第258話: vsガスト2

俺はクロと共にサモナを追うべくスイを探していた。


サモナは指定把握で察知出来ない場所にいるようで、恐らく後をつけているスイを追う。


白の魔女は、俺の代わりにユイ達の救援に向かってくれた。

と言うのも、ユイ逹の方に7大魔王の魔の手がすぐ側まで迫っていたのだ。


悔いていた。

直接的な戦闘から遠ざける為に別行動を取らせていたってのに…俺は何してんだか…


頼むから無事でいてくれよ。


「ユイの事心配?」


怪訝そうな顔をしていた俺を案じて、クロが下から顔を覗かせる。


「いや、大丈夫だ。頼もしい助っ人が向かってくれたからな。こっちもやるべき事をやろう」


クロの頭をワシワシと撫でる。


「まずはジラと合流しよう」

「ん、分かった」


ユミルの砂宮までクロと一緒に転移する。


な、なんだこれは…


何体ものモンスターの残骸がユミルの入り口に転がっていた。

恐らく、サモナの奴が再びアリシアを奪還すべく町を襲ったのだろう。


「ジラ、大丈夫か?」


俺達の姿に気が付いたのか、ジラが颯爽と現れる。


「問題ありません。モンスターの群れが100体程押し寄せて来ましたが殲滅しました」

「100体って…流石だな。その中にサモナ、いや、7大魔王の姿はいなかったか?」

「いえ、モンスターとそれを指揮していた人物だけでしたね。あっちで拘束しています。話しますか?」

「ああ、頼む」


少し離れた場所の大木に括り付けられるようにそいつはいた。


「まさか・・・申し訳ありません。まだ武器を隠し持っていたとは」


その人物は、自らの喉を掻き切り自害していた。

やはり、サモナではないようだ。


「しょうがないさ。コイツはちなみに何か言ってなかったか?」

「ここを襲った目的はやはりあの領主の娘でしょう。それっぽい事を言っていましたので。後は、彼の方は欲しい物は必ず手に入れると。言っていました」


彼の方とは、サモナの事だろうな。


!?


範囲探索エリアサーチに高速で何かが近付いてくる反応を捉えた。


「クロ!ジラ!」


2人が臨戦態勢に入る。


そんな俺達の前に1匹のモンスターが降り立った。


「こ、こいつは…」


金色の鬣を靡かせているコイツの名はガスト。


「2人とも気を付けろ。コイツ滅茶苦茶強いぞ」

「大丈夫です。3人ならやれます」

「ん、本気出す」

「コイツには圧倒的なまでの魔術耐性がある。迎え撃つなら物理攻撃しかない。俺とジラは奴の動きを封じる。クロは物理火力で奴を倒してくれ」


2人が了承の頷きで返答する。


「もしそれでも倒し切れなければ、ジラ頼めるか?」


皆まで言わずとも俺の質問の意味を理解してくれたようだ。


「分かりました。その時は私がケリをつけます」


以前見せて貰ったジラの固有オリジナルスキル。全てを喰らう者ブラックホール

問答無用で相手を異空間へと呑み込む反則技だ。

ゴリ押しで駄目ならもうそれに賭けるしかない。

なりふり構わずすぐに使用しないのは、これを使うとジラのMPが強制0になり、意識を失ってしまうからだ。


超重力ネオグラビティ


「喰らいやがれ!最大出力の重力グラビティの10倍の重力だ」

「視界を奪います!」


黒煙毒スモークポイズン


ガストの周囲を真っ黒な黒煙が包み込む。

同時に黒煙は多量の毒素を含んでおり、常人ならば吸えば物の数秒で死に至る。

この毒は同族である魔族には効果を発揮しない。

心優しいジラの思いが形に現れている魔術でもあった。

故に魔族であるクロには効かない。


《疾風迅雷》


クロの固有オリジナルスキル。

疾風迅雷。

己の肉体に微弱な電気を流し肉体本来が発揮できるパワーを数倍に上昇させる。尚且つ、風を纏いその速さをも相乗効果として自身に追加する。


俺ですら軌跡程度にしか見えない速度でクロが敵を斬り刻む。

正確には黒煙で覆われている為、中の状況は窺い知れない。


黒煙の中で怪しく光るそれを見た途端に、凄まじいまでの倦怠感が襲い、危うく意識を失いかけた。

倒れそうになる脚をもう片方の脚で踏み止まる。


「ジラ!」


側にいたジラが地面に倒れ伏せていた。


精神干渉系の魔術か?

すぐにジラの状態を確認すると、状態表示の箇所が魔力欠乏となっていた。


あの光か。あの怪しげな紫色の光を見た途端に魔力を吸われたって事か!


すぐにジラに魔力回復ポーションを飲ませる。

俺自身も数本を一気に飲み干す。

凄まじい味だがそんな泣き言を言っている場合じゃない。


一度、魔力欠乏で意識を失うとたとえ回復させたとしてもすぐに意識が回復する事はない。


ジラが倒れた為、黒煙が次第に晴れていく。

先程まで聞こえていた攻撃音がいつの間にか聞こえなくなっていた。


クロはどうなった…?


ガストの姿が露わになる。

その体表は無数の傷に覆われていた。

致命傷には程遠いだろうが、それでも確実に少なくないダメージを与えていただろう。


奴の頭部の角に貫かれたユイが同時に眼に映る。


クロは既にピクリとも動く様子がなかった。


想定以上だ…まさか、3人掛でもこの様か…



くそっ!!



ジラは魔力は回復させたとは言え、魔力欠乏症のダメージは大きい。すぐには目を覚まさないだろう。

クロは、致命傷を負ってはいるが、まだ生きている。


冷静になれ!怒りに身を任せるなっ!

まだ2人とも死んじゃいない!

頭に登った血を降ろせ!


暴走しそうになる自分に言い聞かせる。


奴め、俺を嘲笑っているのか?

クロを突き刺した状態のまま、動こうとしない。


ジラを抱えてクロの元まで転移する。

そのままクロを掴みポータルリングで一番上に登録されていたエルフの村プラメルのエレナの寝室に転移した。

転移には僅かばかりのディレイが存在する為、連続で使う事が出来ない為の対応だ。


すぐにクロに治癒ヒールをして、そのままガストの待つ戦場へと一人舞い戻る。


ガストは、先程までと何ら変わらぬ状態でまるで俺がすぐに戻って来ると分かっていたように待ち構えていた。

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