第259話: vsガスト3
ガストのHPは残り半分程度まで削れていた。
これもジラやユイのおかげだ。
残り半分。
奴に魔術は効かない。
魔術師の俺にとっては絶望的な相手だ。
故に物理攻撃で攻める以外ないのだが、俺が聖剣で叩きつけただけでは、傷一つ付かなかった。
防御力も相当に高い。
先程のガーディアン戦の時のように|全てを貫く刃(クリスタルブレイク)で仕留める以外に現状手はない。
だが、その前に対処すべき問題がある。
それはスピードだ。
奴の速さについて行けなければ、俺に勝ち目はない。瞬身(アンリミテッドポテンシャル)だけでは、奴の速さを目で追うのがやっとだった。
だが策はある。
そんな俺の内心を知ってか、ガストは真っ直ぐ突進を始めた。駆け出しはゆっくり、だがすぐにトップスピードになる。
その鋭い角を前面に押し出し串刺しにするつもりだろう。
《疾風迅雷》
奴のその目にも留まらぬ速さが……見える!
ガストの猛進を余裕(・・・)で躱すとその巨大な腹に|全てを貫く刃(クリスタルブレイク)を穿つ。
圧倒的な防御力など関係ない。
絶対の前の理不尽さを知れ!!
|全てを貫く刃(クリスタルブレイク)を喰らうも猛進の余波でガストはそのまま森の奥へと消えていった。
よし!
今の一撃で殆どのHPは削れたな。
すぐに後を追う。
この疾風迅雷は、常時ダメージを負うのか。
身体も少し痺れている感覚だ。
クロに聞いた話だと、確か解除すると凄く疲れて眠くなるって言ってたな。
これを解く時は、奴を倒した時だ。
それまで俺の身体、持ってくれよ。
ガストは大量の血を流していた。
しかし、倒れる事なく、此方を睨みつける。
やば!
転移でサモナの背後に退避する。
あぶねえ!例のMPを強制零にするあのスキルを使いやがった。
それだけ奴も必死って事か。
すぐに退避した為、どうやら効力は発揮しなかったみたいだな。
もう一発喰らいやがれ!
再び|全てを貫く刃(クリスタルブレイク)を背後から穿つ。
しかし、今度は躱されてしまった。
そう簡単にはやらせてくれない。
ガストが地団駄を踏むと、それが衝撃並となりて大陸全土をも揺るがす巨大な地震が発生した。
かつて地震大国と呼ばれるとこに住んでいたが、こんなに大きな且つ大規模な地震は体験した事がない。
ていうか、ヤバい。
上空へと退避しようとするが、何故だか足が大地から離れない。
ガストの両目が怪しく光る。
おい!そこでMPドレインはないだろ!
くそっ!
揺れに必死に耐えていた所にMP欠乏による脱力感が襲う。
はぁ…はぁ…ヤバい。
こんな右も左も上も下にいるのかさえ分からない状態でポーションなんて飲めるはずもない。
何だあの光は?
正面。ガストがいた辺りから光がどんどんと収縮していくのが視界に入る。
ガストが口を広げて・・・って嘘だろ!こんな状態で避けられるかよ!
魔力切れで天翔もましてや転移も使えない。
かっこ悪いがローリングで転んで避けるしかない。
などと考えていると、何かがガストに体当たりする姿が見える。
「ユウ様!大丈夫ですか!」
救援に駆けつけてくれたのは、先程エルフの里プラメルに運んだジラとクロだった。
意識を取り戻して転移で助けてにくれたのか。
クロの攻撃によりガストは地団駄をキャンセルし、クロの対処を余儀なくされた。
疾風迅雷により僅かづつだが、確実に残り少なかったHPが削られ、そのまま抵抗虚しく大地へとその巨体を横たえた。
サモナによって召喚されたモンスターは、死ぬと塵となって消えて行く。
颯爽と単身で乗り込み、結局ピンチに陥り仲間に助けてもらう。
ははっ、我ながらカッコ悪いな。
揺れによりまだ足腰がおぼつかない俺をジラが抱き締める。
「無事で、間に合って良かったです…本当に」
トドメを刺したクロもこちらへと戻って来る。
そのまま二人を抱き寄せた。
突然の俺の行動に二人が動揺する。
「二人とも助かったよ。過信していた訳ではないけど、今回の敵は俺一人じゃ到底倒せる相手じゃなかった」
「ユウ様、私達は仲間です。仲間とは共に命を預け預かる事の出来る間柄です。もっと私達を頼って下さい」
「そうだな。2人は信頼しているよ。これからも頼むぞ。クロもな」
(ユウごめん。しくじったよ)
念話で連絡してきたのはスイだった。
(しくじったって、一体何があった!今何処にいる?)
念話から正確な座標が脳内に浮かんできた。
知らなかった。念話にこんな使い方があったのか。
その後呼び掛けてもスイから返事が来る事はなかった。
「2人とも悪いけど回復したらすぐに次に向かうぞ」
2人を伴い、スイの反応のあった場所へと向かった。
急ぐ為に空中を移動している。
「気のせいでしょうか、何だか寒いですね」
「うん、寒い」
この辺りは、樹木が生い茂る密林なのだが、それを上から眺めつつ、少し先の方から景色が一変していた。
「凍ってるな」
「凍ってますね」
「凍ってる」
まるで突然氷河期でも訪れたかのような惨状になっていた。
これは、スイの使う氷結世界(フリージングワールド)か?
にしては範囲が広すぎる気がする。
見渡す限りの全てが氷土化していた。
スイが送ってきた座標はまだ先だ。
「急ごう」
さっきから範囲探索(エリアサーチ)に赤い反応がある。
2人を制止させる。
「あそこに何かいる」
俺の指差す先をジラとクロが視線を送る。
「あ、あれは一体何ですか…」
ジラが唖然としていた。
と言うのも目の前にいたのは、まさに氷の世界に立つ氷の巨人そのものだったのだ。
巨龍にも引けを取らないそのサイズに一瞬思考が止まる。
敵だよな、あれ。
ストレージから取り出した小石を地上へと落とす。
すると、地面に落ちた瞬間、その小石は凍り付いてしまった。
「どうやら地に足をつけると一緒で凍ってしまうみたいだな」
「問題ありません。空中戦はお手の物です」
「どっちも得意」
「どっちと言うと俺は飛びながらは苦手だな…って、構えろ!来るぞっ!」
氷の巨人は、こちらに向かってブレスを撃つ。
ジラが氷の巨人の背後に転移し、雷の一撃を放つ。
脳天を直撃した電撃が巨体の全身を覆い尽くすように駆け巡る。
しかし、それを物ともせず、次なる攻撃を繰り出した。
《氷の一撃(アイスインパクト)》
氷の巨人が地面にその拳を叩きつける。
大地が揺れる。
空間が揺れる。
その後の光景はまさに信じられないものだった。
空間全てが凍った。
文字通り、見渡す限りの空間全てが巨大な氷の塊のように凍り付いた。
氷の巨人は、大地中に含まれる水分を凍らせたのだ。
それはまさに不可避の攻撃だった。
俺は空間が揺れた時点で咄嗟に展開した障壁のお陰で氷漬けを免れた。
凍るのを見てから展開したのでは恐らく間に合わなかっただろう。
側にいたクロも一緒にいる。
辺り一面氷に閉ざされ、周りの景色は見えなかった。
急速に俺のMPが減り続ける。
周りの氷の圧力で、絶えず障壁の耐久値が削られていた。
このままじゃ無駄にMPを消費してしまう。
「クロ!こっち来い!転移で離脱するぞ!」
クロの肩を掴み転移でこの場を離れる。
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