第267話: バーン帝国vs技巧のセルバ1
ここはバーン帝国王城国王謁見の間の一つ。
現在各地の7大魔王の被害報告、情報整理の為、連日に渡り作戦会議が行われていた。
この世界ユークリッドにおいて最大国家のバーン帝国は、諸各国との戦いにおいてまさに負け無しの無敗を誇っていた。
その彼等が今、かつてない程に恐怖を感じ、また頭を悩ませていた。
悩みの種は言うまでもなく7大魔王の脅威だった。
彼等にとって幸いだったのは、ユウの助言により逸早く防衛体制の構築をはかる事が出来た事だろうか。
敵同士である諸各国とも停戦及び連携の書状が出され、受け入れられた。
それは、諸各国も帝国同様に7大魔王の脅威を認識していたからだ。
それもひとえにユウを始めユウの仲間たちが彼等の脅威を世界に浸透させ連携の礎を築いたからに他ならない。
そんな折、議会の扉が慌ただしく叩かれる。
「失礼します!国王陛下!至急お伝えせねばならない案件が御座います!」
「何事じゃ、騒がしい」
内側から扉を開けたのは、バーン帝国王女ムー・フラム。
中へと入って来たのは、斥候の報告役を任せている騎士だった。
「たった今、第三分隊斥候から連絡があり、敵兵力が真っ直ぐこちらに向かって進軍しているのを確認したとの事です!」
「ついに来たか。ん、待て、確か第三分隊と言うことは、この帝国領土内が担当だったはずじゃな」
「は!現在の敵の位置は凡そ24kmの地点。進軍スピードから換算するに約4時間後にはここバーン帝国が攻撃射程に入るものと思われます」
「何故そんなに接近するまで気が付かなかったのだ!」
声を荒げたのは、帝国騎士団隊長バルトスだ。
彼は平民出身ながらその強さを認められ、騎士団へと推薦された。入団後も数々の功績を挙げ、僅か30歳で歴代最年少で騎士団団長まで登り詰めた実力者だった。
「も、申し訳ありません。斥候の話によると、目の前にイキナリ現れたのだと…第三分隊は壊滅。伝書の魔導具により、情報だけが逸早く届けられた次第です」
「バルトス殿。このタイミング。恐らく7大魔王の手の者で間違いないじゃろう。異世界から来た輩じゃ。面妖な術を使っても何ら不思議ではあるまい」
「ぐっ、確かにな。こちらの常識は通用しないと言う事か」
突然の報告に場が騒然となっていた。
「皆、慌てるでない」
国王がそれを制する。
「バルトスよ。兵の準備は出来ておるな?」
「は!いつでも出兵出来るよう準備は万全に御座います!」
「うむ。この帝国本土をよもや戦場にする訳にもいくまい。何処か良い戦場はないか、グワン」
国王の側近であり、政治全般を任されているグワン氏が厳しい顔をする。
「進軍速度から判断するに、ここしかありますまい」
グワン氏がテーブルに広げられていた周辺地図を睨みつけ、一つの場所を指差した。
「ガムル平原か」
「はい。ここバーン帝国から目と鼻の先ですが、兵達が戦うには平地が必要不可欠。ここしか選択肢はないでしょう」
「うむ、そうじゃな。バルトスよ。すぐに兵に連絡し出陣するのじゃ」
「グワン、結界師に連絡し、来たるべき時にすぐに結果を展開出来るように待機するように」
「分かりました。伝えておきます」
敬礼し、慌しく議場を出て行く騎士団長と頭をボリボリ掻きながら「また忙しくなるな」とボソリと呟き退出したグワン氏。
バーン帝国騎士団の総戦力は20万。
今回はその半数以上である15万が出撃する事となった。
残りの5万は自陣の防衛にあたり、不意打ちや第三国の対応にあたる。
諸各国全てと停戦同盟を組めた訳ではなく、これを好機と見て攻めて来る可能性はない訳ではなかったからだ。
「僕達も共に行きましょう」
現在帝国には国お抱えの勇者が4人いる。
1人は放浪しており行方不明だが、自国を守る為に3人が集結していた。
それぞれが優秀なパーティを組み、皆が相応の実力を有していた。
勇者パーティの実力は、大凡騎士団の500兵に匹敵すると言われていた。
「冒険者たちには私から連絡を入れておきましょう。すぐにとは行かないが1時間以内には出陣出来るように準備します」
勇者代表のバイカセーンとバーン帝国冒険者ギルドマスター、カムイが退室する。
カムイ自身も現役を退く前は冒険者をしており、レベルも英雄級と呼ばれる60にまで達する猛者だった。
この場所にはムー王女と国王と側近兼護衛の4人が残った。
「妾もいくぞ」
「ならん。お前はここに残るんだ」
「これでも魔女の端くれ。賊如きには遅れは取らぬつもりじゃが?」
「お前の実力は分かっておる。だから、お前には別の用事を頼みたいのだ」
国王から任されたのは、諸各国への援軍要請だった。
「馬を走らせるよりも、お前なら空飛ぶマントでの移動の方が幾分か早いだろう。それに娘のお前は諸各国にも人気があるからな」
「はぁ、、まぁ、他の者だと言いくるめられ渋られ戻来るのが落ちじゃな。分かった」
「すまんな。同行者を一人つけよう。アラン、こっちへ来なさい」
国王の前にひざまづいたのは、まだ10代後半の青年騎士だった。
ムー王女の第一婚約者候補でもある。
王国騎士団に所属しており、その実力も分隊長を任せられる程だった。今では国王専属護衛の一人を任されている。
「お呼びでありましょうか陛下」
「うむ。お前に命令を下す。我が娘ムーの護衛じゃ」
「失礼ながら、姫様は私などよりもお強い方で」
「そうじゃ、必要ない。ユウならともかくアランでは足手纏いにしかならんぞ」
「人気がある故、それを利用し悪巧みを働く連中もおろう。いくら強くても多勢に無勢という事もある。護衛の件、頼むぞ」
「はっ!分かりました!姫様、宜しくお願い致します」
「はぁ、、分かったから、はよ行くぞ」
アランは国王に向かい再び仰々しく一礼すると、議場を後にした。
「この国の命運はお前たちに掛かっておる。頼んだぞ・・・」
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