第253話: 霊獣フェンリル
「あーあ、酷いことするなぁ」
スイの薙ぎ払いにより、ワームビーストは真っ二つとなった。
しかし、サモナは無傷だ。
華奢な身体をしていながら己が肉体の硬度だけでスイの一撃を止めたのだ。
スキル:鋼体化
サモナは従えているモンスターの技を限定的ではあるが使用する事が可能だ。
「硬いね、これならどう?」
《
サモナ諸共周囲一帯を一瞬の内に凍らせる。
これはマズいな。
クロを抱えて一緒に離脱する。
《
続け様に放たれた数多の落雷がサモナを襲う。回避不能な攻撃のはずだった。
しかし、凍り漬けのサモナに直撃する事は無かった。
サモナの前に突如として現れたのは巨大なハリネズミのような出で立ちをしたモンスター。
そのモンスターはサモナを守るように覆い被さる。
「どっから現れたんだ?」
ハリネズミは、先程のスイの魔術を背中の針に帯電させていた。
帯電され増幅された千光雷鳴が俺達3人を襲う。
「クロ避けろ!!」
まさに豪雨のように降り注がれる雷撃に、障壁の展開が間に合わない。
ハリネズミは一つの能力しか使えない。
《
相手が放った電撃系の魔術を背中の針に蓄え、数倍の威力にして相手にそれを返すカウンターだ。
凄まじく限定的な能力だが、成立すれば恐ろしい事この上ない。
衝撃により発生した雷熱が周り一帯を煙で包み込む。
雷熱により、氷漬けにされていたサモナが復活する。
ちっ!くそ!クロは無事だろうな!
俺は着弾の瞬間、
視界まで最悪だな。
スイの奴は心配ないだろう。
早くクロを探さないと。
反応はこの中か。
なるほどな、地面に逃げ込む事で雷撃を回避しているのか。
さしもの電撃も地表をちょっぴり焦がす程度で、その後は大地アースで霧散しているようだ。
これなら大丈夫そうだな。
にしてもいつまで続くんだ、この雷の嵐は?
仕方ない、本体を叩くか。
動こうとしていた丁度その時、降り注いでいた雷がついに終わりを迎えた。
「全く、痺れるじゃないか」
巨大なハリネズミの身体が真っ二つになっていた。
スイがやったのだろうが、あの落雷の雨の中、殆ど無傷に見えるのは、やはり流石だな。
生身だったら、俺でも相当なダメージを負っていたはずだったろう。
「ユウ、無事?」
地面から出てきたクロは、土まみれで折角のクールさが台無しだった。
それに状態が麻痺となっている。
「ああ、俺は大丈夫だ。それより・・」
スイとサモナは睨み合っている。
「ねえ、これから命のやり取りするんだし、自己紹介しようか。僕の名前はサモナ。金獅子のサモナだ。異世界から来訪した魔王でもあるね。で、敵対してるって事は敵認定していいんだよね?」
「スイだ」
え、それだけ?
まぁ、お前らしいけど。
「クロ」
「魔族のジラです」
いや、お前達もか!
自己紹介って言うのはだな。いや、まぁ、ただ長く言えばいいって訳じゃないけどさ。
「冒険者のユウだ。お前達7大魔王を狩る者だ!」
そう、これくらいは言ってやらないとな。
何故か、3人がこっちに顔を向ける。
何、変な事言ったか?
「へー、僕が7大魔王だと知っていて敵対するのか。なら話は早いね」
サモナは、瞬き一つの動作で、自身の左右に2体の全身甲冑の人物を召喚した。
それぞれが対照的な色をしており、一人は漆黒の鎧を見に纏った人物。
もう片方は淡い赤色の鎧を見に纏っていた。
姿形は同じなれど色味だけが異なった二人。
スイが後方へと退き、彼等から距離を置く。
「気を付けてユウ。あの鎧野郎、何か嫌な感じがするよ」
「お前が警戒するなんて珍しいな」
チッ、
敵の強さは未知数。
魔術やスキル構成でも分かればまだ対策の打ちようがあるんだけどな。
戦闘が始まってしまう前に聞いておきたい事を相手に尋ねる。
「戦う前に一つ聞きたい」
「何?僕はこう見えても忙しいんだけど」
「その氷漬けにされている女性は何?」
ユミルの砂宮の領主の娘である事は間違いない。
わざわざこんな辺境の場所を襲ってまで彼女を手に入れる必要があったのなら、その理由が知りたい。
それにあの氷。ただの氷じゃない。あれだけ魔術が飛び交っていたのに傷一つついていない。
たぶん、封印に近いものだ。
そうまでして守る必要がある理由は何だ?
「あーあ。ザザルから報告を受けていたのはこの娘か。ふむふむ。なるほど、確かに悪くない輝きだね」
「どう言う意味だ?」
「死にゆく君たちに教える通りはないけど、まぁあれだよ。僕がこの新たな世界でも魔物の王となる為の鍵かな」
スイが不意打ちでサモナへ斬撃を放つ。
しかしそれは全身赤色甲冑に阻まれて掻き消える。
特に何の動作もなくただ受け止めただけに見えたんだが、何か仕掛けがあるのだろうか?
どちらにしても、あっちはスイに任せよう。
現状、俺たちの中で一番強いんだ。まさかと言う自体もないと信じよう。
「クロにはあの黒い奴を頼めるか」
クロは最大限の威圧を込めた睨みを黒鎧に向ける。
黒鎧も己が敵をクロと見定め、サモナから距離を置いた。
「分かった」
クロは魔王様直伝の身体強化を使用する。
その上から俺も身体強化を施す。
「頼むぞ。だけど無理はするなよ。危なくなったら逃げる事を最優先にな」
「ん、大丈夫。負けないから」
頼もしいな。
さて、俺も本気で行かないとな。
相手は7大魔王だ。悪いけど最初から本気で行かせてもらう。
《
これを発動中は魔力をゴリゴリ削られるが、余程の事がない限り遅れを取ることはないだろう。
俺が動きを見せると同時にサモナは新たなモンスターを召喚した。
その大きさに思わず天を見上げる。
デカいな。
体長5m程の巨大な犬が出現した。
目が血走っており、息が荒い。
時々口から白い息を吐き出している。
目に留まったのは紺色のツヤツヤした毛並みだろう。
触ればきっと極上のモフモフが堪能出来そうだ。
まぁ、触ろうと近付いた瞬間に喰い殺されそうだけどな。
こいつも異世界から連れて来たモンスターか。
「君の相手はこのフェンリルがするよ」
何?フェンリルだって?
俺でも知ってる名前のモンスターだな。
確かフェンリルって北欧神話とかに出て来る巨大な狼だったよな。
てことは、犬じゃなくて狼が正しいのか。
!?
って、変な事考えている場合じゃない!
フェンリルは突然姿を消したかと思えば背後からその巨大な牙を剥き出しにし、噛み付こうと押し迫る。
すんでの所でジャンプしてそれを躱すと、お返しとばかりに
デカいから攻撃は当てやすい。
しかし、着弾の直前にまたしてもフェンリルが消えた。
姿を消したんじゃない。
転移か?
フェンリルは頭上から大口を開け、火炎を放っていた。
あれは魔術じゃない。
つまりは、
空中で障壁は使用出来ない。
ならば・・・
《
相殺を狙って撃ったにも関わらず、相殺仕切れずにもろに受けてしまった。
衝撃で地面へと叩きつけられる。
中々のダメージを負ったが、すぐに
フェンリルの姿を探すも、またしても視界内にはいなかった。
地面が揺れ、地割れができ、その中からフェンリルが大口を開けて現れた。
悪いが、一瞬俺の反応が早かったな!
喰らえっ!
《エレメンタルボム》
フェンリルの大口目掛けて撃つ。
そのまま3発叩き込むと、よろけながらも転移で後方へと離脱する。
「逃すかよ。転移が使えるのはお前だけじゃないぜ」
フェンリルの背後に転移した俺は、ストレージから取り出した聖剣アスカロンを縦一閃に薙ぎ払う。
硬いな・・・。
本気で薙ぎ払ったにも関わらず、皮膚少々切り裂く程度しか出来なかった。
フェンリルの足元に魔方陣が展開されたかと思うと、無数に出現した石の刃が俺目掛けて放たれた。
悪いな。
生憎と俺に魔術は効かない。
そうとは知らないフェンリルに対して、僅かばかりの隙が生じる。
《
悪いね、このチャンスを見逃してあげるほどお人好しじゃないんでね。
まるで炎の柱に貫かれたようにフェンリルの腹部に巨大な火柱が突き刺さる。
灼熱の業火が触れる物全てを一瞬の内に蒸発させる。
それは、フェンリルとて例外ではなかった。
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