第272話: バーン帝国vs技巧のセルバ6

「今、一体何が起きたんだ?」


側で見ていたランデルでさえ、セイリュウの動きの一端すら垣間見ることは出来なかった。

それはまるで速すぎて止まっているかのような錯覚だろうか。


「次の敵はどこにいる?」

「ははっ、魔族の頂点ともなると規格外だな。取り敢えず、皆の元に戻ろうか」


二人はバルトスらの元へと合流する。


「流石はセイリュウ殿だな。あれだけ我らが苦戦した相手をいとも簡単に倒してしまうとは」

「簡単ではないさ。お膳立てがあったからに過ぎない。攻撃の最中、デカブツの内部でコアを貫いた感触が確かにあった。あの場所でなければ、恐らく攻撃は通用しなかっただろう…!?」


突然セイリュウが殺気を放つ。

遅れて他の者が武器を構えた。


「まさか倒されるとは思わなかったよ」


セルバが再び戻って来たのだ。


「まぁ、わざわざ準備して来た甲斐があるってものだけどね」


その時だった。

セルバの後ろ側に当たる草葉の陰から素早く動く影が一つ。


龍人族のシュリだ。


まさに隠れて隙を狙った一撃のはずだった。槍が触れたと思った次の瞬間、セルバ自身をすり抜けてしまった。


右足で踏ん張り、それを軸として横薙ぎの払いに切り替えるが、それすらもセルバの実態を捉えることは叶わなかった。


次の瞬間、ポッカリと腹部に大穴を開けられ、シュリが後方へと飛ばされた。

当の本人でさえ、何をされたのか全く分からず、そのまま、岩肌に激突する間際にセイリュウにより、受け止められた。


「ゲホッ、ゲホッ、グゥゥ、ガハッァ、、」


大量の血反吐を吐き、苦しそうに言葉にならない声を発する。

目は虚で、呼吸が早い。


皆の顔が強張る。

誰が見ても、シュリの受けた傷は致命傷だったからだ。

もう助からないと。


「龍人の戦士か。腕は悪くない。それに、良い槍だな。すまんが、まだ死なせるわけにはいかない」


セイリュウは後ろ手から小瓶を取り出すと、それを器用に親指で割って自らの口に放り込んだ。

そして、今度はシュリに口移しで飲ませる。


HP回復ポーションとはまた違った魔界にのみ存在する秘薬。

間違いなく希少品に分類されるものだが、セイリュウは惜しげもなくそれを使い、結果瀕死に陥っていたシュリを救った。


目を見開き、驚きを露わにしていたシュリ自身が、感謝の言葉を漏らす。


「ありがとう。助かったです」

「今は一人でも優秀な戦士が欲しい。それに貴殿はユウ殿の知り合いなのだろう?」


シュリはまたしても目を見開く。

ユウの名前が出た事もそうだが、何故見知らぬ目の前の人物がその事を知っているのかと。


セイリュウは鑑定アナライズを使用してある場所に目が行った。


''異世界勇者ユウの仲間''


本来ステータス欄にそのような表示はない。

ステータス欄はその世界の神によってのみ改変する事ができ、シュリの場合は、とある神の気まぐれによって備考欄に表情されていた。


「ユウ知ってる。一緒に冒険した」

「うむ。私は会ったことはないが、知人がね、凄く信頼を置いている人物なんだ。この戦いが終わったら紹介してくれるかな」

「分かった。約束」

「さて、一緒にあいつを倒そうじゃないか」

「うん、もう油断しない」


セイリュウは身体強化一式を自身とシュリに施す。


「まぁ待ってよ。僕自身戦闘はあまり得意じゃないんだ。さっきのは事前に仕掛けて置いたトラップが発動したに過ぎない。一回こっきりのね。だからキミたちには別な者と闘ってもらうよ」


会話を遮るように今度はセイリュウが神速の突きをセルバにお見舞いする。


しかし、今度はセルバ自身が掻き消えてしまった。

入れ替わるように別なる人物がそこに立ち、セイリュウの槍を容易く掴んでいた。

外見は子供なのだが、後ろから金属の蜘蛛足のようなものが無数に蠢いていた。


セイリュウはすぐに距離を置き鑑定アナライズを行使するが、鑑定不可との結果に目を細める。


誰にも聞こえない程度の声でボソリと呟いた。


「はぁ…神または神に近しいあるいはこの世界の断りから外れた者に対しては鑑定アナライズの効果は発揮されないんだったな。どちらにしても厄介な相手に変わりない」


姿は見えないが何処からともなくセルバが語る。


「僕の作った最高傑作だよ。キミたちが何人束になろうが傷一つつける事すら叶わないと思うけど。まぁ、精々足掻いて見てくれ。僕は高みの見物をしてるからさ」


ランデルが周りに紫電を帯電させ、シュリが槍先に魔力を集約させ、

メアトリーゼの周囲に無数の小さな水の玉が出現し、セイリュウが槍を地面に突き刺し右手を掲げる。


ランデルの《雷嵐・改サンダーストーム・ネオ

シュリの《一閃突貫》

メアトリーゼの《サウザンドアクアバレット》

セイリュウの《魔球まだん


「「お前に用はない」」


4人の攻撃が謎の少年に着弾し、眩いばかりの光が辺り一帯を覆い隠す。


全反射魔法陣ターニングサークル


次の瞬間、4人は自らの放った攻撃を受け、ランデル以外その場に倒れ込んだ。


「な、何が起こった?」


雷属性には絶対耐性のあるランデルは自らの攻撃が反射されても何らダメージを受ける事はなかった。


「どうやら、反射されてしまったようだな…」


セイリュウが起き上がると、再び双槍を握り締め構える。


「ただ反射されただけじゃない……何倍・・・にも増幅されて反射してる」


シュリが槍を支えに立ち上がる。


メアトリーゼは、気を失っているのかピクリとも動かない。


「バルトス隊長。彼等と一緒にリーゼを安全な場所にお願い」


完全に萎縮してしまっていたバルトス隊長を含めた騎士団員達は、この場にいても足手まといにしかならないと、ランデルは判断した。

それをバルトスも理解していた。

自分の無力さを痛感していた。


「すまんな。死ぬなよ」

「誰に言ってるんだ?」

「ははっ、そうだな。セイリュウ殿もシュリ殿も、頼みます」


当初何万といた軍勢も今残っているのは僅か3人だけとなった。


「二人とも見えるか。あいつの足元にある魔法陣が」

「ええ、さっきから気にはなっていたのだが、もしかしてあれが反射の原因?」

「少し試す」


シュリは足元に落ちていた石を拾うと、そのまま少年目掛けて投げ放つ。


石が着弾した瞬間、僅かに魔法陣が淡い光を放ち、掻き消えたかと思えば次の瞬間、シュリの目の前に少年に向かい投げたはずの石が現れた。

シュリも来るのが分かっていたのか、そのまま石を右手で受け止めた。


「物理も魔術も反射する。どうやって倒す?」

「私はあまり頭を使うのは得意じゃない。何かいい手はあるか?ランデル殿」

「うーん…ってセイリュウ!前!避けてっ!!」


高速で迫り来る黒い球体をセイリュウはギリギリで躱した。


黒い球体はそのまま彼方えと消える。


少年は再び黒い玉を出現させたかと思えば、その大きさは先程の2倍。1m程だろうか。尚もどんどんと膨れ上がっていく。


「気を付けろ!さっきあの球が近くを通った際、僅かながら吸い込まれそうになった」

「吸い込まれる…って、ブラックホールね。知り合いの魔女にそれが得意な子がいるわ。正確には吸い込むのではなくて触れたものを強制的に消し去る厄介な魔術。死にたくなければ触れない方がいいわ」


今もどんどんと膨れ上がり、最終的に3m程のサイズで放たれた。


ゴーゴーと音を立て、周りの全てを呑み込んでいく。

先程とは違い、スピードはゆっくりと地面に落ちているあらゆる物を呑み込んでいく。


回避以外の選択肢はない。


左右へと躱すはずが、誰一人としてその場を動かなかった。


正確には動けないでいた。


「なっ!?身体が動かない!」

「ん、私も」

「転移も駄目なようだな」


そのまま3人は跡形もなくこの場から消えた。

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