第277話: バーン帝国vs技巧のセルバ11
セイリュウ視点
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セイリュウの中の何かが変わる。
先程までシュリに対して苦戦していたセイリュウだったが、今ではまるで赤子を撫でるように行くとどなく起き上がってくるシュリをその度に地面へと這い蹲らせる。
それはセイリュウの優しさが、甘さが取り払われた影響だった。
一時的でも一緒に戦った仲間であるシュリを傷つけまいと彼女の身を案じ結果的にそれが本来の力を全く発揮出来なかった。
このまま無駄に時間を消費するだけでもシュリの命が削られていると知ったセイリュウは一切の迷いを捨てた。
「これで両手両足の腱を全て切った。いくら痛みを感じないと言っても起き上がってこれないよ」
「キミも中々にぶっ飛んでるね。まぁいいや、時間は十分に稼げたしね」
セルバはそう告げると、自身の眼前に一人の人物を召喚する。
その人物は金髪の髪をなびかせ、2本の立派な槍を構えていた。
「ドッペルゲンガーって知ってる?」
セルバの前に現れたのはまるでセイリュウと瓜二つの存在だった。
唯一違いがあるとすれば、その素顔だろうか。
一切の凹凸がないノッペラボウだったのだ。
セルバの発明した相手をコピーする写光核。
背格好、容姿だけでなく技、魔術までもコピーしてしまう。
しかしそれは一度写光核で写した物に限る。
「悪趣味に付き合っている暇はない」
《バニシングレイ》
一瞬で目の前まで移動したかと思えば、まるで超重量の武器を薙ぎ払ったかのように重厚で鈍い音を立てながらドッペルゲンガーの周囲を真っ二つに……する事は叶わなかった。
セイリュウの攻撃はドッペルゲンガーもといドッペルによって軽々と片方の槍で防がれ、もう1本の槍で突きを放つ。
まるで磁力に引かれるように向かってくる槍に吸い込まれそうになるも、何とかもう片方の槍で否し、後方へと飛び退く。
今の技は、私のグラビティランスか・・・見た目だけでなく技までコピーされてると言うのか?
だとしたら非常に厄介だな。
ないとは思いたいが、
セイリュウの半径20m以内に二人以上近付くと術者の速度、防御力、攻撃力が倍になるという恐ろしい
絶大な効果のスキルは相応の代償がある。
しかし、人形のコイツにはそんな代償は関係ないだろう。
今回は相手が一人ずつだからな、効果は発揮しないだろうが。間違ってもこいつを解き放ったら手が付けられないだろう。
《
無数の槍がドッペルとセルバを襲う。
!?
ぐっ…身体が動かない…。
まさか…呪縛か?
呪縛前に発動した1000にも及ぶ降り注ぐ槍が止み、巻き起こった土煙が次第に晴れていく。
食い入る様にその先へと視線を送る。
視界の先にいたのは、無傷のドッペルとセルバだった。
ありえない…あの数の槍を無防備のまま避ける事など不可能だ。
呪縛を使えば術者は一切動けなくなる。
だと言うのに…
「何故呪縛を使用したまま動ける…」
私の呪縛とは違うのか?
ドッペルはゆっくりとセイリュウの元へと歩み寄る。
無慈悲にもセイリュウの首目掛けて槍が薙ぎ払われた。
「舐めるなぁぁぁ!!」
呪縛により動けないはずのセイリュウもまたドッペルに槍を突き立てる。
《グラビティランス》
ドッペルは、あっけなくそのノッペラボウの顔を貫いた。
攻めるなら、今だ!
《
108もの神速の突きがドッペルを襲う。
それをまともに喰らったドッペルは全身が穴だらけになっていた。しかし、後ろに仰け反りつつも倒れはしなかった。血を吐き先に地面に片膝をついたのはセイリュウの方だった。
「がはっ…くっ……」
何故、ダメージを負っている…
一撃足りとも浴びた覚えはない。
反射…か?
いや、それにしてはダメージがこの程度で済んでいる理由が分からない。
見上げると既に完全回復したドッペルの双槍が淡く光りだす。
《
!?
この距離じゃ躱せない!
《金剛》
セイリュウは自身の身体を鋼以上の硬度にし、絶対防御の構えを取った。
急所である心の臓と頭部だけをその手で守る。
しかし、それでも大ダメージは免れない。
次第に傷を増やしていき、少なくない量の血が流れた。
セイリュウはチャンスを伺っていた。
その手を犠牲にし、驚くべき動体視力で槍を両手で掴み上げると、金剛を解除し無防備なドッペルに
顔を吹き飛ばされ、両手をダランとその場に立ちすくむドッペルの両腕を双槍毎切断する。
そのまま間髪入れずにセルバの元へと転移した。
「僕も殺すのかい?」
なんだコイツは…
絶体絶命のピンチだと言うのに、何を笑ってるんだ…
まさか、罠か?
いや、どのみち他に手はない!迷うな!
《
天と地両方に魔法陣が出現する。
禍々しい紫の光を発しながら、セルバを包み込む。
絶対死を約束した死の魔術。
7大魔王の死神ラドルーチを打ち倒した魔術でもあった。
光が消えた時、その場にセルバの姿はなかった。
「な、何故…消えていない…」
セイリュウは背後からドッペルの槍に貫かれていた。
それと同時にドッペルも霧散し、掻き消えた。
セルバが消え、僅かばかりの差でドッペルが消える。
その差を狙われ、セイリュウは討たれてしまった。
セイリュウは口から大量の血反吐を吐き、その場に倒れ込む。
致命傷だった。
ははっ、指一本動かせないな…
だが、脅威は去った…
これでいいんだろ…魔王…
視界には真っ暗な闇だけが写っていた。
目を開けているのか閉じているのかさえも分からない。
そんな折、口の中に何かが注がれる。
最初はそれが自身の血だと錯覚した。
しかし、次第に身体の痛みが消えて行くのを実感する。
「まだ死んじゃだめ」
シュリだった。
龍人族の自己治癒能力の甲斐もあり、這い蹲り動ける程に回復したシュリはセイリュウのポーチから回復の瓶を掴み上げると自身がしてもらったように自らの口に含み、セイリュウの口へと流し込んだ。
「シュリ殿…ありがとう。命の恩人だな」
「おあいこ。あいつは?」
辺りの気配を探るが、何の反応も感じられない。
「手応えはあったんだ。これで終わってくれていたら嬉しいんだがな」
セルバの気配は消え去る。
「魔女達が心配」
「そうだな。動けるか?」
セイリュウの肩を借りてシュリを立ち上がらせる。
回復の秘薬はもうない。
自力では歩けないシュリを抱え、魔女達がと別れた場所へ転移した。
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