第273話: バーン帝国vs技巧のセルバ7

誰もいなくなった戦地に少年が一人立っていた。


少年の前には地平の彼方まで続いているかのように大地を抉る一筋の線。

ブラックホールによって、文字通り直線に存在したもの全てを消し去っていた。


「やっぱり全く相手にもならなかったね。さて、次は何処を攻めるかな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ん、生きてる?」


ここはとある小さな小屋の中。


キョトンとした顔で辺りを見渡していたのは、先程まで少年と戦っていたシュリだった。


「どうやら助かったらしいな」


その隣には同じく一緒に戦っていたセイリュウとランデルの姿もあった。


「礼を言うべきか?」


ランデルの視線の先には、一人の少女の姿があった。


「ふんっ成り行きで助けただけなんだからね!お礼なんて不要よ!」


奥の方から少女がもう一人現れ、諭すかのように片割れの少女の頭をポンポンと二度叩き、口を開く。


「それにしても、また厄介な相手に狙われておるようじゃなラン」


ランデルは一瞬、驚いたそぶりを見せたが、すぐに表情を取り繕う。


「最近全く噂を聞かなかったからもしかしたらとは思っていたけど、まだ生きていたんだな」


小さな小屋を覆い尽くすように殺気が放たれる。

殺気だけで、ミシミシと小屋が悲鳴をあげる。


常人ならば気を失っていただろうが、あいにくこの場にいるのは常人とは程遠い存在のみ。


「ランデルっ!エスナお姉様への暴言は自らの死を意味すると知りなさい!」


殺気を放つのは、挑発された当人ではなく、もう一人の少女。


そう、この二人もランデル同様にこの世界の魔女と呼ばれる人物だった。


絶界の魔女のノイズにユウの師匠でもある樹海の魔女エスナ。


少年の攻撃により窮地に立たされていた3人を救っていたのだ。


「相変わらずじゃなお前も。ああ、リーゼも元気か?」

「ええ、今は気を失って寝てるけど命に別状はない。世間話をする為にここに呼んだわけじゃないんだろ?」

「うむ。そうじゃ…」


エスナが真剣な顔付きとなる。

場の空気が変わった事に他の物も気が付いた。


「審判が降りたのじゃ」


ランデルは表情を歪める。


「内容は?」


《魔女の審判》


審判とは即ち、魔女における絶対命令のようなもの。

抗うことの出来ない命令。

命令を出せるのは、この世界にたった一人。それは魔女の頂点に立つ存在。

魔女は彼女の事を起源の魔女と呼んでいた。

彼女達は魔女の力を授かる変わりに、起源の魔女と盟約を結ぶ。


それは・・・


「審判は何物よりも尊重され、最優先すべき事象。だったか?」

「うむ。そうじゃ。起源の魔女様が審判を下したんじゃ。結束し、異界の魔王を倒せとな」

「それは7大魔王の事?」


眠そうにしていたシュリが会話に入る。


エスナは初対面だが、シュリの事を知っていた。

それは時折ユウが樹海の小屋を訪れ近況報告を欠かさなかったからだ。

その話の中に出て来た龍人族の少女と容姿が酷似していた為だ。


シュリに微笑ましい笑顔を向けながらも淡々と語る。


「そうじゃ。この世界に点在している他の魔女達は既に行動を開始しておる。最も、審判を前に既に戦いを始めていた者もおるがな。儂らやお主らのようにな」


眠そうにうとうとしているシュリとは違い、セイリュウは隙なく気を引き締めていた。

少女の外見とは裏腹に内面から溢れ出る強さを肌身で察知していたからだ。


「戦力は多い方が助かる。自己紹介をしておこう。私はセイリュウ。魔族だ」

「儂は樹海の魔女。エスターナ・メルウェル。エスナで結構じゃ」

「妾は絶界の魔女。ノイズ・アルシェリーナ。エスナお姉様の妹よ」


エスナに妹はいないのだが、今更エスナは突っ込みは入れなかった。


「それで、どうやってあいつと戦うつもり?私達身動き一つ取れなかったんだけど」

「途中からしか見ておらんかったが、魔力反応がなかったから魔術の類ではないな。恐らく固有のスキルか能力じゃろう。あくまでも推測じゃが、奴の目が赤く光っておった。お主らはあの眼を見たんじゃないか?」


3人が顔を見合わせる。


「確かにそうかもしれないな」

「ならば作戦はこうじゃ」


エスナがコイコイと3人に手をこまねく。


何故、他者のいない小屋の中でヒソヒソ話さなければならないのか、3人は分からなかった。

ノイズに関しては、絶えずエスナにくっついている為、その距離が縮まる事はない。


「騒ぐんじゃないぞ……」


エスナがボソボソと語り出すと、ランデルは目の色を変えて、猛然と小屋の外へと出て行った。

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