第255話: 魔人との攻防

魔人アスモデウスの目が怪しくギラリと光る。

その眼を見た瞬間、身体を何かが駆け抜けたような妙な悪寒が襲った。

途端に隣にいたスイが不自然な形で止まってしまった。


そこに狙いを定めて放たれる漆黒の風。

亜界より取り出したる亜界の風は、触れた物を呑み込み切り裂く風でもある。

その色は中が見えない程に色濃く、スイ目掛けて襲い掛かる。


《障壁》


「おい、スイ!ボサッとするな!死ぬぞ!」


しかし、俺の決死の呼び掛けにも全く反応がない。

その様はまるで、石化にでもなっているよう、いや、時を止められているようだった。


おいおい、冗談だよな?

時を止める?反則だろ。


俺にはしてこないのか?それとも俺には効かないとか?


魔人がその翼を羽ばたかせ、宙に舞う。


右手を天に向け、何やら詠唱を始める。


何をする気か知らないが、そんなものを待ってやる程お人好しじゃないんでね。


雷神の矛トールスピアー


眩いほどの紫電を帯びた長さ3m程の槍が出現する。


失われた魔術ロストマジックの一つで、実際に使用するのは初めてかもしれない。


跳べ貫け。


魔人へ向けて投擲された槍は、まさに電光石火の如き速さで魔人の胴体を分断する。


そのまま槍は、残光を残し虚空へと消えた。

常人ならば、光の線が駆け抜けて見えた程度だろうか。


やったのか?


依然として魔人は、宙に浮いたままで何事も無かったかのように、詠唱を完了させる。


辺り一帯が暗くなる。

当然の事ながら雲に隠れたわけでも夜になったわけでもない。


まるで亜空間からでも出したかのように、頭上には空を覆い隠す程の巨大な岩石が出現した。

魔人は挙げていた手を勢い良く降ろした。


巨大な岩石が地表へ向かう。


両断したってのに止まらないのか!

くそっ何考えてやがる!


あんな物があんな速度で地表に落ちたら、この辺りどころかこの大陸が消し飛ぶぞ!


スイを抱えて転移するのは簡単だ。

だが、それだと・・


最善の策は、あれしかない。


《ディスペル》


スイに解除ディスペルを行使する。


スイは違和感を感じたのかキョロキョロと辺りを確認し、自分の身に起きた事を探るかのように身体をペタペタと触っていた。


どうやら成功みたいだな。


「スイ時間がない!上を見ろ!あれをお前の別次元に運べるか?」

「おいおい、なんだいあれは。星の残骸かい?まぁ、答えはイエスだよ」


スイは迫り来る巨大岩石まで瞬時に移動すると、まるで手品のようにそれをかき消した。


地上へと戻って来たスイに歩み寄る。


「流石だな」

「はぁ、あっちの僕の世界が消し飛んだよ。ユウ、これは高く付くからね」


談笑していると、この場の空気が一瞬で凍りつく。

勿論それは、スイのせいでもユウがやった事でもない。


文字通り、周りの景色が凍り付いていく。


足元を氷で捉えられないよう、二人は浮遊する。

まるで、急に氷河期が訪れたかのように目に見える範囲の全てが凍る。


いつの間にか、戦いを終えてクロが戻って来た。

傷を治癒ヒールで癒す。

服もボロボロだな。


「あれ」


クロが指差す先には、5体満足の魔人がいた。

胴体が千切れていたはずだったんだけどな、不死身か?


「どうやら眼を見たら時間を止められるらしいね。魔術無効のユウには関係ないだろうけどね」


やるな、状況把握だけで奴の魔術を見抜くなんてな。


「だけど、魔術による停止だったからディスペルで解除は出来たよ」


ディスペルはスイも会得している。


「ん、眼を閉じて戦う?」

「いや、眼を閉じたら戦えないよ。だからこういう時は足元を見て戦うしかないね。足元だけで相手の動きを判断するんだよ」

「簡単に出来る芸当じゃないだろ」

「だね、それとユウ。キミはあの金色野郎を追ってくれ。あの娘を連れてどこかへ消えたみたいだよ」


!?


本当だ。


氷漬けで封印されていたアリシアがいなくなっている。


「あの魔人をやれるのか?」

「誰に物を言ってるんだい?と言いたい所だけど、そう簡単な相手ではなさそうだけどね。それにこの子にも手伝ってもらうよ」


スイはクロの肩をバンバンと叩く。


「子供扱いしないで」


その手を振りほどき、そのまま俺の所に駆け寄る。

俺にされるのはいいけど、他の人は駄目なのね。


クロの頭をワサワサっと撫でる。


「クロはいけるか?」

「ん、本気だす」


再度クロ頭を撫で、可能な限りのブーストをかける。


「じゃあ、2人とも頼むぞ」


サモナの居場所を確認すると、そのまま転移する。


どうやら高速で地上を走っているみたいだな。

いや、大型のモンスターの背に乗ってるのか。

もう一人、やはりアリシアも一緒か。


まずは動きを止める。


石壁ロックウォール


進行方向に巨大な壁を生成する。

しかし、モンスターは左に右に華麗に石壁を躱していく。

止まらないか。


ならば広範囲魔術を・・・いやそれだとアリシアに当たってしまうか。いや、動きを封じるだけならば。


転移でモンスターの直線上に移動する。


全範囲重力エリアグラビティ


こればっかりは、地面に手をつけないと発動出来ないんだよね。

当然の事ながら威力はかなり抑えている。


前方を対象とした広範囲の重力がサモナ達を襲った。


よし、予想通り、四足獣の動きが止まったぞ。

威力を落とした重力グラビティでも、あの大型モンスターには相当効いているはずだ。

身体のサイズが大きければ大きい程に単一面積辺りに掛かる重力量が蓄積され、身体への負担は大きくなる。


さて、まずはアリシアを返して貰うぞ。


天翔で姿を消したまま、アリシアを掴み転移する。


よし、上手くいったな。

転移先は、ジラの待つユミルの砂宮だ。


「ジラ、この子を頼む」

「え、ユウ様!?分かりました。それで、魔王は?」

「いや、まだだ。もう一度行ってくる」

「気を付けて下さい」

「ああ、それともしかしたらまたアリシアを奪いに来るかもしれないから守ってあげてくれ」

「分かりました。全力で」

「頼む」


サモナの場所までもう一度転移する。


移動しているのかと思いきや、先程の場所から全く動いていなかった。

移動に使っていた巨大モンスターは居なくなっている。


「キミは確か、ユウとか言ったかな。やってくれたね」

「人質なんて無粋な真似は無しだぜ。さて、もう逃がさない」

「それはこちらのセリフだよ。キミは色々と目障りになりそうだから、ここで消えてもらう」


またしても何かを召喚するのかと思いきや、単身サモナがこちらに突っ込んでくる。

その身体からは金色のオーラを発している。


その神々しいまでの輝きに目を奪われそうになるのを堪え、全範囲重力エリアグラビティを放つ。


「同じ技が通じると思うなよ」


サモナは上空に退避する。


安易な考えだったな。悪いがそこも効果範囲内なんだよね。


上方向へと伸びる重力包囲網がサモナを捉え、地上へと引きずり落とす。

一瞬、苦虫を潰したような表情を見せた後、そのまま地面へと縫いつける。


《エレメンタルボム》


サモナに着弾するかと思いきや、サモナを護る為か、

一体のゴーレムのようなモンスターが出現し、主を身をてしいて護った。


本来ならば、重力グラビティ発動中は、他の魔術を使用する事が出来ないのだが、ユウは限界突破してからそのリミッターが外れ、、み重複使用出来るようになっていた。


「くそがっ!」


サモナはもがくが、超重力の前に逃れる術は無かった。


絶対的な有利な状況下であろうが、油断はしない。

相手は異世界の魔王。

格上の存在だと認識し、用心し過ぎるくらいで丁度いい。


どうやらその場から動けないまでも、従えているモンスターは呼べるのだろう、次から次へとサモナを護る形でその周辺に召喚されて行く。

その殆どは重力グラビティの影響下で動けていないが、何体かはこちらに向かい突進してくる。


全範囲雷撃ライトニングレイン


ありったけの魔力を込め、発動させる。


数多の落雷が目の前のモンスターに向かい飛来する。

その様はまさに地獄絵図のように容赦なく動けない者にまで致死性の一撃を与え、1体、また一体と地に伏せて行く。


グッ・・・、、一瞬ふらつくのを堪える。

魔力の使い過ぎだな・・


ストレージから魔力回復ポーションを数本取り出すと一気に飲み干す。


継続で使用している全範囲重力エリアグラビティによる魔力減算がヤバい。

チート仕様なだけあり、ゴリゴリと魔力を消費していく。

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