第271話: バーン帝国vs技巧のセルバ5
それは一方的なまでの蹂躙。
大半が戦意すら、逃げる事すら忘れて呆然と立ち尽くしていた。
バーン帝国、龍人族連合の無残な犠牲者の亡骸が散らばっていた。
相手はたったの一体の魔導兵。
しかし、その相手は見上げる程のそれこそ山のような大きさで、上半身は雲に隠れて見えない程だった。
バルトスは頭を抱えていた。
「騎士団長!負傷者および戦意を喪失した者の全員退避を確認しました!」
「…ご苦労だった。それで残った者は何人いる?」
「この場にいる我々と龍人族の斥候数名が奴の動向を監視してくれています」
「たったのそれだけか…」
二人の勇者一行は、負傷してしまった為、既に戦線を離脱していた。
騎士団長バルトスは、力なく岩肌を叩く。
そんはバルトスの肩をニヤついた笑みを浮かべながら魔術隊隊長で雷の魔女ランデルが小突く。
「まあ、そんな落ち込むなバルトス殿。彼等は無駄死にじゃない。何十回、何百回、何千回の攻撃で奴の弱点と思しき場所を見つけたよ」
「おお!ランデル隊長よ。それは本当か?」
「ええ。だけど、残ったこの人数で押し切るだけの火力が出せるか不安な所だけどね」
そんな絶望な状況下にいる彼等の元を一人の人物が訪れた。
それは青色の長髪を風になびかせ、双槍を背中に携えた見目麗しい女性。
「邪魔するよ」
簡易に設けられたテントの中にいた彼等は全員が視線を奪われる。
見知らぬ人物が入って来たからと言う理由もあったが、何より彼女のその美貌に同性異性問わず目を奪われていた。
神々しいとは真反対と言える漆黒の鎧を身に纏い、手には、脇にヘルムを抱えていた。
背に抱えた2本の槍の違和感が、すぐに目を奪われていた彼等の気を引き締めさせる。
「誰だ!」
全員が武器を構え、警戒態勢をとった。
彼女は、敵ではないと。戦う意思はないとヘルムを置き、両手を天へと向ける。
「突然の訪問すまない。自己紹介させて欲しい。私はセイリュウ。魔族だ。魔王代理、メルシー様と人族のユウ殿の要請で、貴殿らに協力させて頂くべく馳せ参じた」
魔族であるのは、翼を見れば一目瞭然だった。
暫しの間、沈黙が続いたが、この部隊の指揮をしていたバルトスが口火を切る。
「私がこの部隊を指揮しているバルトスだ。部隊と言ってもこの有様だがね。だが、ご助力感謝する」
「セイリュウって、も、もしかして元老院のセイリュウ様ですか?」
魔族の情報に精通していた流水の魔女メアトリーゼは、僅かながら震えていた。
それは噂に聞くセイリュウの強さを知っているが故だった。
「元老院って、魔族の中でも最強と謳われる人物じゃないか。マジか?」
相手の正体を知って尚ランデルの態度は相変わらずだった。
「確かにそうだ。だが、私は元老院の中でも一番の新参者さ。あまり期待しないで頂きたいな」
「いやいや謙遜しなさんな。どちらにしても心強いぜ。宜しく頼むセイリュウ殿」
バルトスはセイリュウの肩を軽く2度ほど叩いた。
メアトリーゼの心情は尚も複雑だった。
(確か、セイリュウは元老院の中で最も強く、あの歴代最強魔王でもある現魔王と互角に渡り合ったと言われていたはず。味方ならば確かに心強いのだけど、実力を知っている分恐ろしい…。魔族と人族とは停戦協定を結んでいるとはいえ、一方的に反故にされる可能性だってある。過度な力…彼女の矛先が私達に向うものなら、外で我が物顔でのさばっている巨兵なんかよりも断然恐ろしいわ……はぁ…貴女は今何をしているの…エスナ…)
「あの外にいる巨大な奴が件の7大魔王なる輩なのか?」
「いえ、違うわ。あれはそいつが残した手土産よ。当の本人は何処かへ消えたわ」
「ふむ。私の任は残った7大魔王の討伐なのだが、他に手掛かりがない以上、まずはあのデカブツを殲滅するのが先決のようだな」
「ねえ、セイリュウ。ものは相談なのだけど。正確に一点だけを狙って攻撃出来るかしら?」
「どれくらいの精度かにもよるが、概ね可能だ」
「よし、ならば話は早いわ。早速取り掛かりましょう」
ランデルとセイリュウが簡易テントを出ようとする。
「おい!勝手に二人で話を進めるなよ。一応、この部隊の指揮は俺なんだぞ。俺や皆にも分かるように説明してくれ」
「しょうがないわねぇ、リーゼお願いね。私は外に出てセイリュウに直に説明するから」
ランデルはそそくさと簡易テントを後にする。
セイリュウは皆にお辞儀し、その後を追った。
残った皆の視線は話を振られたメアトリーゼへと向かう。
メアトリーゼは、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「あのデカブツの弱点と思しき場所に赤い楔を打ち込んでいます。どうやってそれを探ったのかは説明すると長いので省略しますが、カミューの能力とだけ言っておきます。で、その場所を狙えば恐らく倒せるのだけど、その他の場所を攻撃するとどうやら修復してしまう特性らしいの」
「なんだそりゃ、ぶっ壊れてんなその特性」
「だから、さっきランデル様は正確にその場所を狙えるかと言われていたのね」
魔術隊の若者が納得した顔で頷く。
「それで、その弱点は何処にあるんだ?」
メアトリーゼは自身の右胸のあたりを指差した。
「大体この辺りよ」
「ははっ、話は分かったが、それだと俺達騎士隊の出る幕はないな。そんな場所地上に居たんじゃ攻撃を浴びせるどころか肉眼で視認する事も出来んからな」
「ええ、だからランデルはセイリュウ様に任したのよ。魔族は自由に飛べるから」
簡易テントの中で説明が続いているなか、セイリュウとランデルは行動を開始していた。
ランデルは飛翔魔術を使用して、セイリュウと共に空へと舞う。
一頻り蹂躙を終えた以降、巨大魔導兵は何故だか、ピクリとも動かなくなっていた。
それが何を意味するかのは誰にも分からない。
一つだけ言えるのは、この好機を逃す手はないという事。
「あれよ」
ランデルが指差すその場所には、確かに赤く煌めく短剣が刺さっていた。
「あの場所を狙えばいいんだな」
セイリュウは、双槍を構える。
「ええ、弱点と言ってもこれだけの巨大なのだから、相当HPもあるはずよ」
「ならば本気で行くとしよう。少し離れていろ」
ランデルはセイリュウの背後へと回る。
セイリュウは「はぁぁぁ」と息を吐くと、槍に魔力を込め始めた。
《
まさに目にも留まらぬ速さで繰り出される突き。
以前、ラドルーチ戦でも使用した技は単一のものだった。
その時の突きの数は108。
しかし、今回はその108倍。自乗だった。
つまり、11664連撃。
技を発動させてから撃ち終わるまでに要した時間は凡そ25秒。
この場にはランデルしか居なかったが、セイリュウの動きが見えたものは、この地上においては誰もいないだろう。
セイリュウにより体内のコアを砕かれた魔導兵は、原型を保つことが出来ずに、崩れ去る。
その際、巨大化する前の元のサイズになっていた。
簡易テントを出た他の者が見た光景は、一筋の眩い閃光と消え去る魔導兵の姿だった。
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