第182話: 不死の王討伐10
「たった1人相手にここまで苦戦を強いられるとは思わなかったね。さて、死体を確認して、外の奴らも始末して、本格的に世界征服を遂行するかな」
地面の上から何やら、勝ち誇った気でいるスイの声が聞こえる。
おいおい、俺はまだ負けてないんだけど?
しかし、何故だ。身体が言う事をきかない。
先程の魔術で、相当地中深くまで沈められてしまったみたいだ。
何故だか瀕死の状態だったHPが全回復している。
限界突破の影響で、回復したのだろうか?
他には、特に変わった感じはしない。
最悪、身体的特徴まで変わってしまう事は覚悟していたが、首が動かせないので定かではないが、たぶん変わっていないだろう。
あとは、新しいスキルを覚えていた。
次元転移は、魔族たちが主に使っている短距離長距離どちらでも転移可能な便利スキルだ。
便利なスキルには、何か制約がつきものだが、どうやら使いたい放題のようだ。
しかし、取得して以降に訪れた事のある場所でないと転移出来ないようなので、現時点での転移は、非常に限られている。
ポータルリングが不要になってしまったが、ユイたちでも使用出来るので、無駄にはならない。
限界突破の他の影響も確認したいが、身体が動かないんじゃ確認のしようがない。
取り敢えず、転移で地表まで出るとする。
スイの居場所とは、少し離れた場所へ転移した。
スイは、アースウェーブを使い、地面を掘り返している所だった。
俺の死体でも探しているのだろう。
スイが俺に気が付き、信じられないといった表情を見せていた。
「何故生きている!それにどうやって脱出したんだ!」
「さあね」
地面から這い出て、自分の身体の変化に気が付いた。
まるで重力が半分以下になってしまったかのように身体がフワリと軽い。
身体能力も大幅に上がっていそうな感じだ。
突如、足元に巨大な魔法陣が出現する。
見ると、スイが何かを詠唱していた。
「ボクの魔術の中でも最大火力を誇る
今まで感じた事がない規模の魔力の奔流。
動けないと言っていたが、少し力を入れると普通に動けるんだけど・・。
魔術も行使出来るみたいだし、技の発動に失敗したのか?
直後、天から光が降り注ぐ。
その光はどんどん強くなり、遂には周りの景色さえ見えなくなってしまった。
たまらず眩しさに手で目を覆う。
それにしても、ダメージを全く感じない。
ただの目潰しか?とも思ったが、恐らくさっきから視界の端の方で点滅している魔術完全無効のおかげだろう。
ムー王女と共に訪れた試練の洞窟の死神戦のように、魔術と名の付くものならば、物理攻撃でも無効化された。
つまり、今の俺は直接物理攻撃以外は効かないって事か?
ヤバイいなそれ・・
光のシャワーが収まると、辺りの景色が一変していた。
魔法陣の範囲に入っていた地面が消えていたのだ。
ポッカリと大穴が開いている。
恐る恐る下を覗くと、遥か下の方に薄っすらと地表が見えた。
俺の立っていた場所だけが、破壊されずに残っている。
魔術完全無効ヤバすぎでしょ・・
「ホーリーダウン内では魔術が使えない。故に防御結界を張ることも出来ない。つまり今のキミは、魔術に対して完全なる耐性を持ってるって事になる」
俺の状況を確認したスイが、冷静に解析していた。
多少は驚いているようだけど、少しも焦りの色は伺えない。
逆の立場なら、絶望を感じ、膝をついていたかもしれない。
「どういう訳か分からないけど、そんな奥の手を隠していたなんてね。だけど、魔術が効かないなら、やり方を変えるだけだよ」
スイが一瞬の内に何かを召喚する。
4本足で、黄色のフォルム。背中には、黒い横縞。
その大きな口には、これまた大きな牙が見える。
虎だ。
しかし、体長は30m程はあるだろうか。
デカすぎじゃね?
「この子は、ボクが体内で使役している中では最強の生物だよ。高位の竜族すら簡単に屠ってしまう程にね」
「はははっ、笑えない冗談だな」
「やれ!あいつを噛み殺せ!」
主人に命令された虎が真っ直ぐ突っ込んでくる。
と、思った矢先、消えた⁉︎
探そうにも、レーダーに反応しないじゃん!
辺りをキョロキョロ探していると、何かが近付く気配を感じ、咄嗟に左側へ飛んで躱す。
先程まで俺の立っていた場所が、抉られていた。
どうやら、この虎は姿を消す事が出来るようだ。
俺が言うのもあれだけど、隠れたまま攻撃出来るなんてズルい!
取り敢えず、範囲攻撃で数打ちゃ当たる戦法で行くしかない。
「
自分に魔術が無効なのを利用し、敢えて自分を含めた周りに雷の雨を降らす。
威力が格段に上がっていた。
以前とは、雷の量も比重も比べ物にならない。
こんなの1発でも喰らえば、以前の俺でも即死とまではいかないにしても、それに近いダメージを負ってしまっていたかもしれない。
この空間は1km四方の隔絶された空間だ。
今の俺ならば、その空間全てに雷の雨を降らす事が恐らく可能だ。
同じく姿を消しているスイ諸共、ここで一気に決着をつける事に作戦変更する。
ありったけの、雷の雨を降らせる。
その光景はまさに地獄絵図だった。
もはや、この空間に平地は見当たらなかった。
すぐ近くに、黒焦げ穴ボコの虎が横たわっていた。
スイはどうなったのだろうか?
まだこの空間を維持出来ているという事は、まだ生きている。
しかし、レーダーにも反応はない。
「一体キミは何者なんだ・・」
姿は見えないが、声だけが聞こえて来た。
「さっきまでと魔術の威力が桁違いに違う。手加減していたのか・・」
「姿を見せたらどうだ?」
「悪いけど、今のキミの攻撃を喰らえば、私は死ぬだろう」
「不死なのに死ぬんだな」
「それはキミたちが勝手にそう思い込んでいるだけだ。この世界に不死など存在しない。まぁ、首を飛ばされた程度では死なないけどね」
それを不死って言うんだけどな・・
俺たちは、とんだ勘違いをしていたのか?
スイの圧倒的な力を前に、昔の人たちは、勝手に不死だと思い込んだのかもしれない。
HPがゼロになれば、生物は死ぬ。
それは当たり前の事だ。
どうやらスイも例外ではなかったようだ。
普通は首を飛ばされれば、HPの残量関係なしで死ぬんだけどね。
「取引をしないか?」
「ボクが下等種族如きキミと取引だって?あり得ないよ」
「その下等種族の俺に殺されそうになってるのにか?」
「確かにキミは強い。今まで戦ってきたどの相手よりもね。だけど、キミの攻撃はもうボクには届かないよ」
そして声が聞こえなくなったと思えば、今度は鋼鉄の鎧を身に纏った巨人が現れた。
またしても自分は安全な所からの召喚による攻撃か。
先程の虎で懲りていないと言う事は、こいつには魔術による耐性があるのだろう。
「エレメンタルボム!」
しかし、放たれたエレメンタルボムは、爆発するどころか、着弾する前に掻き消えてしまった。
鉄巨人の周りに魔術を無効化するような特殊な結界でも張っているのかもしれない。
つまり、物理攻撃で倒す必要があるって事だ。
ストレージから、聖剣アスカロンを取り出し、構える。
当然、勇者でもましてや剣士でもない為、剣術スキルは何一つ持ち合わせていない。
あの鋼鉄の身体相手に、果たして傷一つつけられるか怪しい。
鉄巨人は、その巨体とは思えない高速の動きでこちらへと迫って来る。
そして大剣を俺の頭上目掛けて振り下ろした。
その攻撃を剣にて受け止める。
甲高い金属音が辺りに鳴り響く中、妙な違和感を感じていた。
攻撃が軽すぎる。
てっきり、受け止めきれずに、そのまま押し負けると思っていたのに、片手でも余裕で受け止める事が出来た。
そのまま大剣を弾き返し、土手っ腹に慣れない手つきで一撃を与えた。
表面に傷でもつけばと思っていたが、その一撃で鉄巨人を真っ二つに切り裂いてしまった。
大きな音を立てて崩れ去る鉄巨人。
ありえない・・。
今まではこんな事にはならなかった。
限界突破の効力だろうか?
それにしても、この伸びはありえなさ過ぎる。
だから、助かってはいるんだけど・・
「くそっ、物理にも精通しているだと・・・」
今だ!
俺は声のする方目掛けて剣を振るった。
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