第276話: バーン帝国vs技巧のセルバ10

セイリュウ視点

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「やっと戻って来たのかい」


そこにいたのは、少年の風貌をした魔導兵と可愛らしい熊のぬいぐるみだった。


後者は言うまでもなく魔女シャルワースによって造られた無敵のドールだ。


明らかに場違いだな…

子供とぬいぐるみならばあながち…いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。


「どうやらコイツをこの場に足止めするのが目的だったみたいだけど。性懲りも無くまた戻って来たって事は今度は勝ち目があるって事かな?それと一人足らないようだけど?」


この声は異世界の魔王か。

姿は見えない。あの魔導兵を通して会話しているらしわね。

恐らく視界も共有しているのだろう。


「さあな。やってみなければ分からないだろう?」

「私達二人で十分」


シュリが槍を構える。

それを見たセイリュウもまた双槍を構えた。


先程は物理も魔術も反射させられてしまったけど、魔女達の話では反射の心配はないと言う。

でまかせを言っているとは思わないが、同族以外の誰かに命を預けると言うのも何だか不思議な感覚ね。


隣にいた龍人族の少女が消えた。

いや、目にも留まらぬスピードで神速の突きを放っていた。

軌跡が光の線となりて綺麗な直線を描く。


未だ反射の術式と思われる足元の魔法陣は出現していない。


予め、龍人族の少女と何パターンかの連携を打ち合わせしていた。


まず初手は、全力で行く・・・・


転移で背後に回り、反対方向から突きを放つ。

互いの突きは交差する事なく、綺麗に並んで描かれる。


意外にも魔導兵はあっけなく両者の突きに貫かれ、下半身と上半身とが斬り離され地面へと転がる。


!?


何かの危険を察知し、側にいた龍人族の少女を小脇に抱え転移でその場を離脱する。


転移と同時に辺り一帯が爆ぜた。


凄まじい爆音と爆風が周りの全てを消し去る。

これを察知出来たのはセイリュウの闘いの勘のなせる業だった。


「自爆か…姑息な真似を…」


しかし、威力の割には巻き込まれた範囲は狭い。

精々10m程度だった。


「この程度だったか、見立てではもっと吹き飛ばされると思ったんだけどな」


実はこれは裏方で援護していた魔女達のお陰だった。

広範囲に広がらないように全方位から圧力を掛けていたのだ。

これがなければ、数100mは消し飛んでいただろう。


「ありがとう、助かった」

「気にするな。少しばかり鼻が効くだけさ…えっと…」

「シュリ。龍人族のシュリ」

「すまないシュリ殿。さて、油断せずに行きましょう。奴の異質な気配はまだ消えてはいないのだから」


しかし、何処だろうか。

気配は感じるが、姿は見えない。


(上よ)


セイリュウの脳内に直接声が届く。

念話か?


魔女達の仕業か。

どうやらシュリ殿にも同様の声が聞こえたようだ。上を見上げている。


上…あぁ、あれか。

小さな虫のような生物がまるでこちらを観察するかのように飛来している。


《風神刃》


セイリュウは跳び上がると槍をまるで剣でも振るうかのように振り上げ振り下ろす。


まさに一刀両断。


…辺り一帯から異質な気配が消え去る。


「ん、終わったの?」


それはフラグよシュリ殿。


それとは別に邪悪な気配が現れる。


「はぁ、まさかそんなに簡単に倒されちゃうとはね」


今までのように声だけではなく、その姿もハッキリと視認出来る。


「セルバか。ようやく姿を現したか」

「この姿を晒す事はもうないと思っていたんだけどね。それより一体どんな魔法を使ったのさ?あの子には魔法や物理攻撃は全て術者に跳ね返るようになってたんだけどさ。キミ達はピンピンしてるよね。それに不動の邪眼も効いてなかったみたいだしさ。どれも僕の叡智の結晶だよ?」

「貴方に教えてやる通りはない。ここで仕留める」


こいつに時間は与えない。

まだどんな奥の手を持っているか分からない。

すぐに倒さなければ今度こそやられるのはこちらの方なのだから。


《呪縛陣》


セイリュウの相手を拘束する魔術。

しかし、術者である私も動く事ができないという欠点がある。


だが、これでもう何処にも逃さない!


「シュリ殿!」

「ん!」


セイリュウの合図でシュリが飛び出す。

先程の神速の突きを今度はセルバ本人にお見舞いする。

魔導兵のようにアッサリと貫けは…しなかった。


槍がセルバに当たる寸前に何やらガラスが砕け散るような音が数回鳴った後、シュリの動きが突然止まってしまった。


「シュリ殿…?」


力なく、両手をダランと下に下げ、槍を地面へと落とす。

目は何処か虚ろで今にも倒れてしまいそうだった。


「あはははー」


気でも狂ったのか今度はセルバが笑い出す。


「なるほどね、そうだったのか。でもまぁこれでもう邪魔は入らないよ」

「どう言う意味だ!」

「通りで僕の用意した術式が発動しない訳だね。あの子も簡単にやられちゃうしさ。ああ、ごめんね。説明してあげるよ。数にして大凡15。無粋にも遠方で妨害していた鬱陶しい鼠をね、今しがた跡形もなく排除したんだ」


鬱陶しい鼠だと?

まさか、援護支援してくれていた魔女達の事か?

何故バレた?


セイリュウが思考を巡らせていると、すぐ目の前に槍が迫っていた。


身体を仰け反る事で、何とかその槍を躱すと今度は小さな拳が迫っていた。


右手でそれを掴むと相手の正体に顔を強張らせる。


「シュリ殿!?」


虚ろの目のまま、明らかな敵意を向け、セイリュウを襲っていたのはシュリだった。


シュリは身体をくねらせ、腹蹴りを喰らわせるとセイリュウの拘束から離脱した。

そのまま先程投げた槍を拾い上げる。


「貴様!シュリ殿に何をした!」


シュリの隣に宙に退避していたセルバが降り立つ。

その頭をポンポンと叩く。


「そんなに怖い顔しないでよ。なーに、この亜人の頭を少しばかり改造・・したんだよ」


改造だと?


一体いつのまにそんな事をしたのか…

だが、どちらにしてもやる事は変わらない。

無視して本体を仕留めるだけだ!


再びセイリュウが表情を強張らせた。


二人の槍使いの攻防が始まった。


セイリュウは少しばかり奢っていた。

魔族の中でも最強の槍使いである自分が他者で、ましてや槍使いに遅れを取るなどとは微塵も思ってもいなかった。


軽くいなすつもりが、超高速の連続突きに耐えきれずに後ろに躱す。


頬を生暖かいものが滴り落ちる。


やるじゃないか、まさか血を流す事になるとはね。


セイリュウの誤算だったのは、相手を殺せない闘いに慣れていなかった事だろう。

中途半端にシュリは強く手は抜けない。しかし、致命的な攻撃は命を奪ってしまうと躊躇してしまった事で本来の自分の動きが出来なかった。

だが、一番の要因は…


「ちなみにだけど、僕に操られている状態の時は肉体能力を常に100%発揮してもらってるよ。手強いだろう?」


肉体能力100%だって?

そんな事をすればシュリ殿の身体が持つはずがない!


「生物は皆肉体を酷使させまいと知らず知らずの内にセーブしてしまうもの何だよ。100%の力を発揮すればすぐに死んじゃうからね。僕はそれを解放と呼んでるんだけど、僕はそんな身勝手なストッパーを取り除いてやる方法を思いついてね」


ヤバい!すぐにシュリ殿の意識を奪う!


何処か吹っ切れたのか、セイリュウはそれまでとは段違いのスピードでシュリを翻弄し、その意識を刈り取った。

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