第275話: バーン帝国vs技巧のセルバ9

「事情は分かったよ。それに帝国の滅亡を救ってくれた事に感謝するよ」


ランデルがエスナに頭を下げる。

ランデルを知る人物らが見れば目を疑う光景だろう。

高飛車な彼女が人に対して頭を下げる事など、本来ならば有り得ない事なのだから。


「儂は何もしとらんよ。感謝ならクロムに言ってやってくれ」


ノイズがエスナの袖を引っ張る。


「お姉様!作戦開始まで時間がないですよ!」


シルフィード達魔女を含めたセルバ討伐作戦の事だった。


「私達もついていけばいい?」


龍人族のシュリと魔族のセイリュウが顔を見合わせる。


「二人には是非手伝って欲しい。と言うより二人が今回の作戦の鍵になるんじゃ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここはバーン帝国王城、花紋の間。


詰め込めば100人は軽く入れる程の広さを有した軍事の際作戦本部などで使用している部屋だった。


ここで魔女達と合流する。


「遅いぞエスナ」

「すまんなシルフィ。状況説明にちと時間が掛かっての」


魔女達が一堂に会し、席に座っている姿は滑稽と言えるだろう。

中には相変わらず宙に浮いた水晶の上に跨る魔女の姿もあった。


この場に集いしは、魔女総勢19名、龍人族1名、魔族1名。


「これより異界の魔王討伐を開始する。魔女達には既に作戦は伝えてあるので不要だろう。バックアップ、支援、援護、周りの敵の排除等々は我々魔女に任せてもらおう。二人には直接奴と対峙してもらう」


二人は顔を見合わせる。


「質問。何故私達?」

「ああ、そうだな。何故我々なのだ?」


これだけ戦力が揃っているにも関わらずシュリとセイリュウだけに戦わせる意味が二人には分からなかった。


それは事前にシルフィードは鑑定アナライズ系の最上位スキル。神眼を持つ魔女エクレアにセルバの創り出した化け物の解析を頼んでいた。


「私達の調べでな。あいつには一切の魔術が効かない事が判明してな。つまりはは物理攻撃の術を持たない私達では攻撃以外の選択肢しかなくてな」


魔女は魔術に特化しており、反面武器を振るうのは苦手だった。

今回のような魔術が効かない格上が相手では、防戦一択しか手段はない。


「ふむ。ならば戦いのみに専念出来る環境を作ってくれると言うわけか」

「本体だけに集中出来る?」

「うむ。そう言う事だ。けして他者に邪魔はさせないよ。それに初見殺しの石化紛いも既に対策は考えているよ」

「見てたの?」

「うむ。悪く思うなよ。遠目から観察させて貰っていたよ。全ては次回決戦に繋げる為にな」

「あの場に監視がいたとは気付かなかった。人族にも手練れ達は多いのだな。停戦協定の間柄で本当に良かったと思ってるよ」

「謙遜しなさるなセイリュウ殿。貴殿の事も多少なりとは調べさせて貰ったよ。魔族でも最強と言われている元老院の中でもまた最強だとね。敵に回したくないのは寧ろこちらの方さ」


ランデルとシュリが一瞬目を大きく見開く。


強いとは思っていたがまさかそれ程までとは思っていなかったのだろう。

魔族は強い。

そんな事は子供でも知っている事だった。

そんな魔族でも頂点に君臨する元老院のトップともなれば、実質魔王の次点と言う事になる。


「よして欲しい。買い被りすぎさ。私より強い魔族は何人か存在するしね。現に先程も敗北しかけたしね」

「うむ。次にリベンジすればいい。最高の舞台を用意するよ」


シルフィードが指を鳴らすと、壁越しに巨大な映像が映し出された。

画面の中央には先程戦っていた魔導兵が佇んでいた。

何かと戦っている様子だが、奇妙な事に攻撃が全く相手に通用していなかった。


「奴を足止めする為に人形兵マジカルドールと相手して貰ってるよ」

「先程から、あいつの攻撃が全く当たっていない様子だが?」


魔導兵から繰り出される斬撃や魔術の類が効いていないのか、正面から受けても全くの無傷だったのだ。


「あれはねー。所謂実体を持たない人形なんだよー」


説明するのは、人形の魔女パペットマスターのシャルワース。

他の魔女達とは少し異質な能力を持った魔女シャルワース。

人形は全て自作で人形生成ドールクリエイトによって創り出されている。


「ボクの可愛いドールちゃん3号だよ。どんな魔術でも勿論物理も全てが無効なんだよ」


無敵である反面、最弱とも言える性能だった。


「欠点はあるけどね」


シャルワース曰く、ドールちゃん3号はどんな攻撃でも無効化出来るが、攻撃手段は何一つ持たない。本当の意味での人形だった。

破壊不可の性能を持ったただの動く人形。

偶然の産物で誕生いたらしいが、こと戦闘においての使い道は非常に限られて来る。

しかし、今このタイミングで時間を稼ぐ事が出来る唯一の存在だった。


そう、奴を逃さない為の布石の一つ・・・だった。


「傷は完全に癒しておいたわ。すぐに戦える?」


この日3度目のシュリとセイリュウは顔を見合わせる。


「無論だ」「いける」


魔女達から、ありったけの補助魔術を施されると、決戦場から少し離れた雑木林へと転移する。


「これくらい離れてれば大丈夫だろう。私達はここからサポートに徹するよ。人数が少なければそれだけ油断も誘いやすいしな」

「本当に二人だけで大丈夫なのか?」

「ランデル。前線に出て魔術が効かない相手に我々に何が出来る?足手纏いだよ。それに何か勘違いしていないか?」


全員がシルフィの声に耳を傾ける。


「二人が勝てるかどうかは私達に掛かってると言うことを忘れるんじゃないぞ。私達は二人が戦いのみに専念出来るように全力でサポートに徹するんだ」

「私がんばる。どこの異界の魔王だか知りませんが、この世界を征服しようなどとはおこがましい。必ずや倒しましょう」


ユウの知り合いでもある最年少の氷の魔女シルだった。


「そうだな。頼むぜ。簡単には根を上げてくれるなよ?」


ランデルがセイリュウとシュリに喝を入れる。


「ああ、滅してやるさ。頼むよ相棒」

「頑張る」


セイリュウとシュリが堅い握手を交わす。

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