第257話: vsガスト1

切り札的な存在がいともあっさり倒されてしまった事にサモナは信じられないと言った顔で口をあんぐり開けていた。


かく言う俺もまさか倒せるとは思っていなかった為、側から見たらなさけない表情をしていたかもしれない。


これまた貫いた箇所がたまたまガーディアンのコアだったらしく、力無くガーディアンは横たえてしまった。

どうやらコイツ、自己修復機能まで持っていたようだ。

コアを粉砕しない限り、自己修復機能で一瞬の内に回復されていたかもしれない。


「まさかガーディアンがいとも容易くやられるとは思わなかったよ。やはりキミは確実にここで始末しておかなければならないね」


続けて、サモナは一体のモンスターを召喚した。


体長3m程の四足獣だが、眼を見張るのは眩いばかりの金色の鬣だろう。

一瞬時が止まったと錯覚する程にその姿は神々しい。

そう、サモナの育ての親でもあるガストだ。


「グアァァァァァァァァァァ!」


その黄金に光り輝くモンスターは、けたたましい程の咆哮をあげた。


「ユウ。絶望を味わうがいい。これがガストの力だ」


!?


視界を僅かに横切った金色の閃光。


何が起きた?


痛みを感じなかっただと?

いや、そうじゃない。そんな事より、全く見えなかったぞ?

それに奴はその場から一歩も動いた素ぶりはなかった。

その口には俺の腕を咥えていた。

つまりは、俺の横を通り過ぎて再び今いる位置まで戻って来たってのか。


ありえない…


右腕が肩から下が無くなっていた。


すぐさま転移で遥か上空へと退避する。

不可解な攻撃を喰らった時は取り敢えず逃げるしかない。


腕はすぐに治癒ヒールで回復させる。


何が起こった?

俺が認識すら出来ない超高速で動いたのか?

いや、閃光が走った程度は見えたんだ。

逆に言えばそれだけしか見えなかった。

瞬身オーバーフルポテンシャル状態でそんな事は今までなかった。


ならば、また時間を止められたか?

それなら何故、腕ではなく頭を斬り落とさない?

それで詰んでいたはずだ。

どちらにしても何か対策を講じないと次こそ一瞬で死ぬ。


死の危険が迫ってはいたが、意外と頭は冷静だった。


その為、地上から認知出来ない程の速度で迫ってくる高出力のブレスも、再び転移で躱す事に成功した。

これだけ離れていても居場所はバレてるってか?


ガストの背後に転移し、そのまま重力グラビティを発動する。


流石の化け物も転移には反応出来なかったのか、躱す事なく術中にハマった。


しかし、あろう事か目の前のこいつは重力グラビティを諸共せずにそのまま3本の角を前面に押し出し、光速で突進する。

重力グラビティの影響下を受けて尚、この速度だとすれば、相当にヤバい。

納得だ。慢心状態ならば、躱せる訳がない。


体を捻り、ギリギリの所でそれを躱す。


炎獄世界フレイムベルワールド


俺の最高火力を喰らいやがれっ!


灼熱の炎のタワーが突き刺さり、ゴーゴーと音を発しながら触れた物全てを隅と化す……はずだった。



やっぱ、化け物か…。


未だ嘗てこれを喰らって無事だった者などいない。

あの魔王でさえ、凄まじい火耐性と超速再生を持ってして耐えうる事が出来たくらいだ。


しかしどうだろうか。

目の前のこいつは鬣を多少焦がした程度で平然としている。

魔術が効かないのではない。

魔術に対する耐性が高すぎるんだ。

仮に各種属性に対する耐性が100%でノーダメージとするならば、魔王は恐らく火属性に関しては80%くらいだろうか。

しかし、目の前のこいつは95%以上は堅い。

勝手な推測だけどな。

しかも火属性だけじゃない。

無属性に分類される重力グラビティでさえ、抗ってみせた。

もしかしたら、全ての属性に耐性がある可能性がある。

そうなれば、魔術でダメージを与えるのは難しい。

今の俺だと物理攻撃で戦う以外に方法はない。


確かめる必要がある。

威力を抑えている余裕はないな。

魔力をごっそり持っていかれ、尚且つこの辺りの地形が変わってしまうが、全力で行く。


全範囲雷撃ライトニングレイン


本来、広範囲に広がる雷撃ライトニングボルトを一点に集約する事により、通常の何百倍もの威力を実現させた全範囲エリア魔術。俺だけの固有オリジナル魔術だ。


僅か10秒足らずの間にガスト目掛けて落とされた雷の数は500を超える。


ちっ、やはり駄目か。なら次だ!


全範囲水撃アクアレイン


鋼をも貫通させる程の殺傷能力を秘めた水撃アクアボルトがガストを襲う。


!?


ぐっ、、がはっ…。


腹部に手を当てると、一瞬にしてその手が血に染まる。


な、何をされた……いや、魔術の合間に確かに見えた。

あいつが、頭を下に向けてその角からレーザーのようなものを撃ったんだ。


到底回避など出来る速度じゃない。

そんな次元じゃない。


見ると腹部に拳大程の穴が開いていた。

死ぬ程痛い。だけど、痛がってる余裕なんてない!


見るとガストは再び姿勢を低くしていた。

ヤバい!間に合え!!


迫り来るレーザーと展開した障壁とが激昂する。


障壁は自身の魔力が続く限りはほぼ絶対防御の効果を発揮する。

はぁ…はぁ…どうやら防げたみたいだな。


だけど、たったのレーザー1発で目に見えて魔力を持ってかれてしまった。


ガストはレーザーが効かないと見るや、今度は最初に見せた咆哮を俺目掛けて放った。


思わず目を閉じてしまいそうな程の高出力の光源が障壁にブチ当たる。


障壁に阻まれ飛散した光源の残滓が周りの景色を一変していく。

障壁は確かに機能している。

しかし…


ぐっ!このままだと…いずれ魔力が尽きる・・・・・


・・・・・・・・。


・・・・・・・・。


どれくらいの時間が経過したのだろうか?


気が付けば、瓦礫の山で埋もれていた。


さっきまでは…確か夕方だったよな。

星空が見えるって事は、かなり気を失っていたようだ。

身体の節々が痛む。それにこの倦怠感は、魔力切れか…

奴は…ガストはどこに行った?サモナは?


辺りを探すが、既に誰の姿もそこにはなかった。


「見つけた」

「何じゃ、まだ生きておったのか」


声の先にいたのは、白の魔女とクロだった。


2人の事情を聴くに、凄まじい閃光が見えたかと思えば、大地を揺るがす程の大爆発が起こったらしい。


障壁を展開していた場所へ足を運ぶと、そこには直径数kmに及ぶ巨大なクレーターが出来ていた。


どうやら、直接の咆哮には耐え切ったが、その後の誘爆で意識を失ったみたいだな。


魔力も枯渇寸前まで追いやられていたし、生き残ったのは運が良かった。


しかし、奴は何処に行ったんだ?


指定把握を使うと、既にこの近くにはいない。

と言うより、サモナの反応がない。

ガストとの戦闘が始まった直後から姿が見えなかった。


!?


「ん、どうした?」


俺の顔色の変化を察した白の魔女が、訝しげな表情をする。


「仲間達が別の7大魔王の近くにいるみたいなんだ」


ミラを送り届けに行ったユイ達の近くに7大魔王が一人、ユリシアの反応がある。


(ユイ、応答してくれ、大丈夫か?)


遠距離通信用の魔導具で呼びかけるも反応はない。

ユイ達自身の反応も確認出来る為、まだ最悪の事態にはなっていないなずだ。


くそっ!何故気が付かなかった!俺のバカ野郎っ!

7大魔王から遠避ける為に別行動を取ったってのに!


「ふむ。場所は何処じゃ」

「……場所はマルガナ国から南西800kmの辺りかな」

「マルガナなら確か儂の転移リストにあったな」

「それはどういう?」

「じゃから、お前の仲間とやらの何処へは儂が行ってやろう」

「いや、有難いですけど、俺が直接…」

「お前は金色野郎を何とかせえ。連れが後をつけているはずじゃ」


連れって誰だ?

あぁ、スイか。そういえばスイがいないな。

サモナの居所は分からないが、スイの居場所なら分かる。


「いいか?戦闘と言うのは相性がある。余程実力に差があれば別じゃが、拮抗していれば勝敗は相性によって簡単に傾くんじゃ」

「俺とあの金色野郎とは相性が良いと?」

「ああ、少なくとも儂よりは良いと思うぞ?」


大切な仲間を他人に託すのは少々思うところはある。だが、相手は仮にも最強の魔女。エスナ先生ですら恐れている魔女だ。実力にしても俺よりも断然上だろう。

俺が向かうよりも安心出来る。


「分かりました。仲間達を、くれぐれも宜しくお願いします」


頭を深々と下げて懇願する。


「ああ案ずるな。儂に任せておけばいい」

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