第279話: 探し人

時の魔女クロムウェルにより、拠点を移しやってきた先は、セイリュウ達から少し離れた場所にある朽ちた古屋だった。


「だいじょぶなの、ここ」

「妨害が通用しないなら、せめて外からは見えない場所を選んだまでだ。私の能力制限により対象者から離れる訳にはいかないからな。それより、自体は深刻だ。まず感染した者は古屋の隅に寝かせてくれ。くれぐれも直に触れるなよ」


セルバの調合した毒は非常に感染力が強く、空気感染とまではいかないが、毒に感染した者に直に触れるとその者も感染してしまう。


最初に感染したイサナは既に昏睡状態になっており、エスナ、その他2名も既に意識は朦朧としていた。

そんなエスナにはノイズが付きっ切りで看病している。


「お、どうやらボクたちの死体のダミーに無事に引っかかってくれたみたいだよ」


シャルワースは自身が作った人形と視界を共有する事が出来る。

自らが創り上げた死体偽装人形の視界から魔導蜘蛛の動向を確認していた。


「シャル、奴は何処に行ったか分かるか?」

「ううん、暫く観察して納得した様子で、その後、パァっときえちゃったから分からないよ」

「そうか、まぁどちらにしても私達に残された時間は少ない。セイリュウ殿達の早期の決着を信じるしかない」

「治癒に関してじゃが…一人心当たりがある」

「エスナそれは一体誰だ?」

「お姉様、それってまさか…」

「妾も何となく分かった気がするな」


ノイズとムーが顔を合わせる。


「話す…前に皆に約束して欲しいんじゃ」


エスナは毒による後遺症なのか、その身体は異様なまでに熱を帯びていた。


心当たりがあるのは、自分の弟子である事。

そして、その力を公にしない事。

自らの勢力に絶対に取り込まない即ち絶対不干渉の立場をとる事。


を約束に、その人物について語った。

話終わると、エスナはそのまま意識を失ってしまった。


「そのユウとやらの場所は…ノイズ分かるか?」

「分からないわね。カーミラ、分かる?」

「特徴が分かれば探せる」


深淵の魔女カーミラがノイズの頭に手を乗せる。


ノイズの記憶からユウの特徴を把握する為だった。


そして、声にならない音量でブツブツと何かを唱える事数分。


「分かった。でも少し遠い」

「クロム、カーミラと一緒に連れて来てくれ」


座っていたクロムは、待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。


「了解だよ」


ユウの居場所として見えた光景をクロムの頭に直接送る。

互いの額と額を合わせる事により。


若干クロムの顔が赤い気がするのは気のせいだろうか?


ユウを連れて来るべく2人がやって来たのは、シア大陸にあるユミルの砂宮と呼ばれる所だった。


「ここにいるの?」

「間違いない。この場所のイメージが見えたから」

「なら早いとこ探して連れ帰ろう。キミならピンポイントで現在地が分かるだろう?」


カーミラは額に人差し指を当てて何やら考えに耽っていた。


「カーミラどうかしたの?」

「地道に探すしかない。私に分かるのは大雑把」

「はい???」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同時刻

ユウ視点


金獅子のサモナを倒し、アリシアさんを護れなかった事を含めた事の顛末を伝える為、ユミルの砂宮を訪れていた。


「この町を救って頂いた事には心より感謝致します」


言葉とは裏腹にその表情は暗い。

無理もない。一人娘を亡くしてしまったのだから。

目の前でそれを救えなかった事に己の無力感を感じてしまう。


「首謀者は既に討伐しましたので、もう心配いりません。娘さんの事、本当に申し訳ありませんでした」


深々と頭を下げる。


「顔を上げて下さい。娘はこうなる事を承知で己で決断してここを出て行ったんです。この町を守る為に」



その後、多大な犠牲者を出したものの、危険を脱したという事で、町を上げてのささやかな晩餐会を主催してくれると言う申し出を受けたが、丁重にお断りした。

今回、俺はバーン帝国から依頼を受けた冒険者と言う立場でここに来ている事もあり、すぐに報告する必要があるとか無いとか適当な理由をつけておいた。


「人の命って、儚いよな」


一人で夜風に当たりながら独り言を呟いていると、


「だから愛おしいんだと思いますよ?」


いつの間にやらセリアがちょこんと俺の肩に座っていた。


「儚い命だからこそその命を大切にするんです。あまり自分を責めるのは駄目ですよ」


俺の内心を知って慰めてくれているのだろう。


「セリアは、俺のお母さんみたいだな」

「な!!こんなに大きな子供を作った覚えはないですからねーだ!」


セリアが頭をポンポンと叩く。


「ごめんごめん、でも、いつもありがとうな」

「ふんっ、手間の掛かるご主人様を持つと私は苦労するんですからね」

「ご主人様のくだり、久し振りに聞いたな」

「あら、ご主人様じゃないし!っては言わないんですね」

「あの頃が懐かしくてな……」


黒一色の空を見上げても何も見えないのは、何だか寂しいな。


「こんな戦い早く終わらせてまたみんなで冒険したいな」

「そうですね」


今度はジラか。

感傷に浸ってて気が付かなかったな。

「クロは?」

「クロちゃんはさっき寝ました。流石に疲れたんだと思います」

「ああ、頑張ってくれたからな」

「ユウ様、これからどうしますか?」

「そうだな。ユイ達が心配だし、一度合流しよう」

「分かりました。では私も先に失礼しますね」

「お休みジラ」


さて、俺ももう寝るかな。


「はい、お休みなさい」

「そういえば精霊って寝るのか?」

「寝ますよ。私の場合は宿主であるユウさんの中で寝てます」

「そうなのか」


俺の中で寝るって、何だか卑猥に聞こえるのは俺の心が汚れているせいなのだろうか・・。


翌朝になる。


皆で朝食を食べた後に今後の予定を話していると、クロが嬉しそうに尻尾を振っていた。


「ユイに会える」


そういえばクロとジラが魔界から戻って来てから一度もユイ達と会ってなかったな。


「そうと決まれば居場所を探してみるよ」


その時、範囲探索エリアサーチに妙な反応を2つ見つける。


この反応は、俺を探している?

だけど、敵対反応じゃないな。

心当たりはないが、会うだけ会ってみるか。


「ユウ様?」

「ああ、ごめん。移動する前にちょっと寄り道していいか?」

「お土産?」


クロが何だか物欲しそうな顔をしていた。

見た目は成長したように見えるけど、こうした仕草はまだまだ幼いんだよな。


「ユイにお土産買うか?」

「うん!」


と言ってもここは観光地じゃないから、お土産とかないんだよな。


取り敢えずその2人の元に行ってみるか。


この曲がり角を曲がった先だな。

確か、ユミルの砂の中央広場だったはずだ。

その中央に噴水があり、一番人が集まる場所でもある。


遠目で観察するに、あのベンチで腰掛けてる2人組か。


あまり勝手に情報を見るのは気が引けるんだけど仕方がない。



名前:カーミラ・クゥドル

レベル65

種族:人族

職種:魔術師

スキル:闇撃ダークボルトLv3、闇嵐ダークストームLv4、闇霧ダークミストLv3、黒炎ダークインフェルノLv3、闇討ちLv3、闇分身ダークネスアバターLv2、治癒ヒールLv2、擬態、念話、念写、闇夜の誘い、深淵の眼

称号:深淵の魔女、亡国の第ニ王女


名前:クロムウェル・ヴィルドー

レベル:70

種族:人族

職種:魔術師

スキル:火撃ファイアーボルトLv4、火壁ファイアーウォールLv3、火嵐ファイアーストームLv3、散弾炎射Lv2、炎矢フレイムアローLv3、状態回復リフレッシュ、見切りLv3、転移、飛翔Lv2、封印Lv2、結界Lv2、念話、時間停止クローズクロック

称号:時の魔女


おいおい、2人とも魔女だって?

滅多に人前に出てこない魔女が一体俺に何の用なんだ?


「はぁ、はぁ、もう疲れて一歩も動けないよ。カミーラ、本当にこの街にいるの?」

「それは確か」

息を切らしているクロムに対して、全く疲れた素振りを見せないカーミラ。

2人は3時間に亘り目的の人物を探し回ったが、結局見つからず仕舞いだった。

魔女の格好も珍しいのか、道行く人に声を掛けられその対応に追われ精魂疲れ果てベンチに腰掛けている所だった。


「魔女、だよな?」


俺の呼び掛けに片方が勢いよく振り向く。


「だから何度も違うって言ってるでしょ!!」


物凄い形相でこちらを睨み返された。


あ、これ何となく俺も経験あるわ。

若干2人に同情しつつも、


「俺を探してたんじゃないのか?」

「え?」


クロムはカミーラに念写してもらった顔写真と目の前の人物とを見比べる。何往復も。


「え、嘘、本物?」


カミーラがゆっくりと振り向く。


「本物」


それだけ告げるとまた正面を向き、チャルをズズズと啜る。


「なんでカミーラはそんな落ち着いてるのよ!」

「今は休憩中」

「全く、それよりも、あんたがユウね」


俺の正体を知っていた事にジラとクロが警戒し、前に出る。


「2人とも大丈夫だから」


クロムが立ち上がり、ゆっくりとこちらに近付いてくる。

ジラとクロを横目に通り過ぎ、俺の眼前へと。


「私達と一緒について来て」

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