第252話: 金獅子のサモナ

金獅子のサモナ


僕がそう呼ばれる所以は幼少期の生い立ちに起因していた。


まだ赤子だった僕は産まれてすぐに親に捨てられた。

それは、僕がただ金色の髪をしていたからと言うくだらない理由からだ。


その当時、金色というのは禁忌とされ、忌み嫌われていた。

特異な点は髪以外にもあり、僕は産まれておぎゃーとなるその時から意識がハッキリとしていた。

普通ならば物心つくのは2年、3年と必要なはずらしいが、どうやら僕は特別なのだろう。

話している言葉もすぐに理解する事が出来た。

しかし、逆にそれが仇となり人の醜い部分までもを理解する事が出来てしまった。


「禁忌の子は即刻処分した方がいいわ」

「そうだな、じゃないと俺たちの命が危ない。子供なんてまた作ればいいさ、いくらでも変えが効く」


実の両親が我が子に向ける言葉じゃない。


僕は生後半年程で魔境と呼ばれる場所の入り口に捨てられた。

言葉は理解出来ても発声器官が未熟な為、声を出す事はおろか、歩く事すら出来ない。


乳飲み子がだった一人で生きられるはずもなく、動けぬまま、水さえ飲めずに3日が経過した。

そうして僕は死を受け入れた。


しかし、そこに何かが近付いてくる気配を感じた。

最初はボンヤリとしたものだったが、次第次第にそれが強くなる。

既に目は閉じている。ここは周りを林で囲まれており、日の光など届くはずもない。

にも関わらず太陽のような眩しさを感じ、瞼の重みと葛藤しながらも薄く目を見開開いた。


そこに居たのは1匹の魔物。


金色に輝くその魔物は、神々しくさえ感じられた。


その魔物は器用に僕を口にくわえるとそのまま何処かへ駆けて行く。

恐怖を一切感じないのは何故だろう。

既に死を受け入れた身。何が起きても些細な事ですらないのだと最初は思っていた。


だが違った。


恐怖を一切感じなかったのは、恐怖とは真逆の本来なら親が子に向けるような愛情。

そう、愛情を感じていたのだ。

目の前にいるのは確かに魔物だが、少なくともこいつは、僕を襲う気はないようだ。

それに安心したのか、そこまで思考を巡らした所で、空腹と衰弱によって意識を失った。


理由も分からぬまま、僕はその魔物に育てられた。

金色の魔物は、この辺り一帯に住む魔物のリーダーをしており、何処に行くにも一緒だった。

魔物達が話している会話を聴くうちに次第次第にその内容が理解出来るようになっていった。


後で分かった事だが、どうやら僕は魔物に好かれる性質があるようで、そのおかげでどんな魔物ともすぐに仲良くなった。

だが、当時の僕はそれがリーダーである金色の魔物の保護下にある為だと思っていた。


いつしか時は流れ、僕が10歳を迎えた頃、不意にその出来事は起こった。


人間どもがこの魔境を開拓せんと攻めてきたのだ。


本来人間である僕は、魔物達と共に攻めて来た人間供と戦った。

自分の種族など関係ない、産まれて今まで育ててくれた魔物達の事をいつしか本当の家族、本当の親だと感じていた。


魔境は平和だった。


今日までは。


人間達が大軍を率いて魔境へと攻め入って来たのだ。

争いなど産まれてこの方目にした事はなかった。

だけど分かる・・みんな強い・・。


魔境と呼ばれる所以は、誰も足を踏み入れないと言う事。つまりはそれ程までに魔境の住人即ち魔物が強いという事だった。


人間側も恐らく相当腕が立つのだろうが、生憎と力の差があるせいか、攻め込んでも攻め込んでもそのことごとくが打ち倒されていく。

当初こそ戦力差が倍以上あったにも関わらず今では、逆に魔物側が倍以上優っていた。


そんな中、人間側に一人の人物が現れた。

明らかに異彩を放つその男は、たった一人で此方へと向かってくる。

恐らくは人間達の切り札であろう。


人々から勇者と呼ばれていたその男は、バッタバッタと魔物を斬り伏せていく。

理不尽なまでの威力の魔法に100を超える魔物たちが一瞬に灰と化していく。

しかし、その顔には疲労が伺えた。


その光景を少し離れた安全な場所で見ていた僕は、僕自身の中に何とも言えない感覚が沸き起こり、やがてそれが同胞を仲間を家族を殺された怒りの憎しみだと考え始めるのにそんなに時間はかからなかった。


そんな最中、決定的な出来事が起こった。


金色の鬣をなびかせながら、勇者の前に立ちふがった1体の魔物。名はガスト。

そう、僕を今まで育ててくれた親と呼べる程の存在だった。

ガストは念話を使って勇者へとコンタクトを取った。

念話は基本的には一対一のやり取りの筈が、何故だか僕にも聞こえてくる。


それは、代表同士の一騎討ち。

周りは手は出さない。

どちらかが死ぬまでの正々堂々の決闘だった。

ガストはある条件を出した。


仲間には手を出すな。


代表同士の一騎討ちでこの戦いの勝負を決めよう言うものだった。


ガストは強い。

普段から一緒にいてその強さはよく知っていた。

あの勇者も確かに強いとは思う。

だけど、ガストには勝てない。

勝つのはガストだ。

僕は疑いさえしていなかった。


しかし、一騎討ちが始まってすぐにそれは裏切られた。


僕は声に出ない叫びを上げる。


敢えての一騎討ちを意識させ、周囲への警戒を怠っていたガストにまさかの多人数による集中砲火が浴びせられた。


そんな姿を見た魔物たちはガストを援護すべく駆け出すが、ガストは一言仲間たちに告げる。


「手出すよなお前ら!一度口にした事を俺に曲げさせるつもりか?」


ガストは、愚直なまでに律儀だった。

それは当然仲間たちも知っている。

たとえ相手が一方的にそれを反故にしようが、その気持ちは揺るがなかった。

それでもガストは前だけを、勇者だけを見据えて牙を振るう。

これだけのビハインドを負わせてもまだガストの方が優勢だと勇者は焦り、あろうことか人間達は周りで待機していた魔物らを襲うように指示を出した。

不意打ち紛いな卑怯な手を使われ魔物らは次々にその数を散らしていく。


数の減ってしまった魔物達を今度は数の暴力で一体、また一体と駆逐していく。

その様を見たガストは、けたたましいまでの咆哮を上げる。

この大陸全土に轟くのではないかと思うほどの声量に、戦場が一瞬停止した。


その隙を勇者は見逃さなかった。

不意打ちを狙った勇者の聖剣が、ガストの金色の身体を貫通していたのだ。


聖剣には魔物を弱体化させる効力が備わっており、斬られただけならまだしも、身体に直に刺されれば、流石のガストもただ命を吸い取られるのを抵抗も出来ずに待つのみだった。


ガストの巨体が地面へと崩れ落ちる。


「アアアアアアァァァ!!!!」


気が付けば僕は走り出していた。


そこからの記憶は正直曖昧で、気が付けば僕の前には、あの勇者が血を流して倒れており、僕の隣には倒れたはずのガストの姿があった。


スキル:ビーストマスター

称号:魔物の長


それと同時に見慣れないスキルと称号をいつのまにか獲得していた。


人間達は、最大戦力だった勇者が倒れた事により、蜘蛛の子を散らす用に去って行った。


魔境は辛くも守られ、以後襲われる事はなかった。


正確に言えば、今回勇者を差し向けてきた国を調べ、その国を魔物達に襲わせ滅ぼしたのだ。

あの日以来、何故だか魔物達は僕にこうべを垂れ、何でも言う事を聞くようになった。


それから10年が経過した。


僕は魔物の王として、いくつもの人間の国を滅ぼした。

そんな中で、彼等と出会ったのだ。


人間を支配し、理想の国を作る。

あの人の思想は最初こそは理解出来なかったが、一緒に行動していく内に段々と彼等といるこの場所での居心地が良くなり、共に歩みたいと思えるようになった。


世界が滅び、異世界へと渡った僕達は、別々に行動を開始する。


世界各国を回り、屈強な魔物を集め、交配し、僕と化し、己が戦力を整えた。

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