第268話: バーン帝国vs技巧のセルバ2
バーン帝国vs7大魔王が一人技巧のセルバの闘いが幕を開けていた。
己が相手を見たとき、その得体の知れなさに帝国騎士団の大多数が慄き恐怖した。
「あ、あれは一体何だ・・・」
騎士たちが呟くのも無理はなく、バーン帝国騎士団彼等の前には、見たこともないもはや生物なのかすら怪しい鋼鉄の兵団がその存在感を十二分に鼓舞していた。
圧倒的な威圧感と身の丈が自らの倍以上もある存在感。
ゴーレムとも違う、その表面は怪しく煌びやかな異彩を放っていた。
技巧のセルバが創りし魔導兵団。
その硬度は第10硬度のオリハルコンに匹敵し、もはや普通の武具では到底太刀打ちする事は不可能な領域だった。
それを今まさに彼等は身を以て痛感していた。
騎士団の多くは剣技を得意とした者が多く、魔術が使える者は少なかった。
剣で斬りつけるが、簡単にポキリと折れてしまう。
魔導兵団のボディには、ある一定以下の硬度の武器を破壊してしまう効果が施されており、当然の事ながら彼等はそれを知る由も無い。
唯一ダメージを与えていたのは、勇者たちが振るう剣技だった。
二人の勇者は、帝国が誇る聖剣を手にしている。
勇者ギールは
だが、それでも強固なボディに僅かばかりの傷をつける程度だった。
魔導兵団達は、二つの命令を与えられている。
一つは真っ直ぐ進軍する事。もう一つは立ちはだかる邪魔者を排除する事。
単調な攻撃だからこそ不利な帝国騎士団達も何とか致命傷を負わずに、応戦出来ていた。
しかし、ダメージを殆ど与える事の出来ない彼等だけでは魔導兵団の進軍を止める事が出来ず、じわじわと押されていた。
そんな彼等を支えたのは、騎士団が誇る精鋭魔術師団。その師団長を務めているのは雷の魔女ランデル。
更にはムー王女の師匠でもある、流水の魔女の称号を持つメアトリーゼも加わっていた。
彼女はユウの師匠であるエスナとも顔見知りで、何度か死力を共に尽くし闘った間柄でもある。
流水の魔女メアトリーゼが魔導兵団に重力を伴った水を振り掛け、雷の魔女ランデルは、天から数多の雷を
呼び起こした。
物理耐性と一定の魔術耐性のある魔導兵団の唯一の弱点は、雷属性だった。
全ての魔導兵団は、製作者であるセルバからの命令を受けて動作していた。
命令は信号として伝達されているが、それを阻害するのが雷属性だった。
魔術師団の奮闘もあり、魔導兵器が1体、また1体とその動きを止めていた。
そんな戦況を遥かな高みから胡座をかき、眺めている人物がいた。
その者は、空を飛ぶ魔導兵に跨り、退屈そうに項垂れていた。
「だいたいの戦力は掴めたよ。全く以って予想外だね。まさか、こんなにも脆弱だなんて。これがこの世界最強国家の力なのかい?この程度なら僕一人でも征服してしまいそうだよ」
セルバは目の前に現れた透明な窓に何やら指で操作していく。
「さてと、これでもう魔導兵たちに魔術は効かないよ」
そんな違いを逸早く察知したのは、流水の魔女メアトリーゼだった。
「気を付けて!今までと違って魔術を諸共せずに突っ込んでくるわ!」
必殺のコンボだった、流水からの雷撃を以ってしても魔導兵団たちの足取りは止まる事はなかった。
怯むことさえしない。
ここに来て勇者ギールが動く。
「ミーチェ!ゴエール!俺に命を預けてくれるか?」
「ははっ、今更かよ?お前の盾は俺だろ」
「貴方達二人だけじゃ心配だからね。この私が特別に回復してあげよう」
「ありがとう。よし、行くぞ!」
三人が魔導兵団の元まで走る。
そのまま魔導兵団の中へと入り、四方八方からの攻撃を上手く躱しつつ、少し開けた場所へと抜けた。
まさに四面楚歌。
周りには今にも剣を振り降ろさんとしている魔導兵の姿があった。
ゴエールが絶対防御の構えを取り、全員のダメージを肩代わりする。
ミーチェは超過したダメージを即座に回復させていく。
《断罪せし
勇者ギールの
己が魔力の全てを引き換えに、凄まじい爆発を引き起こす。
故に、放つならば敵陣のど真ん中が最も効力を発する技だった。
爆発により発生した土煙で辺り一帯の視界が奪われる。
これにより最も近くにいた魔導兵数十体を再起不能にしたが、尚も魔導兵団は進軍の足を止める事はなかった。
ギールたちは、攻撃をいなしながら後退する。
他の勇者や魔女達も先頭に立ち、善戦するも奴等の進軍は止まらない。
この時点において、当初1000体いた魔導兵団の数は凡そ700体残っていた。
対する帝国軍は、死傷者重傷者戦線離脱者を含めるとその数を半数近くまで減らしていた。
「隊長!奴等の侵攻が止まりません!このままでは、帝国本土が奴等の視界に入ります!」
バルトスは己の無力さを痛感していた。
自分は強いなどと、自惚れも甚だしい。
もし、神が次の機会をお与え下さるならば、更なる鍛錬に励まねばな…
「くそ!何か、有効な手はないものか…」
そんな時だった。
一筋の閃光が帝国騎士団のすぐ横を通り抜け、魔導兵団へと突き刺さる。
まさに一瞬の出来事。
突然の出来事に誰一人反応出来ず、呆気に取られていた。
閃光の正体は、光色に輝く巨大な矢だった。
魔導兵団数十体を再起不能なまでに変形させ、役目を終えた光の矢はやがて光の粒子となり跡形もなく消え去った。
「な、何だ今のは!」
「新たな増援でしょうか?」
「いや、それよりもあの強固な敵兵をあそこまで変形させるとは・・・一体誰が・・・」
皆、魔女達に視線を送るが、本人達は首を振っていた。
念話による伝令が団長へと届く。
(バルトス団長!後方の崖の上に龍人族部隊の姿が見えます!)
(龍人族だと!?)
龍人族は他種族に一切干渉せずと言われていた。
ましてや、人族の救援などと誰が想像出来ようか。
「み、味方なのか?」
バルトスが警戒するのも無理はない。
7大魔王側に味方をする事はないにしても、人族側に手を貸してくれるとも思えなかったからだ。
それはバルトスだけではなく、他の者もまた槍を剣を構える。
翔竜に乗った一人の人物が崖の上から颯爽と飛び降り、騎士団の方へと駆けてくる。
「この隊のリーダーはどこ?」
本来龍人族は2足歩行の龍の姿をしているのが一般的だった。
しかし、彼等の前に現れたのは、人族に近い姿をした女の子だったのだ。
槍を手にしてはいたが、どうみてもこの場には場違いだろうと誰もが思う程の軽装で華奢な格好だった。
近いというのは、後ろに龍の尻尾を生やしていたからだ。
「私がバーン帝国騎士団長のバルトスだ。貴殿らは我らの味方なのか?」
目の前の少女は、槍を後ろ手に頭を下げる。
「龍人族連合代表のシュリ。総勢5000。魔王を打ち倒すべく人族側に加勢する」
その言葉に皆が驚愕する。
目の前の少女が代表者を名乗った事もそうだが、何より他種族に全く興味を持たないと言われていた龍人族が協力を申し出た事に驚きを隠せなかった。
「シュリ殿。協力感謝する。敵は強大だ。圧倒的な物理耐性に魔術も効かない。どう攻めるべきか…」
「ん、さっきの攻撃は効いた?うん、たぶん、相応の火力ならば通る?やってみる」
シュリが手を挙げると、突如として地響きが鳴り起こる。
後方から、翔龍に跨る龍人族の集団が現れた。
竜騎兵は横一直線に並び合図を待つ。
勢いをつけて手を降ろすと、それに合わせて一斉に戦火が舞った。
竜騎兵部隊200による火ブレスだった。
ゴーゴーと音を立てながら魔導兵団を焼き尽くす。
辺り一帯の体感温度がどんどん上昇していく。
帝国騎士団たちは、その様を横目に消費した体力、魔力を回復させ、連携して応戦する。
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