た時は、


「死霊大陸の方?それとも山脈か?」

「貴方も魔王の動向を把握しているみたいね。私達が偵察していたのは、ククルス山脈よ。死霊大陸は勇者連合が向かっていたからね」


勇者連合か。確かに戦力は申し分ないかもしれない。

人族界では間違いなく最高戦力だろう。


「ねえねえ、2人が私達の死体を見て動揺してるよ」


巨大スクリーンに2人が呆然と立ち尽くす姿が映し出されていた。


「そーだったな。シャル。あの偽装も回収しといてくれ。それと2人をここに。頼むぞクロム」

「了解。呼んでくるよ。シャル行くよ」


クロムウェルとシャルワースが転移でセイリュウ、シュリの元へと向かう。


「ありがと・・」


1人の少女が俺の前に立つ。


糸使いの魔女イサナだった。

毒に犯され、後少しでも対応が遅れていれば命はなかっただろう。


「貴方のお陰で命拾いした。お礼をさせて」

「ああ、気にしないでくれ。困ってる人を助けるのは当たり前で・・・んぅ!?」


何をされたのか一瞬分からなかった。

俺の唇に相手の唇が重なる。

それはほんの僅かな時間。

時間にして1秒もなかっただろう。

イサナは頬を赤らめそのままスタスタと逃げるようにその場を去る。


「あらまぁ」

「イサナやるぅー」


周りの魔女が騒ぎ立てる。


あれ、背後から殺気紛いの痛い視線を感じる。

恐る恐る後ろを振り向くとジラと目が合う。


無言なのに、笑顔なのに、何であんなに怖いんだよ。



暫くすると、セイリュウとシュリが戻って来る。


皆が拍手で讃えていた。


「シュリも良くやったな」

「え?ユウ?」

「何だよ、少し見ない間に俺の顔を忘れたのか」


シュリは涙を零しながら、一直線に俺の元へ駆け寄るとそのまま抱きつく。


「シュリ、頑張った・・」

「ああ、見てたよ。成長したな」


シュリの頭をポンポンと叩き、労を労う。


「同族一杯命奪われた」


聞けば、シュリは龍人族の代表としてこの戦いに望んでいたそうだ。

代表としての重圧、散って行った者への弔い。

込み上げてくるものがあるのだろう。


シュリが落ち着くまでの暫くの間、その胸を貸していた。

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