第280話: 解毒

2人の魔女に連れられやって来た場所は、古びれた古屋だった。


何とも殺風景なその中にいたのは、少女から妙齢の女性のみと言う、いわゆるハーレムと呼べなくもない環境だった。

普通ならば胸踊る展開なのかもしれないが、まる通夜のような空気を醸し出していた。

何も知らされずに連れてこられた為、一体何の為に呼ばれたのか不明だった。


ん、見知った顔が何人かいるな・・・って!?


「エスナ先生!?」


なぜエスナ先生が!

しかも何でそんな死にそうなんだよ!


「詳しく説明している暇はない。エスナを含めた複数の魔女が7大魔王の一人セルバによって原因不明の毒に犯されてしまったんだ。彼女等を救えるか?」


だから俺を探してたのか。


「あ、直接触ったら駄目!貴方も感染しちゃうわ」


直接触れようとする俺を制止する。


エスナ先生の横には、同じくぐったりしていたノイズの姿があった。

ノイズの性格上、感染すると分かっていながらエスナ先生の隣でベッタリしてたんだろうな。情景が目に浮かぶよ。


名前:エスターナ・メルウェル

レベル:89

種族:人族 (神格者)

職種:魔術師

スキル:火撃ファイアーボルトLv5、火嵐ファイアーストームLv3、雷撃ライトニングボルトLv5、雷嵐サンダーストームLv5、風撃ウィンドカッターLv5、衝撃波ショックウェーブLv5、重力グラビティLv3、念話テレパシー治癒ヒールLv3、浮遊術ふゆうじゅつLv3、石壁ロックウォールLv3、氷壁アイスウォールLv3、魔力吸収エナジードレインLv1、魔力注入マジックインジェクト、透明化、範囲結界セイフティードームLv3、速度強化アジリティアップLv3、状態回復リフレッシュ、結界術

称号:樹海の魔女

状態:未知の毒????


既にエスナ先生の意識はない。

大量の汗を掻いている。

状態は、未知の毒?


舐めやがって・・・


この世界の理から外れた存在から齎された毒だから未知ってか。


俺の治癒ヒールで治ってくれよ。


治癒ヒール


眩いばかりの光がエスナ先生を包み込む。


結果は…


「駄目だ・・・治ってない…」

「そんな、、最高レベルの治癒でも駄目なのか…」


魔女達は、ガックリと項垂れる。


何か他に手はないのか…


本来毒ならば解毒や治癒それに毒消しポーションで治るはずだ。


「毒消しポーションは試したんですか?」

「ええ、解毒も効果なしよ。状態回復リフレッシュもね。だから貴方が使える治癒が最後の頼みだったのよ」


くそっ駄目か。


ないのか、他に手は・・・


取得していたスキル一覧を見てある事に気が付く。


浄化・・・か。


確か浄化はクロが暴走した時に取得したんだったよな。

あのタイミング、どうせ神の仕業だろうと思ったもんだが、浄化か。試してみるか。

祈るような思いで浄化を行使する。


《浄化》


先程の治癒程ではないが、かざしている部分が淡く光り出し、すぐに消えた。


鑑定アナライズで確認し、状態異常欄がなくなっている事が確認出来た。


「よし!成功だ!」


思わずガッツポーズしてしまった。


「ほんと!?」

「良かった…」


魔女達ハイタッチを求められたので応じる。


何故浄化が有効だったのかは不明だ。

もしかしたら、毒扱いではなく、呪いの系統だったのかもしれない。


感染者を順に浄化で救っていく。


先程まで死にそうな状態だったのが嘘のように苦悶に歪んだその表情は穏やかになっていた。


そんなエスナ先生にノイズが一方的に抱き合って喜びを感じている。


コイコイとエスナ先生に手招きされる。


近付くとそのままノイズと一緒に抱きしめられた。


無言のハグに俺の涙腺が緩む。


「ありがとう。自慢の弟子を持って儂も鼻が高いぞ」

「いえ、間に合って、お役に立てて良かったです」


そんな俺達の前に1人の女性が歩み寄り、頭を下げる。


その仕草を見た他の魔女達が皆一様に驚いた表情をしていた。


「同胞を救ってくれた事に感謝させて欲しい」


ここにいるのはたぶん、全員魔女だよな。

代表してお礼を言うって事は、その中でも一番身分が高いって事だ。身分制度なのかは知らないけど。

そんな人物が俺なんかに頭を下げるのだから、一国の王が頭を下げるようなものなのだろう。


それってまずいよな・・


「頭を上げて下さい。目の前に病人がいれば助けるのは当然です。それに今は皆が一致団結して7大魔王を撃たなければりません。その為ならばいくらでも使って下さい」

「流石はあの堅物なエスナの弟子なだけはあるな」


今度は一転して、頭をポンポンと叩かれた。


「前後が逆になってしまったが、私の名前はシルフィード。ここにいる魔女達の長役を仰せつかっている者だ。もう察しはついてると思うがな」


その後、シルフィードさんから現状の説明と、目下7大魔王が一人技巧のセルバと今まさに対峙している事を知った。


俺達も協力を申し出たが、当初の作戦通りで行いたいと言う事だった。

古屋の壁一面に超大型テレビも顔負けの特設モニターが設置してあり、セルバ達と闘っている生中継が放送されていた。


これも魔女の力ということだが、何でもありだなこれは。

その映し出される映像を見て初めて分かったのだが、何故シュリが闘ってるんだ?


「あれは、セイリュウ様・・」


ジラも巨大スクリーンを凝視していた。

ジラの知り合いって事は魔族だよな?


ん、セイリュウ?


セイリュウって言えば、確か魔族の最高実力者の元老院の一人だったよな。

以前、ジラから聞いたような気がする。


「きっとメルシー様の采配でしょう。残った7大魔王討伐の為に魔族側から派遣しているのだと思います」

「なるほどな。そんなに凄い人物なら確かに俺の出番はないかもしれない」


それにシュリも相当実力を上げたようだしな。

今の槍捌きなんて見えなかったぞ。

直に見るのと映像との差はあるかもしれないけどな。


!?


どうやら敵さんのお出ましみたいだな。

外に敵対反応が確認出来る。

イキナリ現れたのか?

近付くまで察知出来なかったのは何故だ?


「外に敵がいる」

「ちっ、またか」


シルフィは探知魔術を展開していた魔女グレースへと視線を向ける。


「申し訳ありませんシルフィ様。私の索敵にはまだ反応はありません・・」

「おそらく認識阻害だろう」


一人の魔女が小さな穴から外の様子を覗き見る。


「シルフィ!またあの蜘蛛みたいな奴だよ!」


蜘蛛?

またと言う手前、エスナ先生達に毒を喰らわせた奴か。

ならば、やる事は一つしかない。


「俺達が迎え撃ちます」


ジラとクロもやる気だしね。


「危険だ。それに恐らく奴は魔術は効かないぞ」


魔術が効かないか。

だが、魔術が効かない相手とも何度か戦闘経験はある。


「皆さんが出て行けば折角死体を偽装した意味がないですよ。ここは俺達に任せて下さい」

「大丈夫、私たち強い」

「セイリュウ様だけに闘わせる訳には行きません」

「そうだな。シュリも頑張ってるしな」


ボロ古屋を出ると、そこには身の丈5mはありそうな全身黒一色の不気味な巨大蜘蛛が待ち構えていた。


蜘蛛と言うか機械蜘蛛か?

SFとかに出てきそうな奴だな。


セルバの作り出した兵隊か。

そんな物が創り出せる世界ならば、もしかしたら俺が元いた世界よりも進んだ文明から来たのかもしれない。

っと、今はそんな事を悠長に考えている場合じゃなかったな。

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