第270話: バーン帝国vs技巧のセルバ4
つい先程まで確かにそこに存在していたバーン帝国。
シア大陸最大国家が一瞬にしてその姿を消した。
先程まで雄大に聳えていたその場所には名残と言わんばかりに大穴だけが空いており、それ以外の痕跡は微塵も残っていなかった。
その様を遥かな高みから眺めている存在がいた。
技巧のセルバ。
7大魔王のブレインを司る魔王だ。
「はっはっは。初めから魔導兵団は布石だったのさ」
バーン帝国はシア大陸一。いや、この世界でも最強の軍事国家だった。
対空防御の備えも完璧だった。
本来ならば国を覆う巨大な外壁の四方に聳え立つ四封の塔にそれぞれ対空防御結界を司る魔道士が控えている。
彼等がいる限り、余程の高出力でない限り、防げただろう。
しかし、今回は規模の桁が違いすぎた。
セルバが使用したのは、数ヶ月を費やし溜めた魔力砲だった。
魔力砲は、魔導兵団が使用したものと同種のもので、龍魔隊を壊滅させたエネルギーの凡そ1000倍にもなる。
それを帝国上空から放出したのだ。
そんな芸当を可能にしたのは、セルバ自身が考案し開発したエネルギーを蓄積する事が出来る宝具。デュパルタス。
セルバはこれをバーン帝国上空で開放したのだ。
開放され強要される事のなくなったエネルギーは、バーン帝国が誇る対空防御壁を易々貫通してしまった。
先程までバーン帝国のあった場所には面影はなく、巨大なクレーターだけが残されていた。
セルバは満足げな笑みを浮かべ地上へと降り立つ。
その隣には歪な形をした魔導兵が2体付き従うように並んでいた。
ユウの書いた手配書のおかげで帝国騎士団全員が7大魔王の顔を把握していた事もあり、件の人物が己が敵だとすぐに認識する事が出来た。
「貴様が、やったのか…」
騎士団達の怒りの矛先はまさに一点に集中していた。
同時に恐怖していた。
「他に誰かいるか?」
!?
一瞬の轟音と共にセルバの辺り一帯が凍りつく。
「よくもやってくれたな!」
「リーゼ、そのまま抑えててちょうだい」
雷の魔女ランデルが放ったのは、黒い球体だった。
黒いドーム型の球体は魔導兵諸共セルバを包み込む。
球体の表面にはバチバチと音を立てながら紫電が駆け回る。
「皆の仇よ!焼き炭になりな!!」
ランデルが指を鳴らすと、キリキリと甲高い音を立てながら黒い球体が膨張し、その体積を何倍にも膨れ上がった。
そのまますぐに収束して行き、やがて掻き消えた…そのはずだった。
「そんな…」
まるで何事もなかったかのようにセルバは悠然と元の位置に立っていた。無傷と言っても過言ではない。
そしてその手には虹色に輝くカプセルを持っていた。
「その魔力、お返しするよ」
先程と全く同じ黒い球体が今度は、メアトリーゼ達を呑み込む。
違いがあるとすれば、そのサイズだろうか。
精々数メートル程度だった黒球が20m近くまで膨れ上がっていた。
なす術なく球体に包まれてしまった帝国騎士、龍人族達は死を覚悟した。
《
まるで風船が弾けるかの如く、巨大な黒球が消し飛んだ。
雷の魔女ランデルだ。
「残念だけど、私に雷系の魔術は効かないわ。それに自分の技で死んでたまるもんですか!」
ランデルは、己が魔女の称号を持っている雷に対してのみ、その発動を強制解除する術を創生の魔女より譲り受けていた。
「リーゼ、どうやらあいつに魔術は通用しないみたいね」
「ええ、それどころか、吸収して跳ね返してきてる。何倍にも増幅させてね」
「ご明察。で、次はどうするんだい?」
セルバが宝具デュパルタスを持っている以上、魔術の類は全て吸収されてしまう。
「魔術で駄目なら物理で押すだけ」
シュリの放つ光速の突き。
セルバは身動き一つ取らず、誰もが直撃するものと思っていた。
しかし、それは隣にいた魔導兵にいとも簡単に受け止められてしまった。
「んぅ、邪魔」
《龍炎・陽炎演舞》
短い詠唱を唱え終えると、槍先が炎に包まれた。
そのまま、強引に掴まれていた手事焼き斬ると、続いて連撃をお見舞いする。
その様はまるで鼓舞するがの如く。ものの数秒で魔導兵をバラバラに斬り刻んでしまった。
「あらら、魔導兵長が倒されるとは、やるね」
直後、もう一体の魔導兵が繰り出すパンチをシュリは後方に避ける事で躱した。
「やるじゃねえか!俺達も嬢ちゃんに続けえ!」
団長のバルトスを先頭に帝国騎士と龍人族の混成部隊が突撃をかける。
「覚醒してもいいから、暫く全員を相手にしといてよ」
そう告げると、セルバは忽然と姿を消した。
残された魔導兵が赤く光り出す。
「何かするぞ!皆離れろっ!」
大地が揺れ、辺りの地盤が崩壊していく。
地割れが起こり、逃げ遅れた兵士達が地割れの中へと落ちていく。
下は地の底まで繋がっており、落ちれば最後、飛ぶ術を持たぬ者は這い上がってくる事は叶わない。
いつしか大量の魔導兵と死闘を繰り広げたガムル平原まで後退していた。
皆が空を見上げている。
その視線の先には雲にも届きそうな程の大きさの、まるで超巨大ロボット映画に出してもおかしくない存在がそこにいた。
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