第251話: ユミルの砂宮

ユウ視点


精霊ネットワークにより、ここユミルの砂宮が襲われていると言う情報を掴んだ俺たちは、閑散とした街並みで情報収集をしていた。


地面が砂の街って言うのも中々にファンタジーかもしれない。

歩くたびに砂に足を取られるので、移動速度は勿論の事、走ったりすると、転んでしまいそうになる。


「攻めてきたのは人じゃあねえ、モンスター共だ。しかし、あんなモンスターはこの辺りでは今まで見た事がねえな」

「それはどれくらいの数だったのですか?」

「10や20じゃきかねえ。少なく見積もっても100体以上はいたんじゃねえか。その迫力と言えば半端なかったぜ。何処へ逃げても無駄だと思える程にな。モンスターを従えた魔王と言う存在がいるなら、きっとあんな感じなんじゃねえか?」


妙だな。

何故攻め入ったのに、モンスター共はすぐに引き返したのか。

誰かが撃退したわけでもなく、急に踵を返して引き返して行ったらしいし。

尚も聞き込みをしている中で、重要な情報を知る者と出逢えた。


「全てはお嬢様のおかげですじゃ」


このユミルの砂宮で占いをしていると言う老婆で、見た目は70越えのいかにもな感じの衣装を身に纏っている。

茶色のローブを深々と目元まで覆っている。


「お嬢様が自ら犠牲となりモンスターを率いてやって来た者と交渉したんじゃよ。私の命を捧げますのでどうかこの国には危害を加えないでとな」


ここに来てお嬢様登場か。

やはり俺は王族とか身分の高い人物と言うものに縁があるようだ。


「それで、そのお嬢様はどうなったのですか?」

「連れて行かれてしまったようじゃな」


(ノアどうだ?)

(んー嘘は言ってないみたいだね)

(嘘ではないか。でもいまいち状況が分からない。お嬢様の家はこのユミルの砂宮の領主らしいから、一度領主家まで足を運んで聞いてみる必要があるな)


老婆に領主家の場所を聴き、その足で向かう。


門番がいるのかと思いきや、無防備にも前門は開け放たれ、正面大扉も無造作に開いていた。

不用心な気もするが、何かあったのだろうか?

扉の前で声を掛けると、中から執事の様な出で立ちの妙齢な男性が現れた。


「何か御用でしょうか?」


とてもくたびれた感じで目は何だか虚ろだ。

髪もボサボサだし、服装がなければとても執事とは分からない。


「俺たちは冒険者です。この街が大量のモンスターに襲われた件について調査しています」

「そうですか・・冒険者の方ですか・・・すみませんが、お引取りを」


そう言い、去っていこうとする老執事。


はいそうですかって引き下がれないだろう。


ならば、こちらにも策はある。


「待って下さい。俺たちはバーン帝国王様の命にて事態解決の依頼を受けてここに参りました。話を聞かせて貰えないのでしたら、ありのままを王に報告させて頂きますが?」


勿論ハッタリだ。

再び執事は振り返ると、俺たちの姿に改めて目配せする。


「どうぞ中へお入り下さい」


渋々といった感じだが、何とか話だけでもさせて貰える事となった。

ユミルの宮殿と呼ばれているそうだが、そこまでのサイズはなく、むしろ下級貴族邸の方が近いだろう。


少し進んだ先にあった客間へと案内された。

少し待つとメイドが紅茶を持ってくる。


ハーブの良い香りが、この部屋いっぱいへと広がる。

ゴクリと一口飲むと、今度は甘みが口いっぱいへと広がる。

砂糖が少し多い気もするが、どちらかといえば甘党なので、苦も無く平らげた。

暫くすると、先程入り口で対応してくれた老執事が部屋へと入ってきた。


「旦那様は現在警備の者と一緒に外出しております。奥方様は・・・色々と立て込んでおりますので、私が対応させて頂きます」


出来れば父親と直接話がしたかったんだけど仕方ない。

ジラに視線を合わせ、頷く。

後はジラに任せよう。


「では単刀直入にお聞きしますね。娘さんはどちらにいらっしゃいますか?」

「・・・・」


老執事は一瞬目を見開き、ばつが悪そうにジラから目を背けた。


「ねえ、何処にいるの?」


今度はクロが尋ねる。


あれ、そんなの事前の打ち合わせにあったっけ?

まぁ、別にいいけど。


老執事は、大きく溜息を吐く。

暫くして観念したのか再びジラに目を合わす。


「アリシアお嬢様は現在行方不明です」


執事は項垂れて下を向いてしまった。


その後、更に元気をなくした執事に聞いた情報によると、モンスターの大軍を使い押し寄せてきた際、首謀者と思われる人物にお嬢様は無謀にも交渉を行った。

それは、自らの命と引き換えに侵攻を止めて欲しいというものだった。


突拍子も無い話だったが、アリシアの自室に遺書めいたものが書き置きされていたのを鑑みるに、侵攻の黒幕は、どうやら以前からアリシアを狙っていたようで、我が者とならなければ、この街を滅ぼすと言われていたようだ。

勿論アリシアも、そんな話を信用していなかったが、実際に軍隊のような数で尚且つ山のような大きなモンスターを連れてこられれば、信用する以外になかった。

アリシアはドがつく程のお人好しだったのも災いし、街の管理者の娘という位もあったが為、自らが犠牲となる道を選んだ。

黒幕は、アリシアをその手中に収めると、そのまま約束通り大量のモンスターを引き連れ、来た方向へと去って行ったそうな。


このユミルの砂宮の領主である娘思いでもあったアリシアの父親は、すぐに軍隊を連れて捜索に出かけてしまった。

母親は一人娘の身を案じるあまり、泣き崩れ、体調を壊して自室にこもっているのだそうだ。


概要は分かったが、この犯行が7大魔王の仕業かどうかまだ分からない。

俺には7大魔王の居場所を知る術があるが、この辺り一帯にはいないのだ。


少なくとも今回の侵攻の襲撃者と7大魔王とは別物である事は間違いない。

だが、タイミング的には恐らく関わりがあるだろう。


取り敢えずここで聞ける情報はここまでだね。

対応してくれた執事にお礼を言い、領主家を後にする。


「どうしますか?ユウ様」

「そうだね、まず敵を見極める必要がある。スイが先行して探してくれてるはずだから、まずは合流しよう。あ、ジラには別にお願いしたい事があるんだ」

「はい、何でしょうか?」

「またこの街がモンスターに襲われないとも限らない。だからジラには防衛でここに残って欲しい」

「分かりました。クロちゃん、ユウ様をお願いしますね」

「分かった」



ジラと別れた俺たちは、スイの居場所へと向かった。


スイは俺たちに居場所を知らせる為か、禍々しい気配を放っており、すぐにその場所が分かった。


「遅かったじゃないか」


ユミルの砂宮から北西に20km程進んだ樹海の中にスイを発見した。

付近には、砂宮を襲ったのであろうモンスターの残骸が散乱していた。


「悪い、情報収集に手間取ってね」


ん、スイの先に何かあるな。

あれは巨大な・・・氷・・・か?


近付くと、その氷の中に人がいる事が分かった。


「こいつが誰だか分かるか?」


外見的特徴と身につけている衣服から察するにたぶん、攫われたアリシアだろう。


スイ曰く、ここに来た時には既にこうなっていたそうだ。


「あの街の領主の娘だと思う。だけど何だってこんな姿に・・・・それに首謀者らしい奴はいなかったか?」

「うん、美味しく頂いたよ。大した事なかったけどね」


美味しくってお前・・・クロもいるんだ変な事は言わないで欲しいんだが。

そんなクロが、袖をクイクイと引っ張る。


「ユウ、魔王とは無関係?」


クロが少しだけ残念そうな顔をする。

応える為に口を開こうとしたその時だった。


!?


何だ・・・何かが近付いてくる。

とうやら他の二人もその気配を感じ取っている。


「気を付けろよ。どうやら、当たりを引いたらしい」

「ははっ、望むところさ、僕は早くそいつらを倒してユウとの再戦が目的だからね」

「上だ!」


崖上に一人の人影とワームのような身の丈ほどのモンスターの姿があった。


人影の方は鑑定阻害されてしまったが、隣のモンスターには通用した。


名前「ワームビースト」

レベル:42

種族:??

スキル:空間歩行、捕食Lv5

称号:異世界の魔物


移動専用のモンスターか何かだろうか。


「あれぇ、ザザルの気配が消えたと思って駆けつけてみれば、キミたちはだあれ?」


発せられた声はまだ若く幼さを残していた。


月夜に照らされた鮮やかに靡く金色の髪。

見た目の頃は10代前半だろうか。

片目を眼帯で覆い、手には鞭を持っていた。



7大魔王が一人、金獅子のサモナー。


「お前を狩る者。とでも名乗っておくよ、おチビちゃん」

「ん?キミも対して変わらないと思うけど?それと、ザザルを消したのはキミ?」

「ここらに散らばっているモンスターを操ってた奴の事を言ってるなら答えはイエスだね」


サモナーの目付きが変わる。


!?


突然、スイの足元から荊が出現したかと思えば一瞬の内に両手足を拘束してしまった。


「そのまま捥いでやるよ」


隙を突かれたとは言え、元不死の王ノーライフキングの名は伊達ではない。


引きちぎられる寸前に転移で回避したスイは、サモナーの背後に回り、隣の巨大ワーム諸共一閃に薙ぎ払う。

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